跪け ~ 正しい王国のお話し ~
読んでいただきありがとうございます。
ガーン!!
「シエナ!アンブルの前に跪け!」
「第一王子殿下、今は大事な会議中でございます…………。」
………………………………。
会議室の面々が一斉にドアの方を向く。
「アーサー!お前は何をしている」
国の今後を決定する、肝要な会議の場に、この国の第一位王子であるアーサー様は、騎士の制止を振り切り乱入した。
腕には、フックス伯爵令嬢のアンブル様が張り付いている。
「父上、聞いてください。そこにいるシエナは、学院内でフックス伯爵令嬢であるアンブルを、虐げているのです」
「…………ああ。会議の邪魔だ、連れて行け!」
国王陛下が、騎士に指示を出す。
私は、あまりに浅はかな行動に、ふたりをじっと見つめる。
「キャーーーー!」
アンブル様が、いきなり奇声を発した。
「アーサー様。シエナ様が、私を睨んでいます~」
あら………私は、あまりの愚かさに、驚いていただけですが…………。
「シエナ、そんなに俺に愛される、アンブルが羨ましいのか?」
アーサー様が、にやりと笑う。
寒!! あまりの気持ち悪さに、背筋が凍る。
「アーサー様、私はフックス伯爵令嬢とは、学院の廊下ですれ違ったことはりますが、クラスも違いますので、お話ししたこともございません」
私はSクラス、お二人は確か…………Dクラスでしたかしら?
「はーシエナ。この後に及んで、しらを切るつもりか!今までの小さないたずらなら、かわいいものだが、今回の器具室に閉じ込めた上に、噴水に突き落としたことは許せん」
……………………。
どうやって、北側にある器具室に閉じ込めたうえで、南の庭園にある噴水に、突き落とすことが出来るのです…………。
「はあ。身に覚えがありませんが、それはいつのことですか?」
「アンブルを虐めたところで、俺の心は手に入らないぞ!」
全く、話がかみ合わないのですが、アーサー様の耳は飾りですかね…………。
「あの………フックス伯爵令嬢、アンブル様と、お呼びしてもいいですか?器具室に閉じ込められたのはいつ頃です?噴水に落ちたのは、同じ日のことですか?」
「アーサー様。見て下さいあの怖い顔、いつもは、アンブルと呼び捨てにするくせに、昨日の昼休みに器具室に閉じ込められ、放課後私を連れ出して、噴水に突き落としたではありませんか!ずぶ濡れで泣いているところを、アーサー様が助けてくれたのですわ」
「あらあら、シエナは昨日、王妃教育を受けるため、私と一日一緒に過ごしていたのだけれど………まさかこの場で、嘘は言っていないわよね」
王妃様の扇子が、バシリと開かれた。
最後の方は、かなりどすが効いておりましました、王妃様…………。
「母上は私より、シエナの見方をするのですか?」
「私は王妃として、この会議に出席しています、そして事実を述べただけですよ、アーサー第一王子」
「…………は 母上」
「アンブル様、もう一度お聞かせください、いつどこで誰に何をされたのです?」
私が立ち上がり、お二人に向き直ると、アンブル様の顔がみるみる赤く染まる。
「あなたが私を閉じ込めたんでしょ!器具室のドアが閉まる時、そのサラサラの髪が見えたのよ!プラチナブロンドの綺麗なサラサラの髪、あなたしかいないでしょ!」
「まあ。髪をおほめ頂きありがとうございます。本日はハーフアップにしてまいりましたが、学院ではいつも髪はアップにしてまとめているんですよ」
「はぁ~!どこまでとぼけるつもり、あなたがやったのよ!」
私は国王陛下と王妃様へと体を向けて、礼を取る。
「国王陛下並びに王妃様、私はフックス伯爵令嬢にたいして、今までその様なことを行ったことはありません。昨日も、私は学院に行っておらず、朝から王妃殿下からの、教えをいただいておりました」
私は顔を上げて周囲を見回す。
「ここにいるすべての皆様に、嘘偽りがないことを誓います」
王妃様が立ち上がる。
「昨日、ルクレール侯爵令嬢のルシアと私は、共にいたことを、皆に宣言します」
「うわ~。王妃様!なぜ私の言葉を信じていただけないのです!わぁ~ん」
アンブル様が、ぺちゃりと座り込み、泣きだした。
末席のほうから、まるまるとしたフックス伯爵が、全速力で掛けてくる。
「おい、アンブルいい加減にしないか、ここをどこだと思っている」
フックス伯爵が、アンブル様を引き上げようとするが、アンブル様は、ブンブンと腕を振り抵抗する。
「お父様!離してください、私は王妃様とお話がしたいのです」
「フックス伯爵、私達もですが、あなたも子供の育て方を間違えた様ね」
王妃様は、扇を口元にあてる。
「まあいいでしょう、アーサー共々、今後会うことは無いでしょうから、最後に話を聞いてあげるわ」
王妃様の言葉で、アンブル様はキラキラとした笑顔に変わる。
「さすが王妃様ですわ♪」
わあ凄い、一瞬で涙が止まったわ。
アンブル様が、自分のお腹を大事そうに撫でる。
「王妃様、私のお腹には、アーサー様の子がいるのです」
!!!
