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2-1

第二部です

ダークエルフ以外の種族が出てくる予定です

 「・・・さらば、我がニート生活よ!」


 色々な物を始末したり送ったりして、すっかりと物が減った自室のドアで桐生康則は呟いた。





 小学生の頃は神童、中学生では天才、高校では優等生だった彼は大学受験でものの見事に躓き、一浪した挙句なんとか大東亜帝国の一角に滑り込み、結婚式でしか優秀だと言って貰えない成績で、それでも留年はすること無く卒業、在学中に就職が決まらず、就職浪人という建前のニート生活へと突入した。


 「いい子」であった彼に母親は甘く、父親は特に口を出す事もなかったが、そうしたニート生活が1年と3ヶ月を迎えた先日、「来月からそこで働け、話はついてる」と父親に書類を渡された。




 「久保山村って・・・検索ヒット235件って少な過ぎだろ、おい。それもほとんどかなり昔、ってか、これ廃墟マニアのブログだし・・・住人居るのに廃墟扱いかよ・・・一番、最近のは・・・『ダークエルフ嫁』? 田舎に引き篭もってる妄想オタ?」


 パソコンの検索サイトで検索してみたはいいものの、情報の少なさとその変な具合の偏り加減にかなりげんなりとする。


 父親から渡された書類、「事務・現地作業補佐、各種手当て、社会保障、独身寮有り、年齢、経歴不問・・・」という就職サイトやハローワークで求人が出ればあっと言う間に募集が埋まりそうな会社、但し所在地が先ほど彼が検索した久保山村となっている。


 「そんなド田舎で建設するものそんなに有るのか?」という彼の疑問は、地図サイトの周辺地図を見れば当然浮かぶ疑問であろう。

 なんせ、JRの駅からも離れ、道路の本数もろくになく、周辺にも大きな工場やショッピングセンターが無い。


 「まあ、行くしかないんだろうけどなぁ」15時間38分という鉄道案内サイトの「最短」所要時間を見て、途方に暮れる彼だった。







 出発した際には最寄り駅、ターミナルでの人の多さに、大荷物を抱えた彼はうんざりしていたが、だんだんと旅程の進行につれて減っていく人に、逆に人の姿を見かけるとほっとする様になっていった。


 事前に荷物をほとんど送っていて、割と身軽に出立出来る筈だった彼が、ここまで大荷物を抱えるハメに成っているのは、ひとえに彼の母親に原因がある。


 着る物から始まって、使うかどうかどころか使い方すら良く分からない様な便利グッズやら、日持ちのするレトルトから自作の料理を冷凍したものまで、出発が近づくにつれ加速度的に色々な物を思いついて買ったり、作ったりした母親。

 前日ギリギリまで宅配便で送ってきたが、当日、出発時にまで色々思いついてしまい、バッグを2つ増やす必要になり、更に見送りについて来たターミナル駅で相手先へのお土産やら弁当やらを大量に買い込んで紙袋が2つ増えた。


 親元を離れる息子を心配しての行為を無碍にも出来ず、下手な対応をしようものなら更に現地までついて来かねない母親を笑顔でなだめつつ席を確保して、ようやく動き出した列車の中で、仕事の為見送りに来れなかった父親からの短い電話を受けた。


 親の有り難味にしみじみとする間も無く、検札に来た車掌に慌てて切符を差し出す。

 だんだんと都会から離れて行く風景、荷物を減らす意味も兼ねて、少し早いが駅弁を食べる。

 なんだか涙が出そうになるのをお茶と一緒に飲み干す。


 そうして辿り着いた「田舎」としか言えない短いホームの駅。


 ここから更にバスに乗って、それでも辿り着かずそこのタバコ屋の公衆電話で連絡をして迎えに来て貰う必要があるのだそうだ。





 「なーんもねぇなぁ、なんで公衆電話なんかと思ってたら電波入ってないし。」

 タバコ屋で電話をして、迎えを待ってぼーっとしている康則。

 タバコを吸う人間ならついでにタバコを買って、一服している所だが、ニートにタバコなんて高価なものを買う余裕は無い。学生時代には付き合いで貰った時に吸った事はあるが、自分で買ってまでは吸わなかった彼はタバコを吸う習慣を持っていなかった。


 スマホも持ってない、というか大学時代はそれなりに使用したものの、外に出る機会などたまにある就職面接かハローワーク通いくらいしかない最近の彼にとってそんな物は無用の長物である。持ってるパソコン自体、ノートで無くデスクトップ(しかも一体型でない)である。



 携帯に元々入っていたしょぼいゲームで時間潰しをしながら待つ事しばし、クラクションの音に視線を向けるとこんな田舎に似つかわしく無い「ザ・アメ車」とも言うべき横にも縦にもデカイ、オープンカーに乗った男が声をかけてきた。


