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第22話:『友(データ)の叫びと願い』



◇ホームタウン『ガレリア』 守衛団本部前


「おいッ!!!! お前らの仕事だろうがッ!? どうなってんだ!!」


 静寂を切り裂くような怒号。

 一人の男が、制止を振り切って無理やり本部内へ押し入ろうとしていた。――ゲルドだ。


 だが、守衛団員の対応は冷淡そのものだった。


「だから何度も言ってるだろ! 『ひょこっ』と帰ってくる奴もいるし、システムエラーの可能性もある。現時点では事件扱いはしねぇ! 出直せッ!!」


「ふざけんな……! 目の前で消えたんだぞ!? あんな消え方、あるわけねぇだろッ!!」


 ゲルドは引き下がらなかった。

 いや、引き下がれるはずがなかった。


 あの日――アダダたちが譲渡試験に挑んでいた裏で、ゲルドの網膜には、信じられない光景が焼き付いていたのだから。


 通常マッチの戦場。


 戦闘の最中、カルマの視界は、不快なノイズで常に歪んでいた。

 網膜に直接焼き付くような、ドス黒い警告ウィンドウの嵐。


『警告:定時連絡ヲ行エ』

『警告:対象「ゲルド」への過度ナ接触ヲ感知』

『最終通告:任務ヲ放棄スルナ』

『……処分決定。君ハモウ、不要ダ』


 引き金を引きながら、カルマは冷や汗を流していた。


 彼の本来の任務は「麒麟アダダ」周辺、および上位層の現状報告。

 そのためにゲルドに近づいた。雇い主の目的を果たすために。


 ここはゲームの中だ。

 ノイズを視るアダダの異常も、計算を超えた動きを見せるクロの存在も、すべて報告すべき対象だった。


 だが――不思議なことに、彼は沈黙を選んだ。


 いつの間にか、この無骨で不器用な男と肩を並べ、背中を預け合うことに、自分の存在意義(生)を見出してしまっていた。


 最後のメッセージに刻まれた「不要」の二文字。


 それを作った奴らが何を意味するのか、考えなくても分かった。


 ――自分は死ぬ。リスポーン(再構築)されることなく。

 現実の肉体ごと、処分される。


「おい、カルマぁ!!! 前を見ろッ!!」


「――っ!!」


 ゲルドの怒号。

 カルマは反射的に銃口を向け、迫りくる敵を撃ち抜いた。


 命の終わりを感じながらも、彼はゲルドの隣に立つことを選んだ。


『VICTORY ‼︎ —— 1st PLACE』


 ファンファーレが鳴り響き、戦場から帰還する二人。

 街の転送ポートの光の中で、二人のアバターが再構築される。


「おいカルマ。お前、何考え事してやがった」


 ゲルドは少し顰め面をして毒づいたが、すぐに不敵な笑みを浮かべた。


「……フッ。だが最後のはナイス反応だ」


 ゲルドが、無骨な拳を前に出す。

 いつもの勝利の儀式。


 カルマも、それに応えるように拳を合わせた。


「ゲルドが、勝手に前へ行くからだろう」


 コツン、と拳が触れ合う感触。


 リリース間もないこの世界をいち早く駆け抜け、ここまでやってきた相棒。

 その温かな感触を、カルマは噛み締めるように確かめた。


「……おら、レイブンへ行くぞ。あの飯の不味い、俺らのホームに。」


 ゲルドが背を向けて歩き出す。


 だが、いつもあるはずの、冷静な足音が聞こえない。


 不審に思いゲルドが振り返った、その瞬間。


「……!?」


 カルマの体から、真っ黒で不気味なノイズが火花のように噴き出していた。


 それは光の粒子ではない。

 空間そのものを「消しゴム」で乱暴に擦ったような、絶対的な虚無の黒。


「おい……お前……。何だよ、ソレ……ッ!!」


 驚愕に目を見開くゲルドを、カルマは静かに、けれど強い眼差しで見据えた。


 自身の身体が、足元から世界に拒絶されるように消えていく。


「よく聞け、ゲルド。……一度しか言わない……いや言ってやれない。」


 カルマの声にも、ザザッというノイズが混じり始める。


「死亡回数には気をつけろ。……無駄に死ぬな。」


 それは、システムを知る側として彼にできる、精一杯の忠告。


 そして――。


「……生きろ、ゲルド」


 それは、いつも冷静な彼が最後に絞り出した、たった一つの「願い」。


「……お別れだ」


 バツンッ!!


 強烈な破裂音と共に、「排出デリート」のノイズがカルマのすべてを飲み込んだ。


「っ……!! カ、カルマ!!! カルマぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 ゲルドの手が空を切る。


 絶叫がガレリアの空に響き渡ったが、そこにはもう相棒の欠片データすら残っていなかった。


自分で書いた物への愛着も勿論ありますが、泣きながら書いてしまいました……。

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