表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

【短編版】「どブス!」と罵られた公爵令嬢、冷徹王子の「餌」になる ~そんな言葉はこの世界には存在しない?~

作者: Suzuno

 シャンデリアの光が宝石のように降り注ぐ、王立学園の大ホール。今宵は、建国記念を祝う夜会。


「アンジェーヌ嬢、話がある!」

「なんでしょう?ユリウス様?」


「この、どブス!」


「……………え?」

 思考が、凍り付いた。

 今、なんて?

 私の耳に届いたのは、完璧な貴公子の唇から発せられたとは思えない、あまりにも汚らわしい、醜悪な響き…

 その瞬間、脳内で何かが焼き切れるような衝撃と共に、見知らぬ光景がなだれ込んできた。アスファルト、自転車のきしむ音、そして憎悪に満ちた男の顔――


「あ…………」

 全身の力が抜け、糸が切れた人形のように、私はその場に崩れ落ちた。薄れゆく意識の中、ユリウス様の美しい顔が、なぜか満足そうに微笑んで見えた。


 ◇


 次に目覚めた時、私は公爵邸の自室のベッドの上だった…


 思い出した、全部、思い出してしまった!

 私は、転生者だ!しかも、しがないOL!

 自転車で、公道を走っていたら、後ろからきた知らないおじさんに、

「この、どブス!」

 と追い抜きざまに、突然、罵られ、呆然として、ハンドル操作を誤り、車道に転げてトラックに引かれて死んだ…

 うわー、なんと言う黒歴史!思い出したくなかった…


 今世の私は、クライネルト公爵家の長女、アンジェーヌ・フォン・クライネルト。『クライネルトの宝石』と謳われる美貌の公爵令嬢だ。そして、忌まわしい前世を思いださせた張本人は、私の婚約者である、シュミット侯爵家の次男ユリウス様…

 なんなの?なんで、「宝石」とまで言われる美貌の少女になってるのに、また「どブス!」とか言われないといけないわけ?


 あの夜のことは「夜会の熱気に当てられて倒れた」と処理され、ユリウス様の暴言は、誰の耳にも届かなかったことになっていた。

 んなわけない!みんなのいる前で、思いっきり言ってくれたわよね!

「ユリウス様にお話を伺いたいわ」

 そう侍女に告げても、「ユリウス様は侯爵家のご多忙で、しばらく面会は難しいとのことです」という返事が返ってくるだけ。

 …逃げたわね。


 ◇


 回復し、学園に登校すると、悪夢は学園で、より陰湿な形で再燃した。

 すれ違う令嬢たちが、扇子で口元を隠しながら、くすくすと笑いながら

「…ドブス令嬢よ…」

 廊下の角を曲がれば、男子生徒たちがわざとらしく大声で話している。

「おい、聞いたか? 今度の法学の課題、『ドブス』ごい難しいらしいぜ!」

「ああ、ドブスごいよな!」


 ありえない。そんな言葉の使い方はしない。あれは、私に、わざと聞かせているのだ。

「貴方がた!何か言いたいこと事があるなら、ハッキリおっしゃったら!」

 日に日に、その言葉は伝染病のように学園中に広がっていった。誰もが、私を傷つけるためだけに、その汚い言葉を口にする。

 イライラしつつ、意味を問いただしていたら、あっという間に『情緒不安定なヒステリー令嬢』などと、言われるようになってしまった!


 なんだこれ!収集がつかなくなり、私は部屋に引きこもった。

 ユリウス様に会って真実を問い質したいのに、一向に捕まらない。イライラが頂点に達していた。

 鏡に映る自分は、確かに美しいはずだ。『クライネルトの宝石』。それが、今の私の評価のはず。なのに、なぜ。なぜ、皆に『どブス』と罵られなければいけないの?


「どブス!?…ふざけるな」

 鏡の中の自分を、睨みつける。

「ふざけるんじゃないわよ!」

 前世では、あんな理不尽な言葉で死んだ。今世では、こんな陰湿ないじめで心を殺してたまるものか。

 そうだ。思い出せ、前世の私。理不尽なクレーマー、無能な上司、嫉妬深い同僚。私は、もっとタフだったはずだ。

「――ビークール、私!」

 パンッ、と自分の頬を軽く叩く。

 冷静に、状況を分析するのよ。


 この現象は、あまりに異常だ。まるで、悪意を持った誰かが、遠隔操作で人々を操っているかのよう。そうだ、これはきっと…『呪い』よ! 私を貶めるためだけにかけられた、特殊な呪い。

