第1話:『忘却の楽園への招待状』
鳴り止まない通知音、無機質なオフィスの蛍光灯、そして「麒麟」としての息苦しい日常。
アダダにとって、それは出口のない迷路だった。
幼馴染の蓮吾から届いたそのデバイスは、彼女にとって唯一の救い――色彩に満ちた別世界への招待状だった。
「……よし、今日こそは全部忘れて楽しんじゃおう!」
彼女がデバイスを装着した瞬間、視界が白光に塗りつぶされる。
網膜を駆け抜ける無数の規約ログ。
その中に、一瞬だけ赤い警告が混じった。
[Warning: 没入度維持のため、外部メモリ(現実記憶)へのアクセスを制限します。]
[Warning: 整合性確保のため、特定領域のブロックを実行します。同意しますか?]
「規約なんて、誰も読まないよね!」
「赤い文字で書かれた『同意』ボタンが、まるで警告灯のように点滅していたが、彼女は迷わず指を滑らせた」
直後、彼女の中から「現実」が砂のように零れ落ちていく。
自分が何者で、何に疲れ、何を愛していたのか。
それらすべてがシステムの深層へと隔離されていった。
――視界が開ける。
そこには、現実よりも鮮やかな青空と、風の匂いがあった。
浮き立つ足取りで、彼女は賑やかな通りを歩き出す。
空腹に誘われるように辿り着いたのは、一軒の酒場『ミッシュウ・ラン』だった。
カラン、コロン。
軽やかなドアベルを鳴らして中へ入ると、そこにはスパイスの香りと、一人の男の沈黙があった。
カウンターの奥、黙々とグラスを磨く無骨な男――バレット。
彼は15年前のあの日から、止まることを許されない「弾丸」として生きてきた。
「……いらっしゃい。何にする」
「は、はい! えっと、おすすめは……」
「はーい! いらっしゃいませ!」
奥からパタパタと駆け寄ってきたのは、看板娘のディルーだ。
「うちのおすすめなら、これ! 『店長特製バレットカレー』だよ!」
「バレット、カレー……。あ、それ、お願いします!」
数分後。
「……待たせたな」
バレットが差し出した琥珀色のカレー。
一口食べた瞬間、アダダの思考が白く染まった。
喉の奥で、「何か大切なことを忘れてしまった」という焦燥感が、スパイスの熱に溶かされていく。
「……っ、おいしぃいいいい!!」
「ふふふ、店長のカレーは世界一なんだから!」
ディルーが誇らしげに笑う。
そこからは、もう止まらなかった。
失った記憶の穴を、熱と旨味が埋めていく。
彼女は憑かれたように、スプーンを口へと運び続けた
「あ、お会計ですよね。えっと……この『ダイヤ』でいいですか?」
「わわっ! ストップストップ!」
ディルーが目を丸くして、慌ててアダダの手を押し戻した。
「『ダイヤ』はダメ! そんな貴重な石、ご飯に使っちゃもったいないよ!」
「えっ、そうなの?」
「そりゃそうだよ! ダイヤは**『強くなるため』に使うもの!
この店のお会計は『ゴールド』だけ。ほら、端末を見てみて?」
言われてアダダが端末のメニューを開くと、そこには
【所持:ダイヤ5個 / 10,000ゴールド】**の表示があった。
「あ、本当だ。ゴールドもあった!」
「よかったぁ。間違ってダイヤを使っちゃったら、後で絶対後悔するからね?」
ディルーは安堵の息を漏らす。
その言葉が、この石の重みを物語っていた。
「ありがとう、助かったよ。じゃあ支払いはゴールドで!」
チャリン、と軽やかな決済音が鳴る。
「ありがとう! また来てね!」
ディルーに見送られ、満面の笑みで店を去るアダダ。
扉が閉まり、バレットは少女が座っていた席を、見つめていた。
虚空に消えたかつての相棒へ、問いかけるように。
「……あの子、また来るかな。なぁ、ローヴァン」
前作0〜72話の引き付け、核心を分かりやすくするため改稿をしたlegacy online
1話どうだったでしょうか?
『一言』
読みやすさをメインにこれから頑張ります!!




