第1話 駅前の本屋で
ChatGPTにて執筆
BOOK☆RECORDSは、京都駅の東口を出て徒歩3分。レンガ調のビルの1階にあるこぢんまりとした本屋で、入口の前には手書きのPOPが貼られた黒板が置かれていた。中へ入ると、木の棚に並ぶ新刊とCD。店内の奥へ行くと照明は少し落ち着き、古びたスピーカーから流れる邦ロックのインストゥルメンタルが、心地よい距離感で空間を包んでいた。
ここはにぎやかすぎず、でも静かすぎもしない。駅前という立地のわりに常連客も多く、日々流れるように忙しいけれど、それなりの穏やかさを保っていた。大学2回生になった春、授業の合間と放課後にここでバイトするのが、今の俺の“日常”になっていた。
その日は夕方のシフト入り。バックヤードで荷解きをしていたとき、バタンと開いたドアの音に振り向いた。段ボールを抱えた新人らしき女の子が立っていた。
「すみません……これ、どこに並べたらいいですか?」
その声が思ったよりはっきりしていて、少し驚いた。白いシャツに黒のエプロン、髪は肩につかないくらいのボブカット。ぱっちりした目元が特徴的で、第一印象は“明るそうな子だな”だった。けれど目が合った瞬間、喉が詰まるような感覚に襲われて、すぐに言葉が出てこなかった。
「あ……えっと、その……CDの棚、左の奥の……ア行の横、です」
たどたどしい言い方になったけど、彼女はくすっと笑って、軽くうなずいた。
「んふふ、了解です。ありがとうございます、先輩」
“先輩”という響きが、くすぐったかった。バイト歴は半年。たいしたことはしてないし、慣れたとはいえまだまだ緊張する場面もある。そんな俺に「先輩」と向けられた言葉が、やけに耳に残った。
そして、その笑い声も。
──
数日後、祐希という名前を覚えたその子は、レジ前で俺に話しかけてきた。
「村田さんって、音楽詳しいんですか?」
「ジャンルによるけど……邦ロックはまあ、少しだけ」
「ふーん。じゃあ、今度おすすめ聞いてもいいですか?」
あまりに自然な流れで、俺は思わず返事をした。
「……うん」
それだけだったけど、祐希は満足そうに笑った。その笑顔に、何かが引っかかった。
彼女が話しかけてくるときはいつも唐突で、でも嫌味がなく、むしろ居心地がいい。もしかしたら、自分の中にずっと空いていたスペースに、無言のまま入り込んでくるような存在なのかもしれない──そんな感覚を、ぼんやりと覚えていた。
──
ある日の休憩室。机の上に置かれたカフェラテの紙コップを、祐希が俺の方に押し出してきた。
「飲みますか? 甘いの、苦手じゃないですか?」
「……なんで分かったの?」
「昨日、砂糖入れずにブラック飲んでた。村田さん、わかりやすいですよ」
一瞬、言葉が詰まった。
誰かに自分の細かいところを見られていたことが、少し照れくさかった。でもそれ以上に、気づいてくれたことがうれしかった。そんな反応をする自分に、また驚いた。
──
夜、家に帰ってシャワーを浴びているとき。ふと、彼女の声が湯気の中でよみがえった。
「ありがとうございます、先輩」
その一言だけが、何度も何度も頭の中で反響した。
──
その週末の夜、バイトを終えて駅のホームに立った。京都タワーが空に浮かぶように白く光っていて、風が冷たくジャケットの襟を揺らした。イヤホンから流れるいつものプレイリストが、妙に遠く感じた。
人を好きになるって、もっとわかりやすいものだと思ってた。ドキドキするとか、視線を追うとか、そういう単純なもの。だけど今の俺には、それとは少し違う、“なんとなく気になる”という感情だけが、じわじわと広がっていた。
スマホをポケットから取り出し、ホーム画面をなんとなく眺める。
連絡先は知らない。聞く理由も、まだない。
でも、明日もまた会える。それだけで、ほんの少しだけ気持ちが浮いた。
それが最初だった。