第2話 距離の詰め方
ChatGPTにて執筆
初出勤の日のことは、今でもなんとなく覚えてる。
駅から歩いて数分、BOOK☆RECORDSは想像してたよりも落ち着いた空間で、どこか喫茶店みたいな空気が漂ってた。木の棚、ほんのり漂う紙とインクの匂い、それに小さく流れるインスト音楽。
──あ、この感じ、けっこう好きかも。
バックヤードのドアを開けたとき、そこにいたのが村田さんだった。
最初の印象は、ぶっちゃけ“陰キャっぽい”だった。
でも、不思議と目をそらさずに見てくる人で。
あの時、私が「これ、どこに並べればいいですか?」って聞いたら、ちょっとだけ詰まりながらも教えてくれた。
「あ……えっと、その……CDの棚、左の奥の……ア行の横、です」
すごく丁寧なんだけど、ちょっとだけ不器用な言い方。
──あ、この人、絶対ちょっかいかけたら面白いタイプだなって思った。
「んふふ、了解です。ありがとうございます、先輩」
自分でも、少し笑いすぎたなって思った。
でも、先輩って言った瞬間に照れたような顔をしたのが、ちょっとかわいかった。
──
数日後。
店内でCDの品出しをしてたら、ちょうど村田さんが近くにいた。
自然と声をかけた。
「村田さんって、音楽詳しいんですか?」
「ジャンルによるけど……邦ロックはまあ、少しだけ」
「ふーん。じゃあ、今度おすすめ聞いてもいいですか?」
「……うん」
会話はそれだけだったけど、その“うん”の言い方が、ちょっとだけ嬉しそうに聞こえた。
……いや、気のせいかもしれないけど。
──
休憩時間。
私が自販機で買ったカフェラテをひとつ、そっと机の上に置いた。
「飲みますか? 甘いの、苦手じゃないですか?」
「……なんで分かったの?」
「昨日、砂糖入れずにブラック飲んでた。村田さん、わかりやすいですよ」
驚いたように目をそらした村田さんの反応に、思わずくすっと笑いそうになった。
なんか、そういうとこも、ちょっといいなって思った。
──
私は、人と仲良くなるのが得意だ。
友達も多いし、初対面の人ともわりとすぐ話せる。
でも、それは“そういう自分”を演じてるからだって、自分でもよく分かってる。
本当の自分は、もっとめんどくさくて、不器用で、好きとか嫌いとか簡単に言えないタイプ。
だけど村田さんと話してると、その“演じてる自分”が少しだけ疲れない。
不思議と、距離の詰め方を急がなくてもいいような気がする。
──
その日の閉店作業。
店内の照明が一部消えて、最後のお客さんが出ていく。
シャッターのスイッチを押す村田さんの背中を、なんとなく見つめていた。
ああいう静かな背中、わりと好きかもしれない。
でもそんなこと、本人に言ったら絶対変な空気になるだろうし、もちろん言わない。
「祐希ちゃん、明日も同じ時間入ってるよね?」
振り返ると、安西さんがにこっと笑っていた。
「はい、多分シフト表そのままだったと思います」
「おっけー。じゃあ、CDの在庫チェック、いっしょにお願いね」
「了解です!」
店内に流れる閉店前の静けさの中、なんとなく視線を感じて振り向くと、村田さんがこっちを見ていた。
目が合った瞬間、ふっと視線をそらされた。
──え、なに。見てた?
いや、気のせいかな。でも、さっきまで普通にこっち見てたよね?
なんか、ちょっとだけ──嬉しい。
それと同時に、自分の中で何かがふわっと浮かび上がった。
まだ「好き」とか、そういうのじゃない。
でも、こうやって、少しずつ変わっていくのかもしれない。
そう思ったら、ちょっとだけ怖くて、でもそれ以上にワクワクしていた。
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