表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/8

第5話 この気持ちの名前

ChatGPTにて執筆



 週末の夜、大学の課題をひと段落させた僕は、いつもより少しだけ遅めにBOOK☆RECORDSに入った。バイトの時間に余裕ができたのはいいけれど、なんだか落ち着かない。


 扉を開けた瞬間、店内に響く柔らかな笑い声に、思わず足を止めた。


「ちょ、なにそれ! まぢウケるー!」


 レジ奥、いつも僕が立っていたスペースに、藤城が楽しそうに身を乗り出して話している。相手は、最近バイトに復帰した伊藤さんだ。


「洋一、いらっしゃい。今日もよろしくな」


 店長の声に、思考が現実に引き戻された。返事をしてエプロンを締めながら、藤城と伊藤さんのやり取りに、耳だけが勝手に向かってしまう。


 伊藤さんは、僕の高校時代のバドミントン部の先輩だった人だ。明るくて、人懐っこくて、空気を読むよりも自分のテンポで突き進むタイプ。久々に再会してからというもの、ちょくちょく僕にちょっかいを出してくる。


 藤城にとっては初対面のはずなのに、距離が近い。そういうところが、彼女らしい。


「ねぇねぇ、藤城ちゃんってさ、絶対モテるでしょ〜」


「そんなことないですよ〜。ていうか、伊藤さんこそ、絶対に彼氏いそう!」


 何でもないやり取りなのに、胸のあたりがざわつく。言葉の温度や、視線の方向、それが藤城のものでも、伊藤さんのものでも。


 僕はというと、誰にでもあんなふうに話せる自信がない。


 忙しくなる時間帯に差し掛かり、それぞれが持ち場に散っていく。藤城は僕とレジを担当することになった。


「ねぇ、村田さん。さっきの伊藤さんとの話、聞いてた?」


「……ああ、うん。少しだけ」


 なるべく表情に出さないように答えたつもりだったけど、たぶん顔はちょっとこわばってた。


「もしかして、ヤキモチ?」


「そ、そんなわけないだろ」


 僕は慌てて否定した。けど、自分の声がどこかうわずって聞こえる。否定したそばから、誤魔化したい気持ちが溢れてくる。


「そっか。じゃあいいけど〜」


 藤城は肩をすくめて、レジに集中し始めた。たぶん、本気で聞いてきたわけじゃない。冗談のひとつだったのかもしれない。でも僕の中には、否定したはずの感情が、まだ残っていた。


 このモヤモヤは、なんなんだろう。


 ――きっと、僕はまだ、自分の気持ちにちゃんと名前をつけられずにいる。


 仕事が終わった帰り道、駅までの短い道のりをふたりで歩く。街灯に照らされたアスファルトの上、ふたりの影が並ぶ。


「伊藤さん、面白い人だな」


 ぽつりと僕が言うと、藤城はくすっと笑った。


「うん、なんかすごい距離感ですよね。初対面の人でもガンガン来るタイプ」


「……それが苦手な人もいるだろうな」


「そうですね。村田先輩、そういうの、ちょっと苦手そう」


「……うん」


 正直に頷くと、藤城が少し驚いたようにこちらを見た。


「でもさ、私は嫌いじゃないですよ。ああいう人」


 そう言われて、また少し胸がざわついた。


「……そっか」


 僕は、無意識に少しだけ歩幅を狭めていた。


 目の前を歩く彼女に、手が届きそうで、でも届かない。


 僕の中で、何かが少しずつ変わり始めていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