 「桐生君だね、これからよろしく」そう言うと男は康則の荷物を受け取り、トランクを開く事無く後部座席へと置いていく。


 握手をして肩を軽くパンっと叩くと助手席のドアを開け、自分はその長い足でドアを開く事無く跨いで運転席へ座る。


 「これは仕事用の車じゃないぞ、流石に。カミさんに選ばせたらこれがいいって言い出してな、燃費は悪いし、田舎道に合ってないってのも分かってるんだが・・・。」

 康則の視線に気付いたのだろう、どこか言い訳する様なそれでいて、密かに嫁さん自慢をしたがってる様な空気に内心康則は「リア充爆発しろ!」と呟いた。


 「俺は大田、どっちかって言うと現場の方に出てる事が多いから、働くようになったらあまり会わなくなるかも知れないがよろしくな。」


 車を走らせながら、背の高いガタイのいい男が話しかけてくる。


 イケメンというほど整った顔はしていないが、長身でガタイがいい事から女性にはモテるだろう。先ほどもドアを開けずに跨ぐという行為で足の長さを見せ付けられて、康則はかなり僻んでいる。


 「ぐぬぬ、リア充め」と内心の声を押し殺しつつ、「よろしくお願いします」と運転をする相手の視界には入っていないだろうが頭を下げる。


 「本当なら社長が来る所だったんだけどな、社長の嫁さんが急に産気づいて病院の方に行っちゃってるんでな、まあ、どこの家も同じだけどああなっちゃうと仕事も手に付かないし、下手に車の運転させるのもおっかないしな、で、今日代休で休みだった俺が来たってわけだ。」


 「社長さんも結婚なさってるんですか?」


 「おう、俺の嫁さんと社長の嫁さんが姉妹なんで、義理の兄でもあるんだけどな、ウチの社長。」


 「周辺地図見ると周り何も無いんですけど、建設って仕事あるんですか?」

 来る前から気になっていた事を割と気安く話しかけてくる相手だという事もあって聞いてみる康則。

 せっかく決まった働き先が仕事が無くなって倒産なんて事じゃ目も当てられない。


 「パソコンの方か? それとも紙の方? 紙は古い情報だし、パソコンの方も余りウチの村に建ってるものの情報流してないしな。まあ、それなりに忙しいぞ、ウチは、なんせ取引先のほとんどが財閥系だし。お、この先のトンネル抜けたら村だ、社長戻って無いだろうし寮の方行くぞ、ウチの会社、独身減ってて空きは結構あるんで、仮に決めて荷物放り込んどいた部屋気に入らなきゃ別の部屋に移ってもいいしな、部屋の確認と荷解き済ませる時間も要るだろ? その間、俺が社長の確認に病院行って、今日戻れない様ならそのまま部屋で休んでて貰って構わない。」


 「はあ」気の抜けた返事をした康則は、トンネルを抜けるとそこに広がる光景に驚いた。


 ここまでは道路は綺麗だったものの周囲には農地以外何も無く、如何にも田舎らしい風景が広がっていたのだが、農地こそそこここに有るものの、立派なビルがいくつも建ち、現在も建築中のものすら有る田舎とは思えない光景に度肝を抜かれたのだ。


 「トンネル抜けたら異世界みたいですね。」


 「お、なんか事前に噂でも聞いてきたのか? まあ、本当の異世界はこんなもんじゃないけどな!」


 返ってきた答えに疑問符を顔に貼り付けている康則の様子に大田は「あちゃあ」という顔を一瞬するが「ま、いっか、どうせここで働くんだし」と気にしない事にしたようだ。


 駐車場に車を停め、荷物を適当にいくつか持つと建物の入り口へと歩いていく大田。

 康則は残った荷物を持つとその後に続く。


 建物近くに小さな女の子連れの男が居るのに気付くと、入り口では無くそちらに歩いていく大田に、康則もその後に続く事になる。


 「マサさんチーッス! 雅音ちゃんもこんにちわ!」

 男に挨拶(?)したあと、屈んで女の子に話かける大田。

 

 「こんちわ、そちらの方、タカちゃんトコの新人さん? はじめまして、瀬澤正文といいます、この村の村長してます。」


 「(う、わあ村長さんかよ、若えなぁ)どうもはじめまして、桐生康則です。縁あってこちらで働かせていただく事になりました、よろしくお願いします。」


 「はい、よろしく。雅音、お兄ちゃんにご挨拶なさい。」


 知らない人で警戒したのかはにかんでいるのか、父親の影に隠れる様にしていた女の子を軽く押して前に出す正文。


 「せじゃわましゃね2しゃいでしゅ、はじめましちぇ!」

 舌っ足らずの甘い声に康則の頬が緩む。

 「よろしくね。」

 康則は自分でも驚くくらい優しい声が出た。


 「賢いですねぇ、マサさんトコの雅音ちゃん、ダークエルフの血が入ってるせいですかねぇ?」


 「さあなあ、まあ、どっちにせよ世界で一番可愛いけどな、ウチの娘が!」


 「はいはい、あんま社長と殴り合いの喧嘩するまで娘自慢しないでくださいよ!」



 スルーしづらい会話を続ける二人の横では「エルフって実在したんだ・・・」と硬直する康則。


 大人たちの会話を理解できず、時折父親に顔を向ける女の子の耳は康則がゲームや漫画やアニメで見慣れたエルフ耳だった・・・。






 

今回は出ませんでしたが、しばらくしたら獣人系(ケモ耳娘)が出てくる予定です

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