 ならば、やることは一つ。

 呪いを解く方法を探す。

 呪いの本なら、禁忌とされているような知識が必要だわ。

 学園の図書室の、さらに奥。特別な許可証がなければ入れない、『禁書庫』。

 そこに、きっと手がかりがあるはず。

 幸い、私の兄は第一王子の側近だ。兄の証明書の一つや二つ、拝借したところで罰は当たらないでしょう。

 私は、クローゼットの奥から、ほとんど着たことのない地味なワンピースを引っ張り出した。


 待ってなさい、黒幕さん。

 公爵令嬢(元OL)の、逆襲を始めるわよ。


 ◇


 学園の図書室の奥、重厚なマホガニーの扉が、私の行く手を阻んでいた。『禁書庫』。特別な許可なくして立ち入ることを許されない、知識の聖域にして禁域。

 私は懐から一枚の羊皮紙を取り出す。兄の書斎から拝借した公的な証明書に、兄のサインを必死で真似て書き加えた偽造許可証だ。

(お兄様、ごめんなさい! あなたの可愛い妹の、人生がかかっているのです!)

 心の中で十回ほど謝罪し、受付の司書に証明書を提示すると、厳格そうな老司書は、眉間に皺を寄せながら、許可証とわたしの顔を見比べる。

 背中に冷たい汗が流れるが、兄の病が心配だという健気な演技と、『クライネルトの宝石』の美貌で乗り越え、渋々といった体で重い扉の鍵を開けてくれた。


 一歩足を踏み入れると、空気が変わった。カビと古いインクの匂いが混じり合った、濃密な空気が肺を満たす。薄暗い書庫に、天窓から差し込む光が筋となり、無数の埃をキラキラと照らしていた。

「すごい…」

 ここなら、きっと見つかるはず。私を苦しめる、あの呪いの正体が。

 私は、壁一面に並ぶ背表紙の文字を必死で追い始めた。

 どれほどの時間が経っただろうか。何冊か手に取ってはみたものの、解読不能な古代語の羅列に、心が折れそうになっていた、その時だった。


「ここは禁書庫だぞ? なぜ、 一介の令嬢がここにいる?」

 背後からかけられた、氷のように冷たい声に、心臓が喉から飛び出しそうになった。

 慌てて振り返ると、そこに立っていたのは、第二王子アレクシス・フォン・ヴァインベルク殿下。笑顔も見せず、学生同士の交流を持とうともしない、冷徹王子。彼は、まるで気配を消していたかのように、音もなく私のすぐ後ろに佇んでいた。


「いやー、兄が具合が悪くなりまして…どうしても急ぎの調べ物があると…お使いみたいなもので…」

 咄嗟に、司書に使った言い訳を口にする。しかし、目の前の王子は、彫像のように美しい顔に、嘲るような笑みを浮かべた。

「ほう…おまえの兄は、今日も元気に我が兄の部屋から、文官塔へ走っていたぞ」

「ぐっっ!」

 喉の奥で、カエルが潰れたような声が出た。あっさり、嘘がバレた…!


 彼は私の手元にある、呪詛に関する古書に目を落とす。

「何を調べている? おまえに関わる、一連のことか?」

「…ご存じでしたか…」

「概要は把握しているが…。『ドブス』と言われて倒れてから、他の者からも『ドブス』と言われて、ヒステリーを起こして精神の病にかかっているとか?」

 その、あまりに的確で、失礼極まりない要約に、カッと頭に血が上る。

「なんですかそれ!? 大体、『どブス』なんて言われて、冷静でいられる淑女がおりますか!?」

「おまえには『ドブス』の意味がわかるのか?」

「はぁ?? 何気にアレクシス殿下は、デリカシーもなく、だいぶ、失礼ですわね!!」

 すると、殿下は心底不思議そうに、わずかに首を傾げた。

「…おまえの方が、何言ってるかわからないが、だいぶ失礼だけどな。…デリカシーとはなんだ? ドブスと同じ国の言葉か?」

「え…?」

 話が噛み合わない。戸惑う私に、彼は決定的な事実を突きつけた。


「おまえ、気付いているか? この国には『ドブス』と言う言葉も『デリカシー』と言う言葉もない!」


 衝撃、という言葉では足りない…頭を鈍器で殴られたかのようだった…

 そういえば! 私は前世の言葉だから、当然のように容姿を貶める言葉だと憤っていたけれど、この世界に転生してから、そんな下品な言葉、一度だって聞いたことがなかった!

 いや、待って。アレクシス殿下は王子だし、私も公爵令嬢だ。そんな下賎な言葉を、ただ耳にする機会がなかっただけかもしれない…

「おまえ、俺が王子だから聞いたことないだけ…とか思ってないか?」

「―――ッ!?」

 え? 何この人! 心読めるの? エスパーなの?

