第4話 揺れる視線
ChatGPTにて執筆
たぶん、俺がこの場所に慣れてきたのと同じくらい、藤城さんも“ここ”での立ち位置を見つけつつあるんだと思う。最初はただ明るくて、ちょっと気さくで、距離感をつめてくるのが早い人って印象だったけど、最近はその奥にあるものを、なんとなく気にしている自分がいる。
その日もBOOK☆RECORDSはほどほどに忙しかった。夕方のラッシュがひと段落して、ふと気がつけば、俺はまた彼女の姿を目で追っていた。
――なんでだろうな、こういうの。
無意識に目で探してしまう。隣にいなくても、藤城さんの声や笑い声が聞こえるだけで、少し安心している自分がいる。
「村田さーん、これ、返品処理お願いしていいですか?」
「……あ、うん。もうすぐ棚に戻していいよね」
「はい!さすが、先輩気が利くー!」
そう言って笑う彼女に、俺はうまく笑い返せなかった。少しだけ目を逸らして、手元の処理に集中するふりをする。
さすが、って何が。たぶん俺のことなんて、まだそんなに気にしてないだろうに。
近くにいれば、当然笑いかけられるし、頼られる。それは別に特別なことじゃないのに、そうされるたび、少し期待してしまう自分が情けない。
「そういえば藤城さん、明日バンドのライブ行くんでしたよね? 安西さんの。」
「あ、はい! 村田さんも行きます?」
「ああ……うん。誘われてて。」
「よかったぁ、誰も来ないのかと思ってたんですよー。じゃあ一緒に行きましょ!」
一緒に行く。それだけの言葉なのに、なぜか心臓が跳ねた。目を合わせずに頷いた俺に、彼女は満足そうに頷き返していた。
翌日、ライブハウスに着いた頃には、すでに開演10分前だった。小さめの箱だったけど、熱気はすでに満ちていて、観客も程よく埋まっていた。
「村田さん、こっちー!」
声を頼りに振り向くと、藤城さんが俺に手を振っていた。その横には、バイト先の何人かもいたけど、なぜか彼女の隣は空けてある。
「ほら、空いてますよ」
少し笑ってから、俺はその隣に座った。
安西さんのバンドは意外と本格的で、演奏も迫力があった。普段の落ち着いた雰囲気とは全然違って、ステージ上では自信に満ちた姿をしている。
「……かっこいいですね、安西さん」
藤城さんがぽつりと言う。たぶん、何気ない一言だった。
でも、俺はその瞬間、少しだけ自分の中の何かがざわつくのを感じた。
「……そう、だね」
なるべく無表情で返したけど、自分の声が少しだけ乾いているのがわかった。
そのあとのライブは、集中できなかった。
彼女が笑ったり、拍手したりするたびに、それが全部、自分に向いていないことが苦しくて、胸の奥がチリチリと焦げるようだった。
藤城さんが誰かに笑いかける。 誰かを「かっこいい」と言う。
それが、俺以外だってことが、こんなにも気になるなんて。
終演後の帰り道、俺たちは小さなファストフード店に寄った。バイト仲間の何人かと一緒に。
「いやー、安西さん、想像以上にすごかったですね!」
「ね! MCも面白かったし!」
みんなで笑って話す中、俺はずっと自分のグラスの氷をかき混ぜていた。
「……村田さん、静かですね。眠いですか?」
「……あ、いや。うん、ちょっと……」
本当は、眠いわけじゃなかった。
ただ、自分の感情をうまく言葉にできなくて、声に出すのが怖かっただけ。
嫉妬なんて、きっとくだらない。 そんな感情、藤城さんに見せるなんて、失礼だ。
そう思って、黙った。
でもきっと、俺の様子は、まわりにもバレてたんだろうな。
「村田さん……ちょっと外、行きません?」
そう言った彼女の声が、やけに優しかったのを、俺は忘れられない。