第12話:『重なる足跡、三人の歩幅』
第12話:『重なる足跡、三人の歩幅』
翌日。
ガレリアの広場には、
昨日よりも一層気合の入った顔のアッシュと、
いつもと変わらず冷静なクロが待っていた。
そこに駆け寄るアダダ。
彼女の足取りは、心なしか昨日よりも軽い。
「お待たせ!
二人とも、早いね」
挨拶をしながら二人を見上げ、
アダダは思わず、ふわりと柔らかな笑みをこぼした。
「……なんだよ。
なーにニヤニヤしてんだよ、アダダ」
アッシュが少し照れくさそうに、
鼻の頭を掻きながら怪訝そうな声を出す。
すると、隣で武器のメンテナンスを確認していたクロが、
静かに口を開いた。
「アッシュ、君が相変わらずうるさいな……
なんて、思ってたんじゃないかな?」
「ああ!?
なんだとこの野郎、クロ!
表へ出ろッ!」
「ここはもう『表』だよ。……さあ、行こうか」
「もう、二人とも。
ほら、行くよ!」
アダダは笑いながら二人を急かし、
戦場へのゲートへと飛び込んだ。
⸻
今回の戦場は、崩壊した都市。
転送が完了した直後、
アッシュは抑えきれない闘争心を爆発させるように地を蹴った。
「ッシャァ!
見てろよ店長、俺の特訓の成果をよぉッ!!」
「あ、ちょっとアッシュ!
まだ索敵が――」
アダダの制止も聞かず、
アッシュは単身で敵の群れに突っ込んでいく。
だが、昨日の重心移動の特訓が効いているのか、
その動きは鋭い。
しかし、案の定、
物陰に潜んでいた伏兵に包囲され、集中砲火を浴びる。
本来ならハチの巣だ。
だが――。
アッシュの上半身が、
不気味なほどブレずに固定されたまま、
下半身だけがスライドした。
「――ぬんツ!」
それは回避というより、
「重戦車が無理やり車線変更した」ような挙動。
致命傷となるヘッドショットだけを、
最小限の動きで逸らす――
店長直伝の「体幹」だった。
とはいえ、敵の数が多すぎる。
「――危ないッ!」
アダダの叫びと同時に、
クロの精密射撃が伏兵の銃口を弾き飛ばした。
間一髪で窮地を脱したアッシュの前に、
アダダが仁王立ちで立ちはだかる。
「アッシュ!!
勝手に先走らないでって言ったでしょ!
死にたいの!?」
普段の優しいアダダからは想像もつかないような剣幕。
「最強」を目指すアッシュなら、
ここで反発してもおかしくない。
だが彼は、
バツが悪そうに視線を泳がせると、
ボリボリと頭を掻いた。
「……わりぃ。
つい、身体が先に動いちまった。
……助かったぜ、アダダ」
「……わかればいいの。
もう、気をつけてよ?」
素直に謝るアッシュを見て、
アダダの毒気が抜ける。
そんな二人のやり取りを見て、
クロは小さく吹き出した。
アダダも、クロと顔を見合わせ、
つられてクスクスと笑い声を上げる。
「笑うなよクロ!
ったく……行くぞ、今度こそ完璧に合わせてやる!」
⸻
そこからは、三人の独壇場だった。
アッシュが前線で暴れ、
クロが死角を消し、
アダダが二人の動きを繋ぐ。
まるで15年前の英雄たちがそうであったかのような、
歪みのない連携。
いくつもの小隊を壊滅させ、
弾薬が尽きかける頃、
三人は戦果を携えてホームへと帰還した。
夕暮れに染まるガレリアの街並み。
戦場での緊張感から解放された三人の背中には、
確かな「信頼」という名の絆が、刻まれ始めていた。
⸻
ホームへと帰還し、
装備の整理をしていた三人の前に、
不穏な影が落ちた。
重厚な鎧を鳴らして歩いてくる大男――ゲルド。
そしてその傍らで、
退屈そうに指先を遊ばせているカルマ。
アッシュが真っ先に気づき、
獲物を狙う野犬のような鋭い視線を向けた。
「げっ……ゲルドにカルマじゃねぇか。
なんだ、俺の特訓の成果を拝みに来たのか?
今の俺は昨日までとは一味違うぜ!」
ふっかけるようなアッシュの言葉を、
ゲルドは鼻で笑って受け流した。
彼はアッシュを視界の端に追いやり、
その鋭い眼光をアダダへと向ける。
「おい、小娘。
……また変な飛ばし方してねぇだろうな。
あれはお前がやってるんだろ。
あんな不気味な消え方、普通の仕様じゃねぇ」
戸惑うアダダに、
クロがすかさずフォローを入れる。
「……憶測で彼女を責めるのは筋違いだ、ゲルド。
証拠もないのに彼女がやったと決めつけるのは、
上位ランカーが聞いて呆れるよ」
「んだとテメェ!!
アダダにいちゃもんつけてんじゃねぇよ!!」
アッシュがクロの横から身を乗り出し、
ゲルドの胸元を指差して吠えた。
「文句があるなら表へ出やがれ!
拳で語り合おうじゃねぇか!!」
すると、それまで黙っていたカルマが、
心底不思議そうな顔をして周囲を見渡した。
「……ここ、既に『表』ですけど。
広場のど真ん中ですよ」
「……ッ!!」
アッシュは一瞬、絶句した。
(デジャヴだ……!
さっき、クロにも全く同じことを言われた気がする……!)
妙な既視感に顔を真っ赤にしながらも、
彼は勢いだけで押し切るように叫ぶ。
「う、うるせぇッ!!
屁理屈言うな!
よし、決まりだ!
10vs10(テン・バイ・テン)のマッチングを申請しろ!
俺らとPT組んで、
アダダがそんな変なことしねぇか、
その汚ねぇ面でよーく見守ってやがれッ!!」
「……は?」
カルマが呆然と声を漏らす。
難癖をつけてきた相手を、
あえて「味方」に引き込んで監視させようという、
アッシュなりの無茶苦茶な論理だ。
「面白い。
……そこまで言うなら、
お前たちの底の浅さを隣で見届けてやろう」
ゲルドが不敵に口角を上げた。
だが、その瞳の奥は笑っていない。
(もし、こいつが本当にあの『消失』を引き起こす元凶なら……
徹底的に問い詰めてやるだけだ)
「あ、アッシュ……本当にいいの?」
アダダが不安げに袖を引くが、
アッシュは親指を立てて笑ってみせた。
「おうよ!
疑ってる奴を黙らせるには、
横で俺たちの強さを見せつけるのが一番だからな!」
こうして、
反目し合う二つのグループが手を組む、
異例の多人数マッチングが幕を開けようとしていた。
だが――
あの茶髪の女性の視線が、
音もなく彼らを追い続けていることに。
まだ、誰も気づいていなかった。




