第26話:『追憶の影、虐殺の炎帝』
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◇ガレリア 戦場広場
数日後の夕刻。
ガレリアの広場は、沈みゆく陽光に照らされ、朱色と影のコントラストに染まっていた。
アダダ、クロ、アッシュの三人は、連戦の合間の休息をベンチで過ごしていた。
「へぇ、ゲルドの野郎、新しいパーティを組んだのか?」
アッシュが驚きと、どこか安堵の混じった声を上げる。
視線の先、少し離れたベンチに座るゲルド。
だが、その隣にかつての相棒・カルマの姿はない。
代わりに座っているのは二人。
ショッキングピンクの髪を派手に巻いたなーちょと、眼鏡の奥で冷徹な光を湛えたリバルドだ。
「うん……あの、前にグレネード持って暴れてた人だよ。すごく変な喋り方してた。
あとね……あの『冷たい赤』も感じたの。
でも……悪い人じゃない、と思う……かな?」
アダダが記憶を辿りながら答えると、アッシュが「どっちだよ!」とツッコミを入れる。
クロは瞳を細め、ゲルドの隣に立つ二人を静かに観察していた。
「僕も、なーちょという彼女からは不思議なものを感じるよ。
何かが纏い付いているような、異質な感じだ。
……それに、もう一人の彼、リバルドについてもね。
どこかカルマに似ているんだ。纏っている空気というか、影の濃さが」
その言葉通り、ゲルドは時折、隣のリバルドを横目で見ては、ふっと寂しげに視線を落としていた。
無意識のうちに、失った友の面影を求めてパーティを組んでしまったのだろうか。
「俺にはよくわからん!
でも、ゲルドのやつがカルマのことを……ちゃんと乗り越えて前に進めてるなら、それでいいじゃねーか!
だろ!?」
アッシュが太陽のような笑顔で笑い飛ばす。
その真っ直ぐさに、クロも思わず口角を上げた。
「ははは、君のそういう所、僕は好きだよ」
「さあ行こうか。
次は彼らと当たるかもしれない。新しいパーティの力、見せてもらおう」
――だが、この時クロには一つの予感があった。
ゲルドがただの仲間として、新しくチームを組んだのではないのだという静かな予感。
『俺は真相を探す』。
あの日、彼はそう誓った。
ならば、この早すぎるチーム結成も、寂しさを埋めるためなどではなく……
その誓いを果たすための手段なのかもしれない――
「ゲルドさんだけでも大変なのに……でも燃えてきた! うおー!」
「アッシュが感染ったかな?」
「そうかも!」
三人は顔を見合わせ、吹き出した。
アッシュがゴツい拳を突き出すと、クロとアダダも自然に拳を合わせた。
「「「行くぞ!」」」
眩い光が、笑顔の三人を包み込んでいく。
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◇戦場内:近未来・廃都市エリア
林立する高層ビル。
アッシュの放つ弾丸が、周囲の瓦礫に溶け込みながら標的を粉砕した。
音もなく放たれた一撃が、遮蔽物から覗いた敵の頭部を完璧に貫く。
「お見事。もう完全に使いこなしているね」
「あたりめぇだ!」
アッシュは鼻を鳴らす。
かつての泥臭い勢いはそのままに、その挙動には「静寂」と「精密さ」が備わっていた。
「……いたよ。ゲルドさんたちだ」
アダダがビルの影に潜む三人の姿を捉える。
宿命のように、二つのパーティが激突した。
「アッシュ、右! 距離30、そこだ!」
アダダの叫びと同時に、アッシュの足元に鋭い弾丸が着弾した。
そこにいたのは、リバルド。
彼が構えるのは 【HR2:レオナルドリーフ】。
周囲の色彩をリアルタイムでシミュレートし、肉眼での視認を困難にさせる機能を備えている。
背景と同化し、ゲルドの死角を完璧にカバーするその動きは、
かつてカルマがそうしていたように――
あまりにも献身的で、正確だった。
「ちっ……避けにくい弾を撃ちやがる!」
「……アッシュ。死亡回数は大丈夫か?
無駄な死に方するなよ…。」
衝突したゲルドが、銃を叩きつけながらニヤリと笑う。
その言葉に、アッシュの動きが一瞬止まった。
「……へっ。おいおい、ゲルド!!
