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第13話:『不協和音の共鳴(シンクロニシティ)』



「おいゲルド! 背中がガラ空きだぜ! 足引っ張んなよ!」


転送完了の光が消えるか消えないかのうちに、アッシュが不敵な笑みを浮かべて叫んだ。

今回の10vs10マッチングの戦場は、鉄錆の匂いが立ち込める荒廃した工業地帯。

アッシュは愛銃を構え、隣に立つ実力者・ゲルドを真っ向から挑発する。


「……赤髪。その減らず口、戦場でも維持できるといいな」


ゲルドが低く、重みのある声で返す。

その瞳には、未だアダダたちへの不信感が渦巻いていた。


「スタートだ。……行くよ、みんな!」


アダダの合図と共に、10人のプレイヤーが一斉に散った。



最前線では、アッシュとゲルドという二つの暴力的なまでの熱量が激突していた。


アッシュが店長との特訓で得た「ブレない体幹」を活かし、最小限の動きで弾幕をすり抜け、敵の懐へ潜り込む。

その刹那、アッシュが抉じ開けた隙間へ、ゲルドの重厚な一撃が叩き込まれた。


(……チッ。短期間でここまで成長してやがるとはな。この適応速度……見誤ったか)


ゲルドは心の中で舌打ちしながらも、隣で暴れるアッシュの「強さ」を、認めざるを得ない自分に気づいていた。



一方、後方では「静かな異常」が進行していた。


一度も視線を交わすことなく、クロとカルマの指示が戦場を支配していく。


(……なんて男だ。僕の戦術構築ロジックの先を、当然のように踏んでくる。

僕の演算にも追いついてくる、その先まで……。一体何者なんだ?)


クロは心の中で、隣に立つカルマの底知れぬ知略に戦慄していた。



その時だった。


中距離から支援を行っていたアダダのバイザーに、突如として**『紅いノイズ』**が走った。


「――っ」


世界が紅く染まり、敵の動きがデータの糸として可視化される。

無意識に引き抜かれた弾丸は、遮蔽物の隙間を縫うように正確に、敵の急所を貫いた。


その「異常」を、すぐ隣にいたゲルドは見逃さなかった。


「……お前。今のは、何だ?」


ゲルドの声が震えた。


見間違いじゃない。

今、こいつの瞳の中で、無数の「紅い文字列」がのた打ち回っていた。


それは人間が見ていい光景じゃない。

まるで、深淵の底から何かがこちらを覗き返しているような、根源的な恐怖。


「おい、小娘。バイザーを取れ。何が視えている?」


「え……? ゲルドさん?」


「いいから取れッ!」


ゲルドの気迫に押され、アダダはバイザーを外した。


その瞬間、ゲルドは息を呑んだ。


露わになった彼女の左の瞳が、血のような赤に変色し、微かなノイズを放っていたからだ。

だが、それは瞬き一つで消え、いつもの透き通った瞳に戻る。


「……お前。今のは、何だ?」


「えっ? 何か付いてた?」


全く自覚のないアダダ。

その答えを聞く前に、戦場に警告音が鳴り響いた。


敵軍の増援――大規模な強襲レイドだ。



「チッ、まずはこいつらを片付けんぞッ!!」


思考を切り替えたゲルドが、アダダを狙って飛び出してきた敵の前に立ち塞がった。

最短距離で間に入ると、放たれようとした敵の銃口の中へ、自身の銃剣を真っ向から捻じ込む!


火花が散り、内側から暴発する銃火。


ゲルドはすかさず、背後のカルマへ目配せをした。


「……計算通りだ」


死角から現れたカルマが、静かに引き金を引く。

精密なヘッドショットが敵を沈めた。


(……全く。こいつの戦闘スタイルは非効率の極みだ。

リスク管理がなっていない)


カルマは表情一つ変えず、心の中で独りごちる。


本来なら、こんな暴走戦車ゲルドは見捨てるのが合理的だ。

なのに、なぜか身体が勝手にフォローに入ってしまう。


自分の指先が弾き出す射撃と、ゲルドの暴力が噛み合った瞬間の、

パズルのピースが埋まるような感覚。


それが、常に冷徹であろうとする自分の思考を、わずかに鈍らせる。


(……自分らしくもない)


カルマは小さく息を吐き、隣の少年――クロへと冷ややかな視線を流した。


(……そして、クロ。この少年も異常だ)


人間には必ず「思考のラグ」がある。

だが、彼にはそれがない。


まるで最初から「正解」を知っているかのような、無機質な完璧さ。


(……こいつの『中身』は、一体どうなっている?

未登録のイレギュラーか、それとも――)


カルマの瞳が、解析するようにクロを射抜く。


管理者としての鋭い思考が、クロの正体を暴こうと巡りかけた、その時。


「おいカルマ! 次が来るぞ! 援護しろ!」


ゲルドの野太い怒号が飛んできた。


「……人使いが荒いな。今行く」


カルマはクロへの違和感(解析)を後回しにし、ゲルドの隣へと走った。


その判断が、管理者としての「致命的なエラー(裏切り)」になることを、

今の彼はまだ知らない。



(……なんて洗練された銃剣術だ。

ただの射撃戦じゃない。ゼロ距離での判断力、そしてあの力業……。

これがトップランカーの『地力』か)


クロは心の中で、ゲルドが見せた泥臭くも完璧な連携に、深い畏怖を抱いていた。


「すごい……」


アダダが小さく呟くと、ゲルドは背中を向けたまま前方を指差した。


「ぼさっとすんな。

あの赤髪のうるさいのを、さっさと何とかしろ。

一人で全滅させる気だぞ」


視線の先では、アッシュが歓喜の声を上げながら、神懸かった身のこなしで敵陣を壊滅させていた。


「あはは……。本当だ。アッシュ、待ってー!」


アダダが駆け出す。


その後ろ姿を見つめるゲルドの拳は、

正体不明の「畏怖」によって、微かに震えていた。


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