第28話:『黒き鳥の盟約と嗤う羊』
「――では、みなさんよろしいですか」
リバルドの落ち着いた、しかし冷徹なほどに事務的な声が、薄暗い地下室に響いた。
天井の裸電球が、円卓を囲む者たちの影を長く伸ばしている。
「我々は、消失事件を追う組織……『クロウ(烏)』」
彼は眼鏡のブリッジを中指で押し上げ、一同を見回した。
そこにいるのは、アダダ、クロ、アッシュの三名と、ゲルドたち。そして、新たに集められた四名の男女だ。
「先程も話に上がりましたが、我々はあくまで事件を追うための協力者ネットワークに過ぎません。外で表立って仲良しこよしするためのサークル活動ではない。それを、まずは肝に銘じていただきたい」
リバルドの言葉に、場に緊張が走る。
アッシュが何か言い返そうと口を開きかけたが、隣のクロが目配せをして制した。
冷たい言葉だが、そこには彼なりのプロ意識と、事態の深刻さが滲んでいた。
「そして今後、有益な情報が集まり次第、私に連絡をください。それぞれの情報が、断片ではなく『線』として繋がると判断した場合のみ、再び招集をかけます」
リバルドは、壁際の隠し扉――本棚の裏側を指差した。
「今日来られた四名の方々は、この部屋の存在をくれぐれも内密にお願いしますね。入り方は先ほどゲルドさんがやっていた通り、あの合図で」
「……わかった」
「了解です」
アダダたちは真剣な表情で頷いた。
この秘密基地が、今の彼らにとって唯一の希望の砦なのだ。
「では、アダダさん達にも情報を共有します。まずここにいる方々は、我々同様に『消失』により仲間を失った被害者の方々です」
リバルドの紹介を受け、重苦しい沈黙が降りた。
誰もが口を開くのを躊躇う中、ポツリポツリと、絞り出すような声が挙がり始める。
「……俺は、二人失った。昨日まで『あとダイヤ五個溜まったらガチャ引くんだ』って、酒場で笑い合ってた相棒だったんだ……」
「俺達は一人だ……。転送の光の後、あいつだけが…。あの戦場が最後なんて思ってなかった……」
「私は、三人……」
悲痛な告白が続く中、最後に小さく手を挙げたのは、茶髪の女性――ロナだった。
「……私は、一人です」
彼女は両手で口元を覆い、その瞳からは大粒の涙が溢れていた。
小刻みに震えるその肩は、見る者の庇護欲をかき立てるほどに儚げだ。
「大切な人が……目の前で……」
次々と告げられる被害の数に、アダダたちの表情が曇る。
これだけの人間が、誰にも知られずに、運営からの告知もなく消されている。
この「ガレリア」という鮮やかな街の裏側で、確実に何かが進行しているのだ。
「……君たち二人は?」
クロが、静かにリバルドとなーちょへ視線を向けた。
ゲルドはカルマを失った当事者だが、この二人の動機が見えなかったからだ。
「んあ?」
なーちょが、重い空気を吹き飛ばすようにガムを膨らませた。
「あーしとリバリバはアンタ達と同じ協力者だよ~。つーか、あーし達だってガチでヤバいと思って動いてるわけ? マスターとは持ちつ持たれつって感じだけど、やる時はやるし~?」
「おっほん。……余計なことは言わなくていいですよ」
リバルドがわざとらしく咳払いをして話を戻した。
どうやら彼らはマスターの手駒というだけでなく、彼ら自身の意志で動く協力者のようだ。
「いいですか。続けますよ」
リバルドが手元の端末を操作し、空中にホログラムウィンドウを展開した。
そこに羅列された情報は、アダダたちを戦慄させるのに十分だった。
・ここ一、二週間での『消失』被害者、推定五十名以上。
・『消失』に関する書き込みは、掲示板から翌日には削除されている。
・恐らく、守衛団はこの事実を意図的に秘匿している。
「五十人……そんなに」
アダダが息を呑む。
だが、リバルドが示した次のデータは、さらに不可解なものだった。
・稀に、突然帰還する者がいる。
・だが、戻ってきた者は『使用する武器種』が何故か変わっている。
「……武器が変わる?」
アッシュが眉をひそめた。
「そんなの、ただの気分転換じゃねーのか?」
「いいえ。以前は猪突猛進な**グリーンガン(SG)使いだった者が、復帰後は突然、後方から支援するイエローガン(AR)**を持っていたりするんです」
リバルドは淡々と、しかし不気味さを込めて続けた。
「しかも、本人は『昔からこれを使っていた』と主張する。周囲の記憶と、本人の認識に致命的なズレが生じているのです」
「……本人の、魂が書き換えられてしまったような」
クロが低い声で呟いた。
肉体は同じ。記憶もある。
だが、その根源的な「嗜好」だけが別人にすり替わっている。
それは死ぬことよりも恐ろしい、アイデンティティの冒涜だった。
「……守衛団の団長のような、立場のある者は間違いなく関わっているだろうね。個人の**悪戯**レベルで隠蔽できる規模じゃない。もっと上位の……管理権限を持った何かが」
「私もそう思います」
リバルドが重く頷く。
「何かあるとしか思えないですね……。怖いです……」
ロナが不安そうに身を縮め、隣にいたアダダの服の裾をぎゅっと掴んだ。
指先から伝わる冷たい感触に、アダダは一瞬ビクリとしたが、「怖がっているんだ」と解釈し、優しくその手に手を重ねた。
その時、壁に寄りかかっていたゲルドが、舌打ち交じりに口を開いた。
「おい。俺のファン? ……何だったかな、あの野郎の名前」
「タケオっちねー」
すかさずなーちょが答える。
「あーそう、そいつ。タケオ」
ゲルドは凶悪な笑みを浮かべ、バキボキと指を鳴らした。
「あいつから何か探れないか、もう一度当たってみるか。妙な動きをしてやがったしな」
「了解しました。我々はそのタケオさんに接触を試みます」
リバルドがウィンドウを閉じた。
「今わかっていることはこれくらいです。……アダダさん」
リバルドの視線が、真っ直ぐにアダダを射抜いた。
「あなたが感じるという『赤いノイズ』。また何か分かったら、些細なことでも構いません。すぐに連絡をください。それが、真相への鍵になる可能性があります」
「は、はい! 分かりました!」
「では、今日はもう遅いので一度解散とします。……お疲れ様でした」
号令と共に、重苦しい空気が少しだけ緩む。
消えた仲間たちのために。
これ以上、誰も失わないために。
そして、アダダにだけ視える「ノイズ」の正体を暴くために。
闇の中で真実を追う者たちの名――
**『クロウ』**が、今ここに刻まれた。
***
解散後、**BAR『レイブン』**の裏口から出るため、狭い階段を上がっていた時のことだ。
「アダダさん、お疲れ様でした」
後ろから声をかけられ、アダダは足を止めた。
振り返ると、そこには涙の跡を拭ったロナが立っていた。
すぐ後ろには、クロが無言で控えている。
「お疲れ様です! ……ん? どうしたの、ロナさん?」
「あの、聞いてもいいですか……?」
ロナは少し躊躇うように視線を泳がせ、それから縋るようにアダダを見つめた。
その瞳は、暗い水底から救いの手を求める子供のように、弱々しく揺れている。
「その……リバルドさんが言っていた、『ノイズ』って……何なんですか??」
「……え?」
「私、何も分からなくて……。でも、もしかしたら私の彼も、そのノイズに連れて行かれちゃったのかなって……。何か分かれば、助けられるかもしれないって……」
か細い声。
アダダの良心に、ダイレクトに訴えかけてくる「助けて」という響き。
アダダは、疑うことを知らなかった。
「えっとね、私もよく分からないんだけど……。バイザーをつけると、たまに世界に『赤いモヤ』みたいなのが見えるの。それが、温かい時と、すごく冷たくて怖い時があって……」
アダダが一生懸命説明をする間、ロナは「はい、はい」と涙を堪えるように頷きながら聞いている。
だが。
その様子を一歩引いて見ていたクロの眼鏡の奥で、瞳が鋭く光った。
(……おかしい)
クロの脳内で、冷静な警告音が鳴り響く。
(彼女は「被害者」としてここに来たはずだ。なら、真っ先に聞くべきは「犯人の手がかり」や「消失の原因」じゃないのか?)
なのに彼女は、なぜアダダの能力に、これほど執着する?
「ありがとうございます……。希望が、持てました」
ロナが深く頭を下げる。
その顔は涙で濡れていたが、下げた頭の陰で、その口元が微かに、
本当に微かに歪んだのを、クロだけは見逃さなかった。
(……笑った?)
瞬きの間に消えたその違和感は、クロの胸に冷たい杭を打ち込んだ。
ロナの華奢な背中の向こう側に、クロは得体の知れない「深淵」が口を開けているような、薄ら寒い恐怖を覚えていた。
被害者の面をして近づく羊……。
クロがいなかったらアダダはダイヤ50個の壺とか買いそうです。笑
〜宣伝〜 僕、「ゑルマ」は、legacy onlineの執筆の筆休め的な感じで新作の連載も始めました。
ドロップ率1%の「真核」 取得に入れた瞬間の直前1時間の行動や周辺の環境を元に
唯一のオリジナル武器を作れると言うシステムがあり周りのプレイヤーが気付く前から主人公が、
そのレア泥を蹴とっ飛ばし最適な場所での記録をするというちょっとおかしな主人公と仲間達の物語です。
【365日ライブ配信を監視し続けた俺、サービス開始と同時に『正解』を叩き出す 〜ドロップ率1%の至宝を蹴っ飛ばし、理想のログを刻んで最強の武器をデザインする〜】
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