アーサー様が慌てて、アンブル様の口を塞ごうと駆け寄る。
「アンブル、その話は婚約が整った後で、公表すると言っていただろう」
「でも、めでたい事ですし、皆さんお揃いの場所で話した方がいいかと」
「なにを言っている、まだシエナとの婚約を破棄していないのだぞ、これでは俺が、不貞をはたらいていることになるではないか」
さすがのアーサー様も、婚姻前の私通はご法度だと理解されているようで、イライラした様子。
国王陛下は初めて見るお顔で、頭に手を当て眼を閉じている。
だいたいのところ、アーサー様は大きな誤解をされているのよね。
「あの。もしかしてアーサー様は…………。」
私が話しかけると、アーサー様は、勢いよく立ち上がる。
「シエナ!そうだお前が悪いんだ、大体そのイヤリングも、アンブルから取り上げたものだと聞いたぞ!侯爵令嬢のくせに、下位のものから物を巻き上げるとは、噴水のことが間違いだとしても、そのイヤリングが動かぬ証拠だ」
あたしは、今日のお守りにと身につけた、ブルーサファイアのイヤリングにそっと触れる。
「どうせ、俺からのプレゼントだと勘違いしたのだろう、俺の瞳の色と同じだからな」
………………そう言われると、このイヤリングが汚されたような気分になるわ!
さすがに私も頭にきて、ふたりの元に向かおうとするが、私の前に大きな背中が立ちふさがった。
「アーサー。このサファイアのイヤリングは、私がシエナに送ったものだ」
レオン…………。
「いや、叔父上がなぜ、シエナにアクセサリーを送るのです!」
「さっきから聞いていれば、いくら王族とはいえ、公爵令嬢にたいして無礼が過ぎる、まして隣の令嬢は伯爵家であろう、お前達は全くこの状況が理解できていないのだな」
わぁ!こんなに怒っているレオンを始めてみたわ。
「まあ、レオン様~。私はアーサー様と結婚するのです、そうすれば私も王族、さらには王妃になるのですわ~。公爵令嬢の方が格下です」
ないたり、怒ったり、笑ったり、忙しい人ね。
アンブル様の発言を聞き、フックス伯爵は顔色を失い、会場に集まる上位貴族達が騒めく。
「皆の者、静粛に」
国王陛下が頭を抱えながら立ち上がる。
「我が愚息が起こした騒動で、皆の貴重な時間を奪ってしまったことを詫びる」
国王陛下と王妃様が頭を下げる。
貴族たちは、胸に手を当て静かに礼を返す。
「このような形になってしまったが、ここで皆に問う、我が弟、レオン・ランカスターが次期国王として立つことに異論は無いか」
礼を取ったままの貴族たちは、いっせいに顔を上げ拍手を送る。
「レオン様ばんざーい」
「おめでとうございます」
会場から口々に祝福の声が飛ぶ。
「二人ともこちらに」
国王陛下が、レオンと私を両陛下の隣に並ばせる。
「レオンが立太子するにあたり、王弟レオン・ランカスターと、ルクレール侯爵令嬢シエナとの婚約を正式に発表する、またまた若い二人だ、皆の力を貸してやって欲しい」
「ち 父上!これはどういうことです?王太子はこの僕です」
「アーサー。どうしてそう思う?公務にも勉学にも真面目に取り組まず、成績でクラス分けされる学院で、お前は一番下のクラスだ!まわりに高位貴族の子息子女がいるか?」
「ああ、その隣に連れいている、おかしなことしか言わない令嬢は、伯爵家だったな」
恐ろしく冷たい目で、国王陛下に見つめられているのに……どうしてお二人は平気な顔なの?凄い。
「ですが、僕は父上の!国王の息子です」
「息子がどうした?息子だからと、無能なものに国を任せては、直ぐに国が傾く、この国には何千の貴族、何万の国民が暮らしているのだ、そこの小娘の嘘にまんまと乗せられているようなお前に、国民の生活を支えられるのか!」
