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第11話 嫉妬心の予兆②

「待っていました、先輩」


「あれ、結城さん? どうして……」


 まさか学校の玄関先で待っているとは想像もしておらず、俺は少し戸惑いながら尋ねる。


 すると、結城さんが「えへへ……」と少し照れ臭そうな笑みを浮かべながら答えた。


「えっと、出来れば一緒に帰りたいなぁ~って思いまして……」


 ……可愛い。恥じらってモジモジしているのがこれまた可愛い。


 と、結城さんの可愛さに打ちひしがれている俺の身体がバッと押し退けられた。「うおっ!?」と間抜けな声を漏らすと同時に、碧が俺を退かしたのだと理解する。


 そして、どこか興奮気味の碧が結城さんの前に立つ。


「久し振りだね結城さん! ユウからウチの高校に入ったってことは聞いてたけど、まさかこんなに早く会えるとは思ってなかったよ~!」


「あ、氷室先輩……! はいっ、お久し振りですね!」


 俺のことをそっちのけで、碧と結城さんが手を取り合ってわぁわぁと喜び合っている。


 しばらく美少女二人が喜び合っている尊い光景を眺めて目の保養としていると、話が一段落着いたのか、碧が俺の方へ顔を向けてきた。


「ねぇ、ユウ。結城さんと一緒に帰ろうよ!」


「え? あぁ、うん。別に良いけど」


「やった」


 碧が良いなら別に俺に断る理由はない。


 まぁ、正直昨日告白されて、それに頷けなかったということもあって気まずくないと言えば嘘になる。


 けど、結城さん自身がそのことを気にしてなさそうなので、俺もあまり深く考えないことにしておく。


「そのことなんですけど」


 結城さんが胸の前で両手の指を絡め合わせて言う。


「もしこのあとお時間があるようでしたら、私の家に来ませんか?」


「結城さんの、家?」


 俺がそう聞き返すと、結城さんが頷いて続ける。


「はい。去年宮前先輩が助けた捨て猫のこと覚えてますか?」


「別に俺が助けたワケじゃないけど……もちろん覚えてるぞ。結城さんと初めて会った日だし、忘れるわけがない」


「せ、先輩……そういうことをサラッと言わないでください……」


「「――ッ!?」」


 頬を微かに色付けて、視線を右へ左へ彷徨わせる結城さんの様子を見て、俺と碧は顔を向かい合わせた。


 そして、二人してテンション高く口早に言う。


「ねぇ! 今の見たユウ!?」


「ああ、もちろん。俺のオタクセンサーがバッチリ捉えたぜ!」


「これはもうラブコメヒロインだよっ! 主人公を前にして恥じらう乙女そのものだよっ!」


「だな! もう使い古された反応ではあるが、今もなおあらゆる二次元コンテンツで受け継がれている王道! こうしてリアルに見るとなお一層可愛いっ!!」


「――も、もうやめてください! 何の話か分かりませんがなんだかとても恥ずかしいですっ!!」


 気付けば結城さんが顔を真っ赤にしており、これ以上続けると羞恥死してしまいそうだったので、オタクの盛り上がりもほどほどにしておく。


「ごめんごめん。えっと、それでその捨て猫がどうかしたのか?」


「あ、はい。その捨て猫は結局元々の飼い主が現れなかったんです。だから、代わりに私が引き取ることにしまして、今も家で飼ってるんです」


「え、マジか!?」


「だからぜひお二人にも会っていただきたいなと思いまして」


 おぉ、と俺と碧の声が重なる。


「それで……どうでしょう? 家に来ていただけませんか?」


「もちろん」

「行く」


 俺の言葉に碧が続けるようにして答えた。そして、このあと俺達は結城さんの案内で家にお邪魔することになった――――



◇◆◇



「少々お待ちくださいね」


 結城さんの家に着いた俺と碧は、彼女の部屋に通された。


 結城さんが一旦部屋を出て行き、俺はこの部屋を見渡す。


 整理整頓されて清潔感のある部屋だ。普段そこで勉強しているのだろうと推測できる机の上にも必要最低限のものしか置かれておらず、教科書類や参考書などはきちんと棚に仕舞い込まれている。


 また、アロマフレグランスの香りが仄かに漂っており、この部屋で過ごすだけでリラックスできそうだと思えてしまう。


「おい、碧」


「ん?」


「本来女の子の部屋というのはこうであるべきなんだよ。漫画やラノベの詰まった本棚、テレビの下にはゲーム機がゴロゴロ……そんなのは女子の部屋じゃないぞ」


「う、うるさいな! 良いんだよボクはそれで! 大体ユウの部屋だって似たようなものじゃんか~!」


「俺は男子だぞ」


「ぶぅ~、男女差別反対ぃ~!」


 頬を膨らませて抗議してくる碧の隣で、俺は適当な場所に腰を下ろす。少しの間二人で待っていると、ガチャッと部屋の扉が開けられて結城さんが戻ってきた。


 両手で持ったお盆の上にはグラスと飲み物、そして、足元には――――


「あっ、猫!」


 俺より先に碧が声を上