 彼は、私の動揺を楽しむかのように続ける。

「言っておくが、下町でも、スラムでもそんな言葉はないぞ」


 そうなの? え、じゃあ何? なんでみんなして、私に「どブス」とか言っちゃうわけ? 意味のない言葉を、公爵令嬢である私にぶつけるなんて、一体どういうことなの!?

「…と、言うわけで、全部、話せ。『ドブス』とはどういう意味なのか、なぜ、おまえはその意味を知っているのか…」

「…いやです…」

 いやいや、『転生しててー、前世の言葉でー、顔が悪いって意味なんですよー』なんて言えるわけないじゃない! 頭がおかしいと思われるわ!

「…そうか。…じゃあ、司書に禁書庫に不審者がいると…」

「あーーー!言います、言います!」

 脅しとか、ひどくない!? まあ、今でも情緒不安定女みたいに周りに言われてるし、今更よね…。

「…内緒にしてくださいね? 頭おかしいとか言いふらさないでくださいよ?」

「約束する」


 私は観念して、全てを打ち明けた。自分が、この世界とは違う(ことわり)の世界から来た転生者であること。「どブス」が、容姿を激しく蔑む、耐え難い侮辱の言葉であること。そして、その言葉が原因で、前世の命を落としたことまで…。

 話し終えた私を見て、アレクシス殿下は腕を組み、ふむ、と何かを考えるそぶりを見せた。

「…でも、この世界に『どブス』なんて言葉がないのなら、やっぱり呪いだと思うんです! こんな無駄話してる場合じゃなかった! 呪いについて調べなきゃ!」


 私が再び本に手を伸ばそうとすると、彼は心底呆れたように、こう言った。

「バカか? おまえ。そんな呪いあるわけないだろ?」

「なっ…!」


「しかし…おまえの話を聞いて、見えてきたぞ。…おまえ、バルトロって商人知ってるか?」

「わたしの名前は『おまえ』ではありませんけど! バルトロと言えば、パリー商会の会頭のバルトロですか? 『商王』とか言われてる、大商人ですよね?」

「確か、アンジェーヌだったか?面倒だから、アンジェでいいか。パリー商会は表向きの顔だ。やつは、裏では、相当悪どいことをやっている。しかも巧妙な手口で尻尾が掴めない。」


 アレクシス殿下は、地上げ行為や、高利貸しの実態など、バルトロの悪行を語り出す。

「最近では、平民を貴族に仕立て、年老いた子爵や伯爵あたりの王宮勤めの子息女のいる家に、「子息の代わりにきた。今、彼は王宮で、不正疑惑にかけられていて、その補填のお金が至急必要になった。子息から手紙を預かってきた…私は親友で、急いで、ご両親に届けるように言われた。お願いだ!彼を助けてくれないか!」とお金を騙し取る。そして、その役の平民は「受け子」と呼ばれていて、さらにその上に取りまとめ役、その上に幹部がいるらしく、バルトロまでたどり付けない。」

「オレオレ詐欺!?」


 私が、思わず前世の言葉で相槌を打ってしまい、彼の金色の瞳が、確信を帯びていく。

「…やっぱり、アンジェは知ってたか。もしも、バルトロが、おまえと同じところからきた、転生者だとしたら?」

「それは、飛躍しすぎでは…」

「悪行以前に、バルトロは今までにみたこともない玩具などの販売をしている。しかも…おまえの婚約者とバルトロが密会をしているぞ?」

「っっ!」

 彼は、シュミット侯爵家がバルトロに多額の借金を負っていること、そして、婚約破棄による賠償金目当てで、今回の騒動を仕組んだ可能性が高いことを、次々と暴いていった。


「そんな!でも、ユリウス様だけじゃなく、他の人たちからも「どブス」って言われ続けてるんですよ?」

「それも調べたところ、全て、バルトロへの借金がある家だ。間違いなく、バルトロが裏で糸を引いてるんだろうな。」

「調べた??って今、私、話したばかりですよね?」

「逆だ。俺は、バルトロを捕まえるために追っていたところ、シュミット侯爵家と密会をしていた。そうしたら、この「ドブス」騒動だ。何かあるって思うだろ?それで、当事者に話を聞こうと思って、後をつけたら、なんと、「禁書庫」に忍び込む規則破りをする公爵令嬢がいたと言うわけだ!」