国王陛下の怒りが、会議室中をビリビリと揺らす。
「アーサーもともと、シエナはあなたの婚約者ではありません」
「ですが、母上8年前シエナと顔合わせをし、婚約者になる令嬢だと言っていたではありませんか」
「ええそうね、王国内の公爵家2家と4侯爵家には男児ばかりで、同じ年ごろの令嬢はシエナしかいませんでしたから、決まっていたことと言えばシエナが王太子妃になることかしらね」
「ならばやはり、シエナは僕の婚約者で、間違いないではありませんか」
「アーサー、本当に私達は、息子の教育をどこで間違ってしまったのでしょう、決して甘やかしたわけでもないのに」
王妃様は悲し気に目を伏せる。
国王陛下は、そっと王妃様の背中に手を添える。
「皆に迷惑をかけたが、王子を立派な人間に育てられなかった罪は、レオンとシエナを支え、国を豊かにすることで償おう」
国王陛下は、一度ゆっくりと眼を閉じて大きく息を吐く。
「役割を果たさず、この国の方針を決定する、重要な会議の邪魔をし、暴言を吐き嘘を並び立てた、アーサー第一王子を、王族から配席とし、離宮への生涯幽閉を命ずる」
「父上…………。」
アーサー様は呆然とした表情で、がっくりと膝を付いた。
「まあ、アーサー様が王太子にならなければ、私はどなたと婚約を?子のお腹には、王族の血が流れているのですよ」
抜け殻の様な、アーサー様の隣で、アンブル様はニコニコしている。
………ネジが外れているのかしら?
「フックス伯爵令嬢、王家や侯爵家以上の令息令嬢には、その身の安全を守るため、影の存在が四六時中ついています。当然アーサーにも」
「はあ。アーサー様が、王太子だから大事にされていたのですよね」
王妃様の扇子が、ミシミシと音を立てて、真っ二つに折れた。
「当然アーサーにつきまとい、いじめを自作自演し、複数の令息と関係を持つあなたのことも既に調べはついているのです!そのお腹の子はいったい誰の子かしらね」
王妃様の凛とした声が響くと、顔面蒼白のフックス伯爵が、ついにひっくり返った。
「罪人たちを連れて行け」
静かな国王陛下の声に、騎士達が二人を抱える。
「ちょっとやめてよ、私が王妃になるのよ」
アンブル様は叫びながら、アーサー様は生気を失ったように引きずられていく。
レオンが、腕の中に私を引き寄せる。
「今ままでよく耐えた。これで遠慮なくシエナを抱きしめられる」
はぁ~。レオンのお日様みたいな安心する匂い。
小さな頃から変わらない。
✿ ✿ ✿
私は5歳の時から、未来の王太子妃として、王宮に通い、マナーや歴史など様々なものを学んでいた。
学ぶ内容によっては、年の近い王族の皆さんと、一緒に学ぶこともある。
そんな日々を過ごして、私が10歳の誕生日を迎えた次の日。
明日は、特別なお茶会だから、おしゃれしてきてね♪と、王妃様がらお誘いを受けた。
お茶会当日。
「お母様、私が王太子妃になるの?」
「そうね、まだ決まったわけでは無いけれど、国内の高位貴族に、あなたと同じ年ごろの令嬢は居ないし、隣国にまで手を伸ばせば、他にも見つかるかもしれないけれど、国王御夫婦は、王国内で王太子の婚約者を決めたいとのご希望なの」
「あの……お母様、だれが王太子様になるの?」
アーサー様は、嫌だな…………意地悪でおさぼりなんだもの。
王宮に向かう馬車の中で、私はお母様のドレスをギュッと握る。
私が王宮で受ける教育は、そのほとんどを王妃様が優しく、丁寧に教えてくれるが、歴史の先生や地理学の先生は、うまく答えられないと、お尻を鞭で叩く。
