第7話 やきもち
ChatGPTにて執筆
BOOK☆RECORDSの休憩室は、狭いけれどどこか落ち着く空間だった。片隅には小さな丸テーブルと、ちょっとくたびれたソファ。壁にはスタッフの予定表や、気まぐれに貼られたおすすめ本のポップが並ぶ。
その日は日曜で、店内は午前中からそれなりに忙しかった。京都駅前という立地もあり、観光客らしき人も多い。ふと気づけば、もう昼休憩の時間だった。
「藤城さーん、休憩交代お願いしまーす」 副店長の声に、藤城さんがレジからぱたぱたと戻ってくる。
「はーい。お疲れさまです」
小さく頭を下げて控え室に入ってきた彼女は、僕を見るなりにっこり笑った。
「村田さん、めっちゃ混んでたね、さっき」
「うん。あの外国人の団体、全員レジ来たときはさすがに焦った……」
笑い合いながら、僕らは並んでソファに腰を下ろす。少しだけ肩が触れた。
「藤城さん、今週ずっとシフト入ってるんだな」
「うん。来週帰省するから、今のうちに稼いどこうと思って」
そう言って、ペットボトルの紅茶を口に運ぶ彼女の横顔は、なんだか大人びて見えた。バイト中の彼女は明るくて、誰とでも自然に話す。でも、こうやってふたりきりで話しているときだけ、時折見せる素の表情に、僕はつい目を奪われてしまう。
「そういえばさ、藤城さんって安西さんと話すとき、ちょっと雰囲気違うよな」
自分でも、なぜそんなことを言ったのか分からなかった。口にしてしまってから、後悔する。
「えっ? ……そう?」
藤城さんがこちらを振り向く。
「なんか、仲良さそうだなって……」
「そりゃ仲はいいよ? でも、村田さんのが仲いいけどね?」
少し意地悪そうに笑った彼女の言葉に、僕はどこか安心したような、でもどう返せばいいか分からない複雑な気持ちになる。
そのとき。
「ようくーん、甘いのいる?」
ドアを開けて入ってきたのは、ムードメーカーの大田さんだった。
「コンビニでパン買ってきたんやけど、食うやろ?」
藤城さんがパッと笑顔になる。
「えっ、いいんですか? ありがとうございます」
無邪気に受け取るその様子に、僕はまた、胸の奥がもやもやとする。
大田さんは僕をちらりと見た。
「ようくん、いつも真面目やなあ。祐希ちゃん、こういうタイプどうなん?」
「えー、どうって……優しい先輩ですよ?」
そう言って僕の方を見た彼女の目は、からかうような、でもどこか優しさを含んでいた。
「俺、気になってるんやけどなー、祐希ちゃん」
唐突な大田さんの一言に、その場が一瞬凍りつく。
「……え、あの、冗談ですよね?」
祐希が苦笑いを浮かべる。その表情は、どこか困っているようでもあった。
「冗談やけど、本気になったらどうしよーって話よ」
そう言って笑う大田さんの軽口に、祐希はいつものように軽やかに対応した。
「そんなこと言ってたら、また店長に怒られますよー」
その空気に紛れるようにして、僕は静かに席を立った。気づかれないように、そっとドアを閉める。
胸の中がざわざわして、落ち着かなかった。
——自分がいちばん仲が良いと思っていた。でもそれは、ただ藤城さんが優しいだけなのかもしれない。
冷蔵庫の前で水を飲みながら、自分でも気づいていなかった感情が、じわりと広がっていくのを感じていた。
たぶんこれは——
ヤキモチ、ってやつだ。
そんな感情を持ってしまった自分に驚きながら、けれど、それを否定できない自分もいた。
控え室から聞こえる笑い声が、やけに遠くに感じられた。




