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第13話 この関係を繋ぎ止めるために①

 時刻は午後六時半。時間も時間なのでそろそろ帰ろうかという話になり、俺と碧は結城さんに見送られる形で玄関までやって来た。


「んじゃ、結城さん。また」


「あ、あの……先輩……!」


「ん?」


「その、さっき貰ったLINE……本当にメッセージ送っちゃっても良いんですか?」


 結城さんが、恥ずかしがりながらもどこか期待に満ちたような眼差しを向けて尋ねてくるので、俺は思わず笑ってしまいそうになった。


 さっき部屋を出る前に、俺と碧は結城さんとLINEの連絡先を交換していたのだ。これで、学年の違う俺達でもいつでもやり取りが出来る。


「もちろん。そのために交換したんだしな」


「で、ですよね……えへへ……」


 でも、と結城さんが指を絡め合わせて恥ずかしそうにしながら続けた。


「好きな人にLINEするのって……結構勇気いりますね」


「かっ……」

(可愛い……!)


 そんな言葉は、心の中に止めておいた。しかし、碧は俺が何を思ったのか察したらしく、背中側からなにやら冷めた視線を感じる。


 それにしても、勇気……か。


 俺の場合、元々碧とは幼馴染で、異性として好意を持って見るようになってからもその関係はなくならない。


 だから、碧にLINEをするのに勇気を必要としたことはなかった。


 しかし、普通は意中の相手にLINEを送るというのは、非常に勇気がいる行為なのかもしれないな…………



 ◇◆◇



 帰路にて――――


「結城さんってさ、すっごい可愛いよね」


「唐突にどうした?」


 結城さんの家から帰る途中、突然碧がそんなことを口にするので、俺は首を傾げる。


「いや、別に~? ただ、改めてあんな可愛い子の告白を受けないだなんて、ユウは馬鹿だなぁ~って思っただけだよ」


「ほっとけ」


 そんな答えのわかりきったことを言われても困る。


 俺は碧への恋心をまだ諦められずにいる。そんな未練たらたらで中途半端な状態のまま、結城さんと向き合うことが出来るわけがない。


 そして、碧はそのことをわかった上で言うのだ。まるで、自分なんかとっとと諦めて結城さんと付き合えとでも伝えるように。


「あっ、そういえば明日暇?」


 碧が話を切り替える。


 明日は土曜日。宿題は出されているが、俺は前もって各教科のワーク類を勝手に進めているので、とっくに終わっている。


「んまぁ、特に用事はないな」


「ならさ、明日(うち)で遊ばない?」


「わかった。いつ頃に行けば良い?」


「ん~。明日お父さんは仕事だし、お母さんは昼からママ友と出掛けるって言ってたから……昼前くらいには来て良いよ」


「いや、早いなおい」


 というか、俺の母さんも明日昼から出掛けるって言ってたから、多分……いや、間違いなく碧の母さんと一緒だな。


「それで、昼食を作ってくれると……嬉しいな!」


「やっぱりそれが狙いか」


 碧は料理が出来ない。休日家に誰もいないとき、俺が碧の家で昼食を作るということは、これまで何度もあった。もう今更といった感じだ。


「まぁ、別に良いけど、お前も作るの手伝えよな~」


「えぇ~」


「手伝ってるうちにお前も料理できるようになるかもしれないだろ?」


「ボクは食べる専門なので、料理できるようになる必要がないんだなぁ~、これが」


「将来一人暮らしとかになったらどうするんだよ……」


 そう言うと、碧は「うぅん……」と顎に手を当てて唸り、少しの間思考を巡らせた。


 そして、一体何を思い付いたのか、悪戯小僧のようなニヤニヤとした笑みを浮かべて俺の顔を覗き込んできた。


「そのときは……ユウも一緒に住んでもらおうかなぁ~。同棲ってやつ? あはは」


「お、お前な……」


「あ~、でもでもユウだって男の子だもんね。ボクみたいな可憐な美少女と一つ屋根の下で一緒に生活しちゃったら、いずれ色々と我慢できなくなっちゃうかも~。むふふ……」


 可憐かどうかはともかく、確かにコイツは美少女だと思う。ましてや俺の好きな相手。


 もし、一緒に住むようなことになれば、俺もずっと理性を保ち続けられるとは断言し難いところはある。


 ……ただでさえ無防備だしなぁ、碧は。


 俺がそんなことを考えていると、隣で碧が自分の身体を腕で抱き、僅かに距離を取ってきた。向けられるのは、半開きの瞳。


「うわぁ~、ユウがボクでえっちなこと考えてるぅ……」


「ばっ、考えてないから!?」


「本当かなぁ~?」


「ホントだって!」


「あっはは~。まぁ、別に良いけどねぇ~」


「い、いや、良くはないだろ……」


 普段通りの何てことのない会話。この、特に何の実りもない話でも、俺はこうして碧と一緒に並んで歩いているだけで充分楽しいのだ――――

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