お前、今俺のこと『アッシュ』って呼んだか?」
「あぁ? いちいちうるせぇな」
「ははっ! 名前で呼ばれるのも悪くねぇな!」
アッシュは嬉しそうに口元を拭い、フォレスト・ファントムを構え直した。
互いに認め合い、全力をぶつけ合う。
最高の戦いになるはずだった。
さらに頭上から、なーちょの派手な声が降ってくる。
「アハッ! こっちだよーん!
狙い、甘くない? ウケる!」
彼女が手にするのは 【HR2:ビーチウェーブ】。
その機能により、彼女は重力を無視した軌道で、波に乗るようにビルの窓から窓へと飛び移る。
「ゲルドに加えてこの二人……これまでの相手とはレベルが違う!」
クロが遮蔽物の裏で唸る。
拮抗する三対三。
熱い攻防が続くと思われた、その瞬間――
暴力的なまでの重圧が、全てを無に帰した。
ドォォォォォン!!
広場に巨大な爆発音が響き、全員が反射的に距離を取る。
砂塵の中から現れたのは、漆黒の外套を羽織る男、ブローキン。
その手に握られたのは 【UR:フェニックス・デス】。
銃身がマグマのように赤黒く脈動し、周囲の空気が陽炎のように歪んでいる。
立っているだけで肌が焼けるような熱気。
「……チッ。
雑魚同士が群れて、何をままごとしてやがる。反吐が出る」
低く不気味な音圧。
「な……何だ、あいつ……。
おい、ゲルドの野郎よりやべぇんじゃねーか!?」
「雑魚と比較されること自体、不愉快だ。
まとめてゴミ箱に叩き込んでやるよ」
「ちょっまーじぃ? 調子乗り過ぎ系?」
上空のなーちょが即座に射撃を開始する。
だが、ブローキンの反応速度は常軌を逸していた。
頭部装備 【UR:宝炎の兜】 が瞬時に弾道を弾き出し、
腕の 【UR:レボルアーツ】 が銃身を固定。
彼は見ることすらなく、銃口を斜め上へと跳ね上げた。
ズドォォォォォン!!
放たれた超高圧弾が、ビーチウェーブの「水の守り」を紙切れのように貫通した。
なーちょの身体は一瞬で弾け飛び、ポリゴンの欠片となって消滅する。
「なーちょさん?! 貴様ッ!」
激昂したリバルドが懐へ潜り込む。
だが、引き金を引くよりも速く、ブローキンは重厚な銃身でリバルドの顎を粉砕した。
「消えろ、屑が」
至近距離での射撃。
エネルギーの奔流がリバルドを貫き、霧散させる。
「リバルドッ!!
……またかよ……また俺の目の前でッ!!」
仲間を一瞬で消された光景が、カルマの消失と重なる。
ゲルドの理性が弾け飛んだ。
彼は咆哮と共に、防御も捨ててブローキンへと突進する。
「うおおおおおおおッ!!」
「……五月蝿いハエだ」
ブローキンは溜息交じりに、燃え盛る銃口をゲルドの腹部に押し当てた。
回避も、防御も許さない。
純粋な火力の暴虐。
ゴオオオオオオッ!!
「がっ……は……ッ!?」
ゲルドの巨体が、まるで木の葉のように吹き飛び、
壁に激突して光の粒子へと変わった。
圧倒的敗北。
UR装備の自己再生機能により、
微かに削れたブローキンのHPゲージが全快していく。
「次は、お前らだ」
冷え切った銃口が向けられる。
「逃げろ! アダダ! アッシュ!」
クロの叫びも虚しく、ブローキンが放った衝撃波が地面を砕いた。
足場を失ったアダダを、レボルアーツの超精密エイムが完璧にロックする。
「……遊びは終わりだ。
地を這いずって死ね」
カチリ、と運命が鳴る。
次に意識が戻った時、三人はガレリアの石畳の上に転がっていた。
一矢報いることすら許されない、一方的な殲滅。
「……化け物だ。
あんなの、プレイヤーの域を超えてる……」
アッシュが震える拳を地面に叩きつける。
あのゲルドたちをも瞬殺した、絶対的な強者。
ブローキン。
その名が、拭い去れない絶望として、
三人の記憶に深く刻まれた。