ドレスの上からだから、傷にもならないし、痛みも強いわけでは無いけれど、あのビュンとなる音が怖い。
お母様のお迎えを待つ間、辛かった日はいつも、庭の隅に咲く、私が大好きなピンク色の薔薇を眺めていた。
薔薇を眺めていると、いつも声をかけてくれるのは、レオン様。
可愛いハンカチや、髪留めをくれたり、キャンディーをくれたり。
同じ講師から授業を受ける時は、私が困ると直ぐに助けてくれる。
それに比べて……アーサー様は、髪を引っ張られたり、授業で寝ていたり…………。
お母様が、ドレスを握る私の手を包む。
「今日はね、アーサー王子殿下と第7王弟のカイル様、第8王弟のレオン様、第9王弟陛下のアクセル様とのお茶会よ、王妃様に誰と一緒に居たいか聞かれたら、シエナの気持ちのままに選んでいいのよ」
「はい。お母様」
国王陛下には、9人の弟君と2人の妹君がいる。
王妹殿下は、10歳以上年が離れているため、既に隣国に嫁がれていて、国王と年の近い王弟陛下たちも降下して公爵になられたり、隣国に行かれたりと、今お城に残っているのは第7王弟陛下以降の3名だけだ。
次に立太子されるのは、その3名とアーサー王子殿下、4人の中から選ばれる。
王宮に着くとお母様と私は、一番広い王宮の中庭に案内された。
「まあ、シエナ。今日は一段とかわいいドレスね」
「お褒めいただきありがとうございます。王妃様」
私がカーテシーをすると、目の前に白い箱が差し出された。
「おい、シエナ、お前きのう誕生日だったろ、これやるよ」
アーサー様が、差し出した箱は、リボンも結ばれておらず、何だが…………ガサゴソと音がする。
私が思わず一歩下がると、アーサー様はにやりと笑う。
「俺が蓋を開けてやる」
アーサー様が勢いよく箱のふたを取ると、大きなカエルが私目掛けて飛んでくる。
「きゃ」
顔に当たる!
眼を閉じて身構えた瞬間、誰かの腕に包まれた。
カエルは、その人の背中にぶつかり、足元にぽとりと落ちる。
「アーサー。悪ふざけが過ぎるよ」
恐るおそる見上げると、レオン様の横顔。
レオン様…………助けてくれたんだ。
私は、レオン様のジャケットの裾をギュッと握る。
レオン様は私に視線を落とし、にっこりと微笑んだ。
「まー本当よ!このいたずら息子が!10歳にもなるのにいい加減にしなさい」
王妃様は、アーサー様をグングン引っ張り、椅子に座らせる。
「さあ、みんなも座って、お茶にしましょうね」
私はお母様に手を引かれ、テーブルに着く。
アーサー様に意地悪されたけれど、みんなから誕生日プレゼントを貰い。
みんなとおしゃべりしながら、ケーキや紅茶をいただいて、私の気持ちはだいぶ上昇した。
王妃様が、パチンと手を叩く。
「さあ、みんなお腹はいっぱいになった?ちょうど離宮の庭に咲く、王家にしか咲かない紫色の薔薇が、見ごろなんだけど…………シエナ誰と行きたい?」
「はい王妃様、レオン様が良いです」
王妃様の眉が、少しだけ動いた。
「まあ、アーサーじゃ無くていいの?」
お母様は私の横で、さらに背筋をピンと伸ばし、私の背名に手を置いた。
私もお母様の真似をして、背筋を伸ばす。
「はい。レオン様が良いです」
「そう」
王妃様は、少しだけ悲しそうに目を伏せた。
「じゃあ、レオン。シエナをエスコートしてあげて」
「はい王妃様。では、シエナ嬢行きましょう」
私は差し出された、レオン様の手を取った。
そのまま二人で、離宮の薔薇を楽しんで、ガゼボの椅子に腰を下ろす。
「本当に綺麗な紫色ですね、初めて見ました」
「…………。」
ん?