「っぐ!」

 全て、彼の手のひらの上だったのだ。


「話を聞いた限りでは、バルトロの狙いはアンジェだ…。よし! おまえ、餌になれ! アンジェを囮にバルトロの尻尾をつかむ!」

「は? いやです!」

「このままでは、この国の経済が破綻する。頼む!」

「いやですよ! 私のことなんだと思ってるんですか? 一介の、可愛い公爵令嬢ですよ!?」

「年老いた領主が、バルトロに騙されて、金を奪われている…。かわいそうだとは思わないか?」

「………」

 私が言葉に詰まると、彼は最後の切り札を切った。

「…そうか、仕方がない。扉の前に護衛を待たせていたな! 禁書庫に忍び込んだ不届き者を突き出さねば…」

「あー!!やります! やります! やればいいんでしょ!」

 私の悲痛な叫びが、静寂な禁書庫に響き渡った。


 こうして、私は氷の王子の脅迫により、国家を揺るがす大事件の「餌」という、とんでもない役目を引き受けることになってしまったのだった。


 ◇


 私とアレクシス殿下の、危険な共闘生活が始まった。

 昼は、精神薄弱な令嬢アンジェーヌとして社交界という舞台に立ち、夜は、元OLの分析能力を持つ公爵令嬢として、氷の王子と秘密の作戦会議を開く。…我ながら、とんでもない二重生活だ。


「学園では、なかなかの演技ぶりだな。」

「そりゃ、どーも。王子様に、お褒めにあずかり、光栄ですこと!」

「……大丈夫か?」

「……大丈夫なわけないでしょ?周りから、ヒステリー令嬢だの、精神錯乱だの言われて、取り巻きすらいなくなったわよ!」

「無理はするなよ?」

 アレクシス殿下の、不意に見せる優しさに、少し顔が火照るのを感じて、俯いてしまった…

 え?なんか、悔しいんだけど!

「…今更、後には引けないわ!ぜっっったいに、あいつら罠に引っ掛けてボコボコにしてやるんだから!」

 アレクシス殿下は、くすりと笑い

「アンジェは…強いな…」

 と言いながら、私の頭を、ぽんぽんと撫でた。

 それ、反則!


 照れ臭ささを隠したくて、

「アレクシス殿下は、なぜバルトロを追っているのですか?」

 と何気なく聞いてみた。

「…俺は、第二王子だからな…兄の治世を安泰にするためにも、闇はなるべく払わなければならない。兄の露払いが、俺の役目だ…」

 アレクシス殿下の第二王子としての覚悟のようなものを感じて、何も言えなかった…


 その後は、作戦の要は、私が「いつ壊れてもおかしくない、精神的に追い詰められた令嬢」を、いかにリアルに演じられるかにかかっていると話あい、敵が、何が目的かわからない今、追い詰められているにも関わらず、ギリギリのところで踏みとどまっている姿を見せて、第二フェーズへ持ち込ませる方法を考えた。


 ◇


 そして、決定的な見せ場が、ある侯爵夫人が主催する夜会で訪れた。

 バルトロから金を受け取っているであろう子飼いの令嬢が、わざとらしく私に近づいてくる。

「まあ、アンジェーヌ様。今日も顔色が優れませんこと。…あら、わたくしったら、なんて『ドブス』いなことを申し上げてしまったのかしら。お許しになって?」

 来た。完璧なタイミング、完璧な挑発。


 私は、息を呑み、ショックで体を震わせる。扇子を持つ手が、カタカタとコントロールを失ったかのように揺れた。瞳には、今にも零れ落ちそうな涙の膜を張る。

「…なぜ…そのような、ひどいことを…」

 か細く、途切れ途切れだが、ヒステリックな声…これ、意外と難しいのよ。周囲の注目が、一気に私たちに集まるのを感じる。

 私は「ああ…!」と小さな悲鳴を上げると、近くにあった水差しを掴み、わざとテーブルにぶつけてカチ割った。冷たい水が、高価なシルクのドレスを濡らし、破片が飛び散る。

 痛てっ!手、ちょっと切っちゃった。親指と人差し指の間から、血が流れ出た。

「いやっ…! 聞きたくない…! もう、何も聞きたくないわ!」

 私は、錯乱したように叫ぶと、顔を覆ってその場から逃げ出した。

 ホールの扉が閉まる直前、勝ち誇ったような令嬢の顔と、焦ったようなアレクシス殿下の顔が見えた。


 ◇


 その夜、そのままの足で、いつもの密会場所である学園の図書室の片隅へ行き、私はぐったりと椅子に凭れていた。

 すると、すぐさま、アレクシス殿下が飛び込んできた。

「バカ者!おまえ、怪我しただろう?何やってるんだ?もっと、自分を大事にできないのか?見せてみろ!」

 無理やり、私の手を掴むと、いつの間にやら用意した救急セットで、私の手を消毒し、包帯を巻き始めた。

「大袈裟ですよ!かすり傷ですから。でも、どうです?あそこまで、公衆の面前でやれば、そろそろ、向こうも動き始めると思うんですけど!」

「…はぁ…そうだな…バルトロも、おまえが限界だと確信するだろうな」

 彼はふい、と顔を背けた。だが、次の瞬間、彼の手が伸びてきて、私の顎を掴んでぐい、と上を向かせた。

「なっ…!?」

 至近距離で、彼の金色の瞳が、私の顔をじっと観察する。それは、獲物を値踏みするような、それでいて、どこか違う…熱を帯びた光。

「…いくらなんでも、やりすぎだ。おまえを傷つけたいわけじゃない…」

 私の顎を掴む彼の指先が、ほんのわずかに震えていることに、私は気づいてしまった。彼が隠そうとしている、不器用な気遣い。そして甘い空気…

 心臓が、うるさいくらいに鳴り響き、顔に集まる熱を誤魔化すように、

「あーー!だから、私の名前は「おまえ」ではありませんし、「餌になれ」とおっしゃったのは、アレクシス殿下でしょう!?」

 と、叫んで、この場の雰囲気をぶち壊した。


 彼はパッと手を離し、懐からネックレスを取り出し、私の首につける。

「…お守りだ。俺の代わりに守ってくれる。必ずつけておけよ…アンジェ…」


 ◇


 その頃、商王バルトロはほくそ笑んでいた。

「ようやく、あの女も限界か。ざまぁみろ!これからが本番だぞ、どブス女!」

 アンジェーヌが夜会で錯乱したという報告は、すぐに彼の耳に届いていた。彼は、計画を最終段階に進める時が来たと判断した。

「ユリウスを呼べ!」


 呼びつけられたユリウスに、バルトロは『偽りの療養』作戦を命じる。一度入れば二度と出られない、湖畔の監獄へ、アンジェーヌを送り込む計画だ。

「ですが、それではクライネルト公爵が…!」

「だからこそ、おまえの出番だろうが!」

 バルトロの脅しに、ユリウスはもはや頷くことしかできなかった。


 ◇


 そして、運命の日は、突然やってきた。


「アンジェーヌ、少し話がある」

 父であるクライネルト公爵に、母と共に書斎へ呼ばれた。部屋のソファには、なぜか婚約者のユリウス様が、沈痛な面持ちで座っている。

「アンジェーヌ」

 母が、涙ぐみながら私の手を取る。

「あなたの体のことが、とても心配なの…」

 その言葉に続いて、ユリウス様が、完璧な役者のように悲痛な表情で口を開いた。

「どうか、彼女に安らぎを与えてあげたいのです!」

 彼が広げたパンフレットには、美しい湖畔に佇む、白亜の療養施設が描かれていた。

「ここは、王都から離れた静かなサナトリウムです。どうか、しばらくの間、ここで…」


 ――来た。

 これだ。これが、奴らの「次の一手」。

 全身の血が、急速に冷えていく。まさか、監禁とは、思っていなかった…

 どうする?隔離なんぞされたら、アレクシス殿下に連絡することも、助けを呼ぶこともできなくなる。まさか、王都外に連れ出されるとは…

 とりあえず、一旦、回避して、アレクシス殿下と相談しなくては…


「嫌です、お父様、お母様! 罠です! この人は嘘をついています!」

 私は必死に訴えた。だが、私の必死の形相は、愛する娘の健康を案じる両親の目には、病が進行した「ヒステリー」の発作にしか映らなかったようだ。

 父が、悲しげに首を横に振る。

「アンジェーヌ、聞きなさい。これは決定だ。おまえのためなのだよ」

「そんな…!」

 ユリウス様が、私から視線を逸らし、小さく、勝利の笑みを浮かべたのを、私は見逃さなかった。


 逃げられない。私がこれまで続けてきた「演技」が、最悪の形で、私自身をこの檻へと追い込んでしまったのだ。

 明日、私はこの家を出て、人里離れた監獄へと送られる…


 ◇


 翌朝、クライネルト公爵家の玄関には、地味だが頑丈な作りの馬車が一台、停まっていた。これから私が「療養」という名の監獄へと向かうための、護送車だ。

 両親は、涙ながらに私の手を握りしめた。「すぐに良くなるからね、アンジェーヌ」「何かあれば、すぐに知らせるのですよ」

(…その「何か」があった時、知らせる術がない場所に連れて行かれるのですよー、お父様、お母様…)

 喉まで出かかった言葉を、私は必死に飲み込んだ。今ここで何を言っても、彼らの耳には届かない。私は、完璧に「心を病んだ可哀想な娘」を演じきるしかなかった。


 馬車に揺られること、半日。窓の外の景色が、見慣れた王都の街並みから、鬱蒼とした森へと変わっていく。不安に押しつぶされそうになる心を、必死で叱咤する。

 大丈夫。私には、これがある!

 私は、胸元で冷たく輝くネックレスを、ぎゅっと握りしめた。アレクシス殿下がくれた、お守り。彼がただの感傷で、こんなものを私に渡すはずがない。きっと、何か意味があるはずだ。そう信じることだけが、今の私の唯一の支えだ。


 ◇


 やがて、馬車は美しい湖の畔に佇む、白亜の館の前で停まった。パンフレットで見た通りの、絵画のように美しいサナトリウム。だが、近くで見ると、その印象は一変した。庭師や医師のふりをした屈強な傭兵が、何十人も庭やら館内をウロウロしている。

 鉄格子とかないだけ、まだましか…ため息しか出ない…まるで、美しい私を囲うための鳥籠ね!


 案内されたのは、「病室」というにはあまりに殺風景な、石造りの冷たい一室だった。華美な装飾は一切なく、あるのは硬そうなベッドと、小さなテーブルに花もない花瓶だけ。

 侍女が無言で部屋を出ていくと、背後でガチャン、と重々しい鍵の音が響いた。

 どれほどの時間が経っただろうか。

 再び鍵が開けられ、部屋に入ってきたのは、白衣の医者ではなかった。


「ようこそ、クライネルトの宝石とやら…」

 ゆったりとした足取りで現れたのは、全ての黒幕――商王バルトロ、その人だった。

「ひどい顔だな。まあ、無理もないか。これから始まる、おまえの『本当の療養』を思えば」

  彼は、まるで勝利を味わうかのように、ワインを一口飲む。その余裕綽々の態度に、私の恐怖は、いつしか冷たい怒りへと変わっていった。 私は、震える声で、ずっと聞きたかった質問を口にした。


「…なぜ、私にここまで執着なさるのです?」

 その言葉は、彼の愉悦に満ちた表情を、さらに醜く歪ませた。

「執着? ハッ、人聞きが悪いな。これは『復讐』だ。おまえへの、十年越しの、な!」

  彼は、堰を切ったように語り始めた。


 「俺も、おまえと同じ転生者だ。だが、おまえのように恵まれた生まれではなかった。貧しい平民として、泥水をすするような毎日だったよ」

  彼の目が、狂的な光を帯びる。

「10年前、街中で、迷惑な豪奢な馬車が、俺の馬車の前をノロノロと走っててな。イライラしたよ!貴族様だか知らねぇが!前世で俺の前をチャリで走っていた、あの時の女を思い出させた!」

 ゴクリ、と私は息を呑んだ。

 

「そうしたら、その貴族様の馬車が急に止まりやがって!ガキが出てきて、道端に落ちたハンカチなんぞ拾ってやがった!そのガキをみた時に、確信したよ!このガキはあの時の女だと!

 知ってたか?お前が、フラフラとトラックに突っ込んでった後、そのトラックは俺の方に向かってきて、巻き添えで俺も殺されたんだよ!お前のせいで!俺は死んだんだ!」


 衝撃の事実!なんと、死ぬ前に、あの「どブス!」って叫んでたおっさん一緒に死んでたのか。そして、その転生者がこの人と。だから、私に執着してたのねー。納得!


「俺を殺した元凶が、公爵令嬢として、何不自由なく、ヘラヘラと笑いながら生きている! こんな理不尽が許されるか!」

  彼は、ワイングラスを壁に叩きつけ、粉々に砕け散った。

「だから決めたんだよ! おまえから全てを奪い、不幸のどん底に突き落としてやると! あの夜会でユリウスに言わせたのは、始まりの合図だ! どうだ、惨めな気分だろう!? この、どブスが!」

 彼の口から放たれた、魂に刻み込まれた忌まわしい言葉。

 だが、その独白を聞き終えた私の心は、不思議なほど凪いでいた。恐怖はない。あるのは、全ての謎が解けたことによる、確信と、燃え盛るような闘志だけ。


 ここからが、私の仕事だ。

 大体、あーゆう、「自分の思い通りに物事が進まないと怒るやつ」って、自尊心くすぐってやれば意外とちょろいのよねー。前世のクレーム対応で覚えた技術だ。


 私は、恐怖に打ち震えるか弱い令嬢の仮面を被り直し、怯えたような、それでいて、どこか尊敬するような眼差しをバルトロに向けた。

「…すごい。すごいのね、あなたは…」

「…なんだと?」

 予想外の反応に、バルトロが眉をひそめる。

「だって、私一人をここまで追い詰める計画もそう…。でも、それだけじゃないのでしょう? ユリウス様のシュミット侯爵家を手玉に取り、多くの貴族を支配下に置く…あなたのその『手腕』、一体どうやっているの?」

 私の、か細いが熱のこもった賞賛に、バルトロの口元が愉悦に歪んだ。

「フン、当然だ! この世界の連中は、揃いも揃って頭が固いからな! 俺の前世の知識があれば、赤子の手をひねるより簡単よ!」

(…乗ってきたわね!)


「それに、年老いた貴族からお金を巻き上げる手口も見事ですわ! 『オレオレ詐欺』でしたっけ? 」

「そうだとも! どこの世界でも、年寄りは搾取される生き物なんだよ!子供が困っていると言えば、ホイホイと金を出す!俺の組織は完璧だ! 尻尾なんて掴めるものか!」

 彼は、私が前世の言葉を知っていることに、気を許したのか、自らの詐欺の手口を、まるで武勇伝のようにペラペラと語り始めた。

 土地の地上げ行為、不当な貸付け、ポロポロと悪行とその手口を暴露していく。


 私は、最後の仕上げに取り掛かる。

「でも、一番すごいのは、ユリウス様を操ったことよ。どうやって、あのプライドの高い侯爵家の貴族を?」

「簡単なことだ。シュミット家は、俺の仕掛けた別の詐欺で領地を失いかけ、火の車だった。そこへ融資を持ちかけ、借金で首が回らなくなったところで、おまえとの婚約破棄と賠償金の話を持ちかけたのさ。全ては俺の筋書き通りよ!」

 …これで、全て揃った。

 ユリウスへの教唆。詐欺行為の数々。そして、私への陰謀。その全てを、彼は自らの口で認めた。

 これで、ユリウス有責での婚約破棄に持ち込める!


 私は、震えるか弱い令嬢の仮面を、ゆっくりと脱ぎ捨てた。そして、氷のように冷たい、素の瞳で彼を見据える。

「自己紹介がまだでしたわね、バルトロさん」

「…なんだ、その目は」

「私の名前はアンジェーヌ・フォン・クライネルト。役職は、第二王子付き、対商王特別捜査協力官心得…といったところかしら」

 ここからは、賭けだ!私は、ネックレスを強く握り込み、アレクシス殿下に助けを求める!

 お願い!届いて……助けて、アレクシス様!


「は?何が、特別捜査協力官心得だ!生意気なんだよ、おまえはよ!その目!イライラさせる!数ヶ月は様子見をしようかと思ったが、やめだ!すぐにでも両目を潰して、娼館へ売り払ってやる!」

 そう言って、バルトロは私の両手をつかみ、ナイフを取り出し、私の目の前に突きつけた…

 ナイフの切っ先が、私の瞳を捉える。冷たい鋼の光に、死の予感がよぎった。

 ピーンチ!いや、もう、無理かもー


 絶体絶命の中、この状況を脱する方法を、必死に考える。前世で見た護身術動画を必死で思い出した。狙うは人体の急所…! スカートの裾が邪魔になるのも構わず、思い切りハイヒールで蹴り上げた!

「グォ!」

 あ、見事に当たった、男の急所!

 両手がとかれた隙に、急いで扉へ向かう…が、鍵がかかってる!

「くそ!この、どブス女!今すぐ殺してやる!」

 どうする、わたし!鍵が壊れるわけもない。仕方がないので、テーブルにあった花瓶を持ち上げ、おっさんに投げつけた。

「どこを狙ってる?もう逃げ場などないんだよ!」


 ガッシャァァァン!!

 部屋の窓ガラスが、凄まじい音を立てて粉々に砕け散った。投げた花瓶が、窓に当たったのだ!必死に、窓へ辿り着くが、場所は二階…あーもう積んだ…

「お願い! 助けてー!アレクシスさまー!何でもしますからー!」

「ははは! 誰も助けは来んぞ! 王子も、おまえがこんな場所にいるとは知るまい!」

 再び、両手を捕まれ、バルトロが、狂ったように高笑いした、その時だった。


 黒い影が、扉を蹴破り、嵐のように室内へとなだれ込んでくる。それは、王家に仕える近衛騎士の中でも、精鋭中の精鋭で構成された、アレクシス殿下直属の部隊だった。

 屈強な「療養施設の職員」たちは、あまりに突然の襲撃に、なす術もなく次々と制圧されていく。

 そして、砕け散った窓枠の中心に、月光を背負って一人の男が静かに降り立った。

 白銀の髪を夜風になびかせ、その金色の瞳は、燃えるような怒りの光で、私の腕を掴むバルトロを射抜いていた。

「…アレクシス、殿下…」

「アンジェ、待たせたな。商王バルトロ。貴様の独白、実に聞き応えがあった」

 彼の声は、地を這うように低く、絶対零度の冷気をまとっていた。

「…な、なぜ、ここが…!」

「俺の『餌』に、発信機と録音機を兼ねたお守りをつけておくのは、狩人として当然の嗜みだろう?」

 アレクシス殿下は、私の胸元で青く輝くネックレスを指し示す。その光景に、バルトロの顔が絶望に染まった。


「離せ。その汚い手を、俺のアンジェーヌから」

「ひっ…!」

 アレクシス殿下の凄まじい殺気に、バルトロの手からナイフが滑り落ちる。その隙を逃さず、騎士たちが彼を取り押さえた。

 腕の拘束から解放された私は、安堵から、その場に崩れ落ちそうになる。その体を、いつの間にか隣に来ていたアレクシス殿下が、力強く、しかし優しく抱きとめてくれた。

「…よく、耐えたな」

 耳元で囁かれたその声に、

「ネックレス!意味なく持たせたりしないとは思ったけど!説明しといてよ、私にも!」

「…アンジェは顔に出そうだっから…でも、窓を壊してくれたおかげで、すぐに部屋の特定ができた」

「…怖かったんだから…信じてたけど…」

「…すまん…俺の方こそ、何でもしてやるから…」

 その言葉を聞く前に、私は、疲れと恐怖から解放された安堵から、気を失ったのだった。


 ◇


 数日後、王宮では異例の速さで、商王バルトロに対する断罪裁判が開かれた。

 決定的な証拠は、言うまでもなく、私のネックレスが記録した、彼の醜悪な自白の全て。法廷に響き渡る自分の声を聞き、バルトロは顔面蒼白のまま、崩れ落ちた。

 彼の数々の詐欺行為に加担した貴族たちも、次々と摘発された。もちろん、その中には、私の元婚約者であるユリウス・フォン・シュミット様の姿もあった。

「アンジェーヌ! 私も、彼に脅されて…!」

 見苦しい言い訳を並べる彼に、私はただ、憐れみの一瞥をくれただけ。


 判決は、即日下された。

 商王バルトロは、国家転覆未遂、および多数の重罪により、全財産を没収の上、生涯、北方の魔石鉱山での強制労働。

 ユリウスも、その片棒を担いだ罪で、家門から籍を抜かれ、平民として同じ鉱山へ送られることとなった。


 そして、私の名誉は完全に回復され、国を救った『勇気ある公爵令嬢』として、王都中の賞賛を浴びることになったのだった。


 ◇


 全てが終わり、季節が少しだけ巡った頃。私は、全ての始まりの場所――学園の図書室の禁書庫に、アレクシス殿下に呼び出された。

「君は最高の餌だった。…だが、もう餌ではない。これからは、私の隣で、私の全てになれ」

 夕日を受けて黄金に輝く瞳で、彼は、あまりにも直球な言葉を私に告げた。


 …まあ、予想はしていたけれど。

「え? いやです」

「え? ここは、『はい、嬉しいです! 喜んで!』とか言うところでは!?」

 私の即答に、あの冷静沈着な氷の王子が、見たこともないほど狼狽えている。その姿が、なんだか無性に愉快だった。


「はぁ? 歌劇じゃあるまいし、世の中、そんな甘くないんですよ? 大体、淑女に『餌になれ』とかいう男、ないでしょ?」

「…それは…すまん…」

「反省してます?」

「…してる…。もう、おまえしか考えられないんだ…」

「だーかーらー! 『おまえ』って名前じゃないんですよ!」

 私がぷいっとそっぽを向くと、彼は観念したように、そして、今まで聞いたこともないくらい、切実な声で叫んだ。


「アンジェ! 愛してる!」

「……っ!」

 不意打ちの、名前呼びと、直球の愛の言葉。私の顔が、カッと熱くなるのがわかった。

 …もう、しょうがないわね。

「…後、100回言ったら考えてあげます!」

 そう言って微笑む私を、彼は呆然と見ていたかと思うと、次の瞬間、力強く抱きしめていた。

「100回でも、1000回でも言ってやる」

 まあ、彼のその言葉が実行されるまでには、もう少しだけ時間がかかったけれど。


 理不尽な言葉で始まった私の二度目の人生は、こうして、不器用で、最高に愛しい求婚の言葉で、本当の祝福を得たのだった。

 もう、誰にも「どブス」なんて言わせない!

 だって、大事な人に愛されている私は、最高に今、美しいはずだもの!


ここまで読んでいただき、ありがとうございます♩

もし少しでも『面白いかも』『続きが気になる』と思っていただけたら、↓にあるブックマークや評価(☆☆☆☆☆)をポチッとしてもらえると、とってもうれしいです!あなたのポチを栄養にして生きてます… よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