第58話 援軍到着――さようなら田舎者の俺、そしていらっしゃいシティボーイな俺
これ以上前進できなくなった魔獣たちは、散り散りになって敗走した。
魔獣たちとてバカではない。元いた場所に戻るわけにはいかない。いくら「敵が強かったから、敵いませんでした!」と言い訳をしたところで、ボスがそれを許すわけがない。
サミュエルが追撃の号令を発しようとする。
「あやつらを逃がすな! 追撃――」
「ヒヒヒッ、お宝モンスターたちを逃がすなああああ!」
すると、その役割をあっさりと奪った者が登場した。
アンジェラたち、人間のお宝捜索部隊……ではなく、援軍だった。
「生け捕りじゃああああ!」
「モンスターを生け捕りにするのよおおおお!」
「あいあいさああああ!」
「いえーーーいいいいい!」
ああ、この語尾が長くなる感じ、これは……クモ味のグミだ! 暴走ヤクに跨った人間たちが逃げ惑うモンスターに向かって絡まるクモの糸を吐きつけて回ったのだ。
「愉快いいいい!」
「爽快いいいい!」
「面白すぎいいいい!」
「ああああ! いいいい! うううう! ええええ! おおおお!」
空からは、ジャンボイーグルに乗った人間たちが魔獣たちの前に回り込んではクモの糸を吐きかける。
「シカツノバイソンもオークもご馳走だべさ! こっちも保存しておくだべさ!」
またしてもどこからともなく現れたハム一家率いる酪農軍は、食べられる魔獣の死体を回収して回った。
「ミュくん、ご苦労様でございます。こちらの人面オオカミと長髪ライオンの毛皮はなかなかに高級品なのですよ。お手柄ですね。あ、ハムさん、そのシカツノこっちがもらってもよろしいでしょうか?」
ナオミたち、縫製工場部隊も、容赦なく人面オオカミと長髪ライオンをさばいて回った。
「……内臓は私たちがいただきますね……うおっ、この脳を加工すれば……ヒヒヒッ」
「うぉ、マジか! この目ん玉はあたしがいただくぜっ」
ヴィクトリアやマーガレットなど魔女たちマッドサイエンティストな薬理班は、目の前のスプラッターな状況を物ともせずにゲテモノ部位を集めて回った。
「食えねえ、加工も出来ねえ使えねえ部分はおらたちがもらうだっぺ! 加工して肥料にするたっぺ!」
最後にはトム一家と農耕軍団が登場して、血生臭かった戦場は一気に綺麗に片付いた。
そして、逃げ出したはずの魔獣たちも、あっという間に捕獲されてしまった。
「いやーああああ、大量大量うううう!」
「お前、そのクモグミの効果が切れるまでは話すな!」
サミュエルは、アンジェラの吐き出す「あ」と「う」のクモの糸を巧みに避けながら注意をする。
「にしても、どうして来た? 戦場はエンタメ施設ではないと言っただろうが! あっ、いや言い訳はいい、とにかく今は話すな」
「いやだってええええ」
「話すなって言っただろうが!」
サミュエルはくるりと華麗なターンで糸をかわす。
「やっぱし見たいじゃん。ミュくんの勇姿をさああああ」
「だから、話すな」
お次はバク転で避ける。
「今回はちいとばかし遅かったけどおおおお」
「とにかく、話すな」
最後はブリッジをすると、顔面スレスレを通過した。
「次こそはバッチシ見ちゃうんだからああああ」
あれほどの勝利をおさめ、気分もいいというのに……。天然娘の吐き出すクモの糸を身体をくねられながら避け、会話をしなければならないとは……。
「思いがけぬ援軍もあって、今回の戦いは、我らの勝利である!」
「いえーーいいいい!」
「皆の者、よくぞ戦ってくれた」
「ひゅーひゅーだよおおおお!」
「だが、魔王軍の攻撃がこれで終わるとは到底思えない」
「ええええええ、そうなのおおおお!?」
(クッ、この小娘のせいで勝どきをあげるタイミングを逃した上に、せっかくの俺の言葉がまるで決まらないじゃないか!)
サミュエルは、糸を避けるべく、完全に反復横跳びをしていた。
「お次は誰さんがやってくるのおおおお?」
「……まだ、こいつらのボスが残っているし、コンコン吉たちの報告だと魔獣の軍自体もまだ数百は残っているはずだ」
ここに来たのがいわゆる雑魚ならば、ボスの元にいるのは、各部隊の親衛隊、精鋭である。
そいつらがどこかに逃げ去ることは考えにくいが、仮に北部の温帯草原地帯に向かったら少々厄介だ。あのエリアには他と比べて戦闘力のある者があまりいないからだ。
「そいつらも、やたらな場所に行かれる前に片づけてしまいたいな」
「そうだな、俺ら、ほとんど戦ってねえから、まだ全然戦い足りねえ! 援軍も来たことだし、このまま一気に攻めちまおう」
オーガが突撃を主張する。彼らは従来正面から力で戦うスタイルを好む。数が多くてやむを得なかったとはいえ、今回の戦闘ではまだまだ暴れ足りないのだろう。
「ミュの兄貴! 俺たち獣人もまだまだいけるぜ」
「ワシらドワーフも、元気ですぞ」
確かに勝利を収め、士気が高い今は攻め時だろう。
「よし、この辺りの守りを固めつつ、別動隊を編成して、残りの魔獣たちを討ちに行くとしよう。その際だが、やはりできる限り正面衝突は避けたい。これで終わりならばいいが、まだその先もあるのだ。我々が無駄に血を流すことがないような作戦を考えようではないか!」
作戦――それに則して行われる戦闘は、知性あるものにだけ許されし、実にスマートな戦い方なのである。
「ミュくん、随分とアーバンな男になったんじゃないのおおおお」
「アーバン?」
「そうそううううう、あれだけ田舎者だったミュくんがああああ、作戦立てて戦おうとするなんてええええ、実に感慨深いわああああ! うん、完璧なシティボーイだねええええ」
(アーバンにシティ……意味はよくわからないが、田舎の反対ということは、『都会派』ということか! アーバン、シティ……ああ、なんとも甘美な響きだ……)
アーバン、シティという言葉の響きに酔いしれながら、リンボーダンスをしているかのようにアンジェラの吐き出すクモの糸を避け続けるサミュエルだった。