隣に座る、レオン様を見上げると、ズボンのポケットを、ゴソゴソと探っている。
「シエナ!」
レオン様の、少しだけ大きな声に驚く。
「誕生日おめでとう…………俺が作ったからあまり上手ではないけど、いやパーツをつけただけだから、花の部分はちゃんと職人が作った」
差し出された手の中には、ピンク色の小さな薔薇が、いくつも飾られたバレッタ。
「わあ。綺麗♪私の好きなピンクの薔薇です」
「あぁ。いつも眺めている、あの薔薇をイメージしたんだ」
そう言うと、レオン様は私の頭を抱える様に手を伸ばし、結ばれているリボンの上にバレッタをつけてくれた。
はぁ~。お日様の匂い。
「良く似合っている」
レオン様は恥ずかしそうに笑った。
この時から私とレオン様は、切磋琢磨し良い国を作ろうと、共に頑張った。
離宮の庭でレオン様とお別れし、騎士の方についてお母様の待つ馬車止めに向かうと、お母様の隣には王妃様。
「シエナ。紫の薔薇はどうだった?」
「はい。王妃様、初めて見るとても美しい薔薇でした」
「そう、良かったわ」
王妃様が、しゃがんで私と目線を合わせる。
「お茶会では、アーサーが、無作法なことをしてごめんなさいね、同じ年でも男の子はまだまだ子供ね、ちゃんと教育し直すから、シエナ……アーサーにもチャンスをくれないかしら?」
「…………はい、王妃様」
そしてレオン様と私の隣には、いつもアーサー様が居た。
✿ ✿ ✿
いくつかの季節が流れ、アーサー様は幽閉先を南部の離城に移した。
アンブル様は、結局誰の子供も妊娠しておらず、そのまま北の修道院に送られた。
ふたりとも、王都に戻ることは無い。
そして私は、あの会議から一年が経ち、無事にレオンと婚姻を結び、王宮での住まいを紫の薔薇が見える離宮に決めた。
次々と押し寄せる式典が無事に終わり。あとは国民のみんなに、婚姻の挨拶をするだけだ。
「シエナ、窓の外を眺めてどうしたの?」
「レオン。ここから見える紫色の薔薇を見て、昔のことを思い出していたの」
「どんなことだい?」
「ふふ。これよ」
私は、あの時貰ったバレッタを、レオンに差し出す。
「いや、こんな不細工なものをまだ持っていたのか」
「はい。レオンの心がこもっていますから、他にもありますよ」
「私は、子供の頃から大事にしている、宝箱のふたを開ける」
そこには、レオンか私にくれた、ハンカチやブレスレット、リボンやオルゴールが沢山詰まっている」
「もしかして、プレゼントしたもの全部?」
「クッキーやキャンディーはもうお腹の中です」
私が笑うと、レオンの暖かな腕に包まれる。
私もそっと、レオンの背中に手を回す。
「シエナ、俺と共に進もう」
「はい」
はぁ~おひさまの香り。
コンコン。
「王太子殿下、そろそろご準備を」
おひさまの香りが離れると、レオンのはにかんだ笑顔。
「じゃああとで」
レオンが部屋を出ると、準備をする侍女たちが入ってきて、私はピカピカに磨かれた。
準備が整い、侍女たちが部屋を出る。
「シエナ。少し話してもいいかしら?」
「はい。王妃様」
王妃様は、部屋に入ると椅子に座る私の前に膝を付く。
「王妃様」
王妃様は、驚く私の手を取った。
「シエナ。結婚おめでとう」
「はい。ありがとうございます」
私が王妃様の眼を見てほほ笑むと、王妃様は目を伏せた。
「シエナ。10歳のお茶会で、私の諦めが悪くて…………アーサーをお願いしてしまったことで…………レオンとシエナに、随分と辛い思いをさせてしまったわね」
「王妃様…………。」
私は王妃様と同じように、床に膝を付く。
「シエナ、汚れてしまうわ」
私は思いきり強く、王妃様に抱きついた。
「王妃様のせいではありません。王妃様がアーサー様に、ちゃんと指導している姿を、私は知っています。この未来を選んだのはアーサー様です」
「シエナ」
「王妃様は私の目標で、王宮でのお母様です」
「シエナ………こんな私を許してくれるの?」
王妃様の眼から、ボロボロと涙が零れる。
実の息子を幽閉するのは、どれだけ辛いことだろう…………。
国王陛下も王妃様も、第一に国民のことを考えている。
私の眼にも涙が溢れそうになり、ぎゅっと眼を閉じると、肩に大きな手が置かれた。
見上げると、青色の優しい瞳。
「さあ、王妃様、シエナ、みんなが待っていますよ、行きましょう」
廊下に出ると、国王陛下が待っていた。
陛下が、王妃様の肩を抱く。
「さあ、行こう」
四人で、長い廊下を進み、テラスへと足を踏み入れる。
王宮前の広場には、多くの国民が待っていて、私達の姿に大きな歓声がある。
私達は、歓声に手を振って応えた。
~ 終わり ~
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