第4話『閃光の左リーン、届かない弾丸』
一角の排除は、わずか数秒で絶望に塗り替えられた。
「やったねクロ! 私たち、意外といけるかも――」
「――伏せろッ!!」
クロの叫びが鼓膜を叩くと同時に、左右のコンテナから乾いた銃声が響いた。
右から、左から。逃げ場のない十字砲火。
「え……?」
反応する間もなかった。
クロが即座に応戦しようと銃口を向けるが、既に致命的な射線が通っていた。
無慈悲な弾丸が二人のアバターを貫き、視界がノイズに染まる。
[YOU DIED]
転送エリアで再構築されたアダダは、喪失感に身体を震わせた。
「な、なに……? あんなの反則だよ!!!」
「……強襲だね。僕たちが敵を仕留めた音を聞きつけて、別のパーティが『漁夫の利』をさらったんだ」
隣で実体化したクロが、悔しさを押し殺すように、けれど冷静に状況を分析する。
「この世界は、油断した者から順に『データ』へ戻される。……次は、勝利の味より先に周囲の熱源を疑おう」
「うぅ……! 悔しい! でも、あんなにあっさり負けるなんて……!」
「気を取り直そう。次は正式実装前のテストマッチ『10vs10』だ。個人の責任が分散されるし、戦場の全体像が見えやすい。行ってみるかい?」
「行く! 次こそ絶対、一矢報いてやるんだから!」
転送された先は、夕闇に沈む市街地エリア。
今回の味方はアダダとクロを含めて10人。作戦開始のカウントダウンが響く中、ひときわ異質な怒号が空気を震わせた。
「オラァァァ!! 準備運動はバッチリだぜぇ!!」
燃えるような赤髪の男が、屈伸運動をしながら叫んでいる。
背負っているのは、近接特化の**『グリーンガン(ショットガンタイプ)』**。猪突猛進な彼を象徴するような荒々しい武器だ。
「おいおい兄ちゃん、うるせぇよ。位置がバレるだろ」
味方の誰かが呆れたように呟く。
「あぁん? 戦場だぞ、気合い入れなくてどうすんだよ! 俺の名はアッシュ! 覚えとけッ!!」
開始ブザーと同時に、彼は文字通り弾丸となって飛び出した。
「一番槍は俺がもらうぜェェェ!!」
「……元気な人だね」
「うん、野生の猪みたい」
クロとアダダも、苦笑しながらその後を追った。
市街地中央、激戦区。
アッシュは、その無鉄砲さで敵の前線を食い荒らしていた。
「オラオラオラァ! 隠れてねぇで出てきやがれ!」
だが、その暴れっぷりは、格好の「的」でもあった。
交差点の向こう側、冷静にその様子をスコープに捉える影があった。
「……チッ、またあの『死神』か」
ゲルドだ。手には高威力の**『レッドガン』**が握られている。
アッシュが殺気に気づき、不敵に笑う。
「へへっ、そこかぁ!!」
至近距離でのショットガン。回避不能の必中距離。
――そのはずだった。
「――ヌルいな」
ゲルドの動きは、アッシュの常識を超えていた。
彼は瞬時にその場で腰を落とし、同時に上半身だけを左へと鋭く滑らせた。
【しゃがみ左リーン】。
散弾の拡散範囲を、針の穴を通すような精度で潜り抜ける――
システム的な回避を超えた、純粋な技術。
「は……?」
アッシュが目を見開いた瞬間、ゲルドのレッドガンが火を噴いた。
『ダダダダダッ!!』
正確無比なフルオート射撃が、隙だらけのアッシュに叩き込まれた。
「ぐあぁぁっ!?」
圧倒的な実力差。
リスポーンの光に包まれながら、アッシュは強烈な衝撃に打ち震えていた。
(今の……なんだ!? どうやったんだ!?)
「次はお前だ、死神!」
ゲルドの銃口がアダダに向く。
だが、その時――。
『キャハハハハ! ウケる〜! 敵多すぎっしょ!』
突如、派手な爆発音と共に、戦場の横腹からピンク色の髪をしたギャルが突っ込んできた。
なーちょだ。彼女は両手の銃をデタラメに乱射し、手榴弾をあちこちに放り投げている。
「なっ……なんだあの女は!?」
「邪魔だどけぇー! あたしのキルレが下がるっつーのー!!」
その言葉が響いた瞬間、アダダの耳に**「多重奏」のような不協和音が混じった。
ギャルの声の背後で、
「……俺の、スコアが……」
「……返せ、僕の……」
という無数の男女の呟きが重なり、一瞬だけ彼女の姿が「何百人もの影」に見えて揺らぐ。
だが、なーちょはケロッとした顔で爆弾を投げ続けていた。
味方の射線もお構いなしに暴れ回る彼女により、戦場は一瞬で**カオス(泥仕合)**と化した。
冷静なゲルドも、このノイズだらけの状況には舌打ちをするしかない。
「チッ、動物園かここは! ……カルマ、引くぞ。こんな非効率な戦い、付き合ってられるか」
試合はめちゃくちゃな乱戦の末、アダダたちのチームは敗北した。
戦闘終了後、ロビーエリアでアダダとクロが肩を落としていると、ドカドカと足音が近づいてきた。
「おい!! そこの二人!!」
振り返ると、さっきの赤髪の男――アッシュが、瞳を輝かせて迫ってきた。
「お前ら、あいつと戦ってたよな!? あのデカい男!」
「え? ああ、ゲルドさん?だっけ」
「そうそいつ!! 見たか!? グニャッて避けて撃ち返してきやがった!!」
アッシュは負けた悔しさなど忘れたように、先ほどの「左リーン」を真似て身を捩っている。
「すげぇよ! 俺、あんなの初めて見た! 教えてくれよ!」
「ええっと……私たちもよくわからなくて……」
「じゃあ一緒に探そうぜ! 俺はアッシュだ! お前ら、気に入った!」
クロは呆気にとられつつも、その真っ直ぐすぎる熱量に、ふと懐かしい温かさを感じていた。
「……いいんじゃないかな。彼のような『計算外』は、嫌いじゃない」
「おい褒めてんのか!? なら組もうぜ! なッ!!」
こうして、嵐のような男・アッシュが、強引にパーティへ転がり込んできた。
最強の技術を持つライバル、謎の爆走ギャル、そして新たな仲間。
『Legacy Online』の世界が、急速に歪みながら、賑やかになり始めていた。
ギャルっていいですよね。。。
すいません。




