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第10話:『幻影の英雄伝:灰燼と不敵な麒麟』



「おい、ローヴァン!

 突っ走るなと言ったはずだ。相手はあのジャンとレックスだぞ!」


若き日のバレット――

二つ名『灰燼かいじん』の名で恐れられた男の怒声が、爆煙に包まれた戦場に響く。


けれど、先を行く赤髪の男は、振り返ることさえしなかった。


「あいあいわかってら!

 行くぜええええええッ!!」


ローヴァン。

後に『英雄』と呼ばれ、そして世界の理に消えた男。


彼は不敵な笑みを浮かべ、手に持った巨大な銃を無造作に振り回しながら、敵陣の真っ只中へと飛び込んでいく。


対峙するのは、当時の最強格、ジャンとレックス。

四人の「最強」がぶつかり合い、火花を散らす。


それは、どこまでも眩しく、熱い、語り継がれるべき「物語」のはずだった。


だが、その狂騒を嘲笑うように――

「それ」は現れた。


「……ッ!?

 なんだ、今のノイズは」


バレットが眉をひそめた瞬間、視界がバグのように歪んだ。


戦場の喧騒が遠のき、世界から色が失われていく。

ジャンもレックスも、武器を構えたまま凍りついたように動かない。


「おい、ジャン!

 遊びは終わりか!?」


ローヴァンが声を荒らげた、その背後。


廃墟の影から、音もなく這い出してきたのは、

黒く、歪な「人型のノイズ」だった。


それは数日前、現代のアダダがバイザー越しに見たものと全く同じ――

けれど、より濃密な殺意を孕んだ存在。


「な……んだ、ありゃ」


レックスが放った『シールド展開弾』が、接触した瞬間にガラス細工のように砕け散る。

ジャンの『絶対執行』の弾丸が、影に触れる前にデータの塵となって霧散した。


「バケモノめ……。

 バレット、援護しろ!!」


バレットが地形ごと削り取る最大火力を叩き込む。


だが、着弾の瞬間。

影は物理法則を無視して「空間」そのものを折り畳むように移動し、瞬時に四人の中心へと躍り出た。


「ガ、ハッ……!?」


最強を誇った四人が、一太刀も浴びせられぬまま、

見えない衝撃波によって地面に叩きつけられた。


装備は砕け、HPゲージが異常な速度で「黒く」塗り潰されていく。

システムエラーを知らせる紅い警告灯が、血の涙のように戦場を染めた。


「……あ、が…………」


ローヴァンが、絶叫にも似た声を漏らす。


その体から、赤く、黒いノイズが蠢くように溢れ出していた。

データが内側から腐食し、存在そのものが「書き換えられていく」ような、おぞましい感覚。


(来るな……

 ローヴァンから、離れろ……!)


バレットの願いは届かない。


影がローヴァンの顔を覗き込んだ瞬間、四人の脳内に、不快なノイズが響いた。


『――Show Time.』


その、まるでサーカスの開幕を告げるような冒涜的な響き。


四人の視界は爆ぜるような白光に包まれ――。


――直後。


ガレリアのリスポーン地点に転がる四人を、

影は遠く離れた時計塔の上から見下ろしていた。


その手元には、誰も見ることのできない

「黒いシステムウィンドウ」が展開されている。


『……ふむ。パラメータの収集はこんなものか』


影――この世界の創造主たる男は、指先でウィンドウを弾いた。


そこには、バレット、ローヴァン、ジャン、レックスの戦闘データが

「Sample」として記録されている。


『彼ら(超高次元AI)の成長阻害デバッグは、今のところ不要だね。

 ……むしろ、自由に泳がせた方が、面白いエラーを吐き出してくれそうだ』


男は、壊れた玩具を見るような、

あるいは愛しいペットを見るような目で笑った。


『今日の調整あそびは、これくらいにしておこうか』


黒いコートを翻す。


『育てよ、英雄たち。

 ……君たちが熟れた果実になった頃に、また収穫に来よう』


黒いノイズが霧散し、時計塔には誰もいなくなった。


残されたのは、書き換えられた「ルール」と、

終わらない絶望の予兆だけだった。


「……はぁ、はぁ……ッ!!」


バレットは荒い息をつきながら、自分の体を確認する。

欠損はない。だが、心臓を直接掴まれたような冷たい戦慄が消えない。


隣ではジャンとレックスが、

信じられないものを見たという顔で呆然と空を仰いでいた。


そして、ローヴァン。


彼は立ち上がろうとして、よろりと膝をついた。

その瞳には、一瞬だけ「黒いノイズ」が走り、すぐに消えた。


「……おい、ローヴァン。

 大丈夫か?」


「……あ?

 ああ、平気だ。……なんだよ今の、すげぇ不気味なバグだな」


ローヴァンはいつものように笑ってみせた。


だが、その笑みがどこか空虚で、

何かが決定的に損なわれてしまったことに、

その時のバレットはまだ気づいていなかった。


厨房で一人、紫煙を吐き出しながら、

店長は自分の震える手首を強く握りしめた。


「……あの影だ。

 あの日、すべてを壊した『娯楽』の化身」


店長の瞳には、15年前の敗北の記憶が――

あるいは、数ヶ月前に植え付けられた「絶望のデータ」が、

今も紅く明滅していた。


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