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第09話 告白の結末

「……で、結局どうするつもりなのさ」


 その日の夕方、四季公園から帰ってきた俺は碧の家にやって来ていた。


 見慣れた碧の部屋で、俺はベッドに背を預けるようにして床に座りながらラノベを読み、この部屋の主人である碧はベッドにうつ伏せになるように寝そべって漫画を読んでいる。


 この状況のまま、かれこれ一時間が経過していた。


 その間、会話はほとんど起こらず、どことなく気まずい空気が立ち込めていた。


 しかし今、碧の呟きがそんな沈黙を破った。


「どうする、とは?」


「とぼけるなよ……あの手紙のこと。告白、されたんでしょ?」


 どんな人だった? と碧が訪ねてきた。俺は今読んでいるページにしおりを挟み、ラノベをパタンと閉じてから答える。


「……去年の梅雨の時期、捨て猫を動物病院に連れて行ったの覚えてるか?」


「あーうん、覚えてるよ。あのとき結城さんに会ったんだよね~。そういえば去年受験生だったから今年は高一……どこの高校に入ったんだろう?」


「星野ヶ丘――俺らと同じだ」


「えっ? どうしてそんなこと知って――」


「――あの手紙で俺を呼び出したのが、その結城さんだからだよ」


 驚きのあまり声にもならない音を喉から漏らした碧が、手元の漫画に向けていた視線を俺の方に移す。


 まぁ、そりゃ驚くよな……俺だってめっちゃビックリしたし。


「え、そ、それでどう……なったの……? 結城さんに告白されて、それで……ユウは、付き合うの?」


「えっと――――」



◇◆◇



 時は少し遡り、場所は四季公園。

 俺は、結城さんと向かい合って立っていた――――


 ……好きです、先輩。


 結城さんの口から紡がれたその言葉が、桜の香りと共に俺の胸の内で反芻される。


 嬉しくて仕方がない。目の前に、自分を慕う人がいる。ここで俺が頷けば、人生で初めての恋人が出来るのだろうか。


 でも、それでも俺は…………


「結城さん、俺はその想いには応えられない」


 俺がそう答えるとわかっていたのか、結城さんが穏やかに微笑む。


「俺には、好きな人がいるんだ……」


「氷室先輩、ですよね」


「……ああ」


 どうやら結城さんは、去年会ったあの日にはもう、俺が碧に恋していることに気が付いていたようだ。


 まぁ、別に俺も碧への好意を周りに隠したりしているつもりはないし、バレていても不思議ではない。


「アイツとは幼馴染で、小四のときに好だってことに気付いた。それ以来毎日告白し続けてる。んまぁ、一度だって相手にされたこともなくフラれ続けてるんだが……それでも俺は、碧が好きなんだ」


「……一途、ですね。素敵です」


 そう言われるとむず痒くなって、俺は指で頬を掻いた。


「でも、先輩が氷室先輩を諦められないように、私も先輩を諦めるつもりはありませんよ?」


「えっ……?」


 ふっ、と優しく表情を綻ばせた結城さんが、俺の顔を覗き込むようにして上目を向けてきた。


「先輩に好きな人がいるのはわかっていました。何なら、もう付き合っているかもしれないとも思いました。それでも私が告白したのは、宣言するためでもあります」


「宣言?」


「はい。私は絶対に先輩を振り向かせてみせます――先輩には、氷室先輩を諦めて私を好きになってもらいますから」


 ま、マジか……。



◇◆◇



「――って感じで、別に付き合うとかは……なかったぞ?」


 だって俺、お前が好きだし。


 そう答えると、碧は終始保っていた驚き顔を崩し、


「――ぷっ、あはははははっ!!」


「あ、碧……?」


「あっははは、おっかし~! ユウったら馬鹿じゃないの? くくくっ……お腹痛いぃ~!」


 俺が戸惑う先で、碧が目尻に涙を浮かべながら腹を抱えて笑う。


 ベッドに仰向けになって足をバタバタさせるので、制服のスカートの裾が暴れている。チラチラと白い太腿が見えてしまい、俺としてはどうにも居たたまれない気持ちになる。


 しかし、碧はそんなことに構わずひたすら笑い続けた。


 そして、しばらくして収まってから、目尻に浮かんだ涙を指で拭う。


「あ~あ、何でそんなもったいないことしたのさぁ~。結城さんみたいな可愛い女の子と付き合えるチャンスなんてそうそうないのにな~」


「な、何でって……」


「はぁ~、笑った笑った。でもそっか~、結城さん星野ヶ丘(ウチ)に入ったんだね。早く会いたいなぁ~」


 俺が結城さんと付き合わなかったとわかってもうこの話に興味がなくなったのか、碧は再び漫画を開いていた。


 ……でも、確かに碧の言う通りなのかもしれない。


 四季公園で俺が首を縦に振っていたら、結城さんと付き合えていたんだと思う。


 結城さんのことは嫌いじゃない――むしろ好感を持っている。今のこの気持ちが恋愛的な好意でなくても、多分付き合って共に過ごす日を重ねていくうちに、一人の女性として好きになるのだろう。


 初恋が必ずしも叶うわけじゃない。何なら叶わないことの方が多いだろう。


 人はそうやって恋破れては新しい“好き”を探していく。叶わぬ恋を諦めるのは格好悪いことでも、誠実じゃないわけでもない。


 だからこそ、これから二人のことを考えて、自分でどういう選択をするのかを決める必要がある。


 このまま碧を好きでい続けるのか、結城さんと新しい恋を始めるのか。


 まったく……俺は一体、どうしたらいいんだよ……!?

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