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第28話 その感情に名前を付けて②

 碧が自分の気持ちを素直に口にしてくれたあと、俺と碧は並んでベッドに腰掛けていた。


 しかし、こうして冷静になってみると、先程のやり取りはかなり気恥しいもので、俺も碧もすっかり黙り込んでしまっている。


 そして、かれこれ十分近くこうしてジッとしていた頃、碧が沈黙を破った。


「あ、あのっ、さ……」


「な、何だ……?」


 この気まずいような気恥しいような静寂から解放されてホッとしたものの、異様にたどたどしい返事をしてしまったが、碧は特に気にする様子もなく――というより、気にする余裕もなさそうに言ってくる。


「その……ボク達の関係って、どうなるの、かな……?」


「あぁ……」


 確かに。


 こうして言われるまで考えてすらいなかったが、俺は碧のことが好きだとずっと言い続けてきて、碧も今俺に自分の気持ちを伝えてくれた。


 互いの好意が確認できた今、俺と碧の関係は、ただ仲の良い幼馴染で親友……というワケじゃなくなったということになるのかもしれない。


「ユウは、どうしたい……?」


 碧が俺の顔を覗き込むようにして、どこか熱を帯びた視線を向けてくる。


 俺は思わずドキッとしてしまいながらも、顔を背けたい衝動を何とか堪えて、指で頬を掻くに止める。


「俺は……付き合いたい、かな。改めて言うと無性にくすぐったいけど、そうなるために今までずっと告白し続けてきたし……」


「そ、そうだよね」


「あっ、いやでも、俺は碧の気持ちを尊重したい。もし碧がそういう関係を望まないなら――」


「――ううん、違うよ!?」


 碧が俺の言葉を遮って首を横に振った。


「別にユウと付き合いたくないって言うことじゃなくて……ただ、ちょっと不安なんだよ……」


「不安?」


「恋人になっちゃったら、もう今までみたいに幼馴染として、親友として遊べないんじゃないかって……これまでの関係が、なくなっちゃうんじゃないかって思って……」


「……はは、あはは!」


「ゆ、ユウ?」


 一体何を言われるのかと身構えていた分、俺は碧の言葉に思わず笑ってしまった。


「何だ、そんなことかよ~」


「そ、そんなことって何だよっ! ボクは真面目に――」


「――なくならないよ。俺と碧は、これからも幼馴染で親友だ」


「えっ……?」


 一体どういうことだと言わんばかりに目を丸くして、瞬きを繰り返す碧に俺は言う。


「誰が恋人と幼馴染、親友の関係を掛け持ちしたらいけないって決めたんだよ。そりゃ、一般的には恋人は恋人だろうけどさ? 他所は他所、ウチはウチだ。俺達は、俺達の望む関係を作っていけば良いじゃん」


「えぇ……ユウってば、ちょっと欲張りすぎじゃない?」


 真剣に悩んでたボクがバカみたいだよ、とため息を溢しながら、俺に半目を向けてくる碧。


 しかし、俺は自分の言っていることが間違っているとは思わない。


 確かに幼馴染であり、親友であり、恋人でもある。そんな意味不明な関係は異常で、異端で、強欲かもしれない。


 でも、別にそれで良いじゃないか。


 俺は碧とこれまで培ってきた関係も大切にしながら、恋人という男女の関係にもなりたいと思ってしまうのだから。


「ダメか?」


 俺はベッドの上に置かれた碧の左手に、自分の右手をそっと重ねながら尋ねる。


 すると、碧は一瞬身体を震わせたが、すぐに頬を赤らめた顔を俺の方に向けてきて、どこか不満げに、拗ねたように言った。


「別にダメじゃないけど……ユウはズルい……」


「かもな」


 数秒互いに見詰め合ったあと、碧がそっと目蓋を閉じた。


 俺は自然とその意図を察し、ゆっくりと碧の顔に自分の顔を近付ける。


「え、えっと……本当に良いのか?」


「そういうこと聞いてくるのが、やっぱりユウだよねぇ」


「す、すみません……」


 だって、確認しないと怖いじゃん!?

 もし間違いだったら、大変じゃん!?


 と、言い訳したいところであるが、それは単に俺に勇気がないだけなので、何も言えない。


 だから、俺は素直にこの雰囲気に流されてやることにした。


 桜色をした薄い唇。


 俺はその未知の感触と、互いの気持ちを確認するように、自分の唇を触れさせた。


「ん……」


 碧の喉から零れる音が、静かに部屋に響いた――――

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