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第14話 この関係を繋ぎ止めるために②

 翌日、土曜日。

 俺は昨日碧と約束した通り、十二時より少し前に碧の家にやって来ていた――――


「んん~、やっぱりユウの作るご飯は美味しいね~! ご馳走さま!」


「やはりお前は食べる専門だったか……」


 ダイニングテーブルを挟んで俺の向かいに座っている碧が、米粒一つ残さず綺麗に平らげた皿にスプーンを置いて、満足げな表情でお腹を擦った。


 俺がこの家に来て早々、碧が「お腹空いたよぉ……」と唸ってきたので、碧の家に合った材料と相談して、簡単に炒飯を作ったのだ。


 もちろん碧は手伝ったりしない。いつものことだ。


「いやぁ~、ボクなんて炒飯の素? みたいなやつを使っても作れないだろうからな~。ユウがいてくれて本当に助かったよ」


 いや、それは流石に作れろよ……と、俺は心の中でツッコミを入れつつ、碧に呆れた視線を向けておく。


「将来は良いお婿さんになるね~。恋愛云々はよくわかんないけど、こんなに美味しい料理が毎日食べられるなら、ボクがユウと結婚するのもアリだね~」


「お、お前な……」


 俺としては好きな人に毎日料理を振る舞うのは苦じゃない。それどころか、そんなことで碧と結婚できるというのなら、むしろ望むところだ。


 けどまぁ、碧は冗談でしか言ってないんだよなぁ~。ちっ、男心を弄びやがって。


「よしっ、食べ終わったことだし早速遊ぼう!」


「別に良いけど……お前、宿題やってんのか?」


「うぎっ……」


 この反応、絶対やってないな。


 俺がそう思っていることを察したのか、碧が視線を右往左往させながらも無理矢理笑顔を作った。


「だ、大丈夫だよ……! まだやってないけど、明日は日曜日だし!? 時間は充分にあるからさっ!」


「その充分にある時間を、本当に宿題のために使ってくれれば良いんだが……」


「んもぉ~!! そんな話は良いじゃん! 早く行こう!」


 碧はそう話を打ち切ると、食器を台所のシンクに置いた。そして、「早く早く~」と急かしてくるので、俺も食器を片付けてから、碧と共に二階へ上がり、部屋に向かった――――



 ◇◆◇



「あれぇ~、あれれ~? ユウ何か弱くなってませんか~? んん~?」


「うっぜぇ……!」


 かれこれ二時間ちょっとが過ぎただろうか。


 異なるゲームキャラクターを好きに選択して格闘戦を行う有名ゲームをずっとプレイしていたのだが、俺の勝率は三割といったところ。今日は全然碧に勝てずにいた。


 しかし、そんな俺の悔しがる姿は見てて相当に気分が良いものらしく、碧は小馬鹿にするような笑みをニヤニヤと浮かべていた。


 いつから碧にメスガキ属性がついたんだ……!?


 いや、その予兆は前からあった……かも……って、いや、今そんなことはどうでも良い。取り敢えずこのクソ可愛くてクソウザい奴に一泡吹かせねば!


「も、もう一戦だ! 次は絶対勝つ!」


「あっはは、望むところだよ~」


 もうこれで何度目かわからないキャラクター選択。


 碧は色々なキャラを使って戦うスタイルだが、俺は限られた数名のキャラクターだけを使うスタイル。


 なので、俺は先ほどのマッチでも使ったキャラクターを選択する。


「さっきはコンボを外されたが、次は決める……!」


 俺は謎の覚悟をしながら、液晶画面に映し出される“fight!”の文字を切っ掛けに、コントローラーをガチャガチャと操作する。


「くっ……おりゃ……!」

「ふふふ、やるねユウ……」


 この勝負、戦況は俺に傾いていた。

 最初三つあった残機は、互いに残り一つ。だが、貯えられたダメージゲージは明らかに碧の方が多い。


 手堅く詰めていけば……勝てる……!


 俺がそう確信したとき、ふと碧が呟いた。


「……でも、そっか。もしユウが結城さんと付き合っちゃったら、こうして遊ぶことも出来なくなるのかぁ~。それは……何かやだなぁ~」


「は、何でだよ。もし別にそうなっても遊べなくなるワケじゃ……」


「何言ってんのさユウ。彼女持ちの男子が、そうホイホイ他の女子の家に上がったりしちゃダメだよ~」


「いや、でも幼馴染だし……」


「幼馴染でも、だよ」


 珍しく碧の声が少し真面目な感じだった。


 というか、急に何なんだ。恋愛に無頓着な癖にやたら恋バナをしたがる。


 もしや、今自分が負けそうになってるから、俺の動揺を誘って隙を作ろうと……? こ、小癪な!


「皮肉だよね~」


「何が?」


「ん~? こうして遊ぶためには、ユウは誰かと恋人になっちゃいけない。それか、唯一選択肢としてあるボクと付き合うか。でも、そうなると今まで通り仲良くするために、今までの関係を捨てて恋人になるってことでしょ?」


 なるほど。確かにそう考えると、皮肉だ。


 今後も碧とこうして遊んだりするためには、俺は誰とも付き合わない、もしくは本人である碧と付き合う――その二択だ。


「でも、何度も言うように、ボクは恋愛感情って言うのがよくわかんないから、それも厳しいと思うけどね~」


 だから、と碧は続けた。


「ユウは誰とも付き合わないか、どうにかしてボクをドキドキさせて恋愛感情ってやつをわからせるしかないんだよ」


「どうにかって言われてもなぁ……」


 小四のときから告白し続けること早六年。いくら好きと言っても碧には響かなかった。


 見た目で攻めるのはどうだと思って、自分磨きも欠かさず行ってきたが、碧の態度は変わらない。


 俺を異性としては、見ていない。


 本当に、どうすれば良いのやら。どうすればコイツはドキドキするんだ……。


 ――あと一撃。あと一撃碧の操作するキャラクターに攻撃を当てれば俺の勝ち。


 そして――――


「ねぇ、ユウ……」


「今だっ! 俺の勝――」


「――ボクとキスしてみない?」


「は……? って、あぁあああ!!」


 唐突な碧の一言で動揺させられ、俺は僅かに攻撃のタイミングをずらしてしまった。


 そこから生まれた隙は大きく、俺の攻撃をジャストシールドで防いだ碧が、すぐさま掴みからのコンボを繋げて俺のキャラを場外へと叩き落とす。


 碧のキャラが一位だと讃える画面が映し出される。


「おいっ! お前そんな冗談で俺の動揺を誘うとか卑怯だぞ!」


 俺は目を細めながら碧に文句を言う。しかし、こちらに振り向いた碧は特にしてやったり! みたいな顔はしていなかった。


 むしろ、不気味なほどに冷静で、穏やかで、真面目な表情だった。


「別に、冗談じゃないけど……?」


「…………え?」

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