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第20話:帰還、そして安らぎの灯火



【システム:試練達成を確認。HRスキン「フォレスト・ファントム」の所有権を移譲します】


 無機質なシステムメッセージが響くと同時に、アッシュとクロの体が眩い光に包まれた。


 仮想空間の景色が白く塗り潰され、粒子となって霧散していく。


 次に二人が目を開けたとき、そこは元いたなんの変哲もない静かな部屋だった。


 静寂の中、アッシュの手元にあるグリーンガンが、共鳴するように激しく震え始める。


 すると、森の深淵を思わせる、幻想的な緑の光が溢れ出した。


 その光は吸い込まれるようにアッシュの銃へと溶けていく。


 HR2『フォレスト・ファントム』。


 戦場に幻影を纏わせるような繊細かつ力強い装飾が、使い古されたはずの銃身に新たな命として刻まれていく。


「……これ、が……」


 アッシュは自分の武器を呆然と見つめていた。


 かつての無骨なグリーンガンは、今や深く鋭い輝きを放ち、触れるだけで肌が痺れるようなプレッシャーを纏っている。


「へっ……重てぇな、こいつ。……色んな意味でよ」


 アッシュは照れ隠しのように鼻を鳴らしたが、その指先はしっかりと、新しい相棒――フォレスト・ファントムの感触を確かめていた。


「――フン、見苦しいな。たかがデータ一つで」


 重苦しい沈黙を破ったのは、腕を組んで壁に寄りかかっていたグロウズ教官だった。


 相変わらずの不遜な態度で鼻で笑ったが、その鋭い視線は、二人の連携に確かな評価を下しているようにも見えた。


「だが、最後のあの動き……。あれは悪くなかったぞ。ティフォンの野郎も、少しは驚いたかもしれんな」


 その言葉に応えるように、いつの間にか戻ってきていた本物のティフォンが、音もなく姿を現した。


 感情の読めない氷のような顔をしていたが、アッシュが持つ武器を一瞥し、わずかに口角を上げた。


「おめでとうございます。そのスキンは、持ち主の執念に呼応する。……大切になさってください」


「……ああ、言われなくても分かってらぁ」


 アッシュはぶっきらぼうに返し、隣に立つクロの肩をガシッと掴んだ。


 クロは少し驚いたように目を丸くしたが、すぐにいつもの穏やかな、けれどどこか晴れやかな笑みを浮かべた。


「二人とも、本当にお疲れ様……! 教官、ティフォンさんも、ありがとうございました!」


 観戦室の扉が開き、アダダが勢いよく駆け寄って深々と頭を下げる。


 グロウズ教官は「さっさと失せろ」と投げやりに手を振り、ティフォンは静かに会釈を返した。


 訓練所を後にし、街へと続く石畳の道を歩く。夕暮れの光が、三人の影を長く伸ばしていた。


「なあクロ、さっきの噴水広場……マジで肝が冷えたぜ。煙の中で一瞬、どっちがどっちか分かんなくなりそうだったけどよ。お前の顔を見た瞬間、体が勝手に動いてたわ。……サンキュな!」


 アッシュは、自分の肩にかけられた新しい銃――フォレスト・ファントムの重みを確かめるように言い、隣のクロを小突いた。


「礼を言うのは僕の方だよ、アッシュ。……それに、君が持っている方がずっと輝いて見える。君に託して正解だったよ」


「俺が使いこなせなきゃ、お前に合わせる顔がねぇな!」


 クロは穏やかに首を振った。


「君なら使いこなせるさ。あの大混戦の中、僕を見つけ出した君の直感ならね」


 二人の信頼し合う様子を見て、アダダはなんだか誇らしい気持ちになった。


 彼女は我慢できなくなったように二人の間に割って入ると、自分より少し背の高い二人の頭を「よしよし」と思い切り撫で回した。


「ちょっ、やめろよアダダ! 子供扱いすんな!」


「……弱ったな。僕はペットじゃないんだけど」


 アッシュが顔を真っ赤にして暴れる一方、クロは抵抗しなかった。


 口では困ったように言いながら、その目は細められ、されるがままになっている。まるで、その掌から伝わる体温を、大切なデータとして保存しているかのように。


「今日は特別! 私の奢りだから、お腹いっぱい食べようね!」


 アダダが胸を張って、高らかに宣言する。


 向かう先は、彼らの安らぎの場所――酒場『ミッシュウ・ラン』。


 カランカラン、と小気味よいドアベルの音が響く。


 懐かしい木の香りと、微かな蒸留酒の匂い。扉を潜った瞬間、戦いの緊張が解けていくのがわかった。


 カウンターの奥でグラスを拭いていた店長が、手を止めてこちらを見る。


(あぁ……いつもの三人が帰ってきたな)


 店長は心の中でそう呟き、目を細めた。


 扉を開ける音、足音、そして三人が纏う空気。


 言葉を交わさずとも、その立ち居振る舞いだけで分かった。彼らは死線を越え、見事に試練を乗り越えてきたのだと。


「あ、いらっしゃーい!」


 ディルーが、いつもの弾けるような笑顔で出迎えてくれる。


 三人はいつもの指定席へと腰を下ろした。この椅子に座るだけで、心がふっと軽くなる。


「僕はいつものコーヒーを。少し濃いめでお願いできるかな」


 クロは長旅の疲れを癒やすように背もたれに体を預け、店長に注文を告げる。


 一方、アッシュはクロから託された「フォレスト・ファントム」を、大切そうに膝の上に置いていた。


「ちょっと聞いてよ、でぃーちゃん! 本当に凄かったんだから! 煙の中でクロが危なくて、でもアッシュが助けに来て……それで、クロが自分の手に入れた凄い銃を『アッシュに』って!」


 興奮が抑えきれず、身振り手振りで喋り続けるアダダ。


 ディルーは「うんうん」と笑ってその勢いを受け止めてくれる。


「よせよ、アダダ……大袈裟なんだよ」


 アッシュは顔を赤くしてそっぽを向くが、その口元は緩んでいる。


 クロも苦笑しながら、けれど愛おしそうにアダダの話に耳を傾けていた。


 そんな和気藹々とした光景を眺めながら、ディルーがカウンターの店長の元へと歩み寄った。


「店長……本当に、いいチームだね、あの三人」


 しみじみとしたディルーの言葉に、店長は静かに、けれど深く頷いて言った。


「ああ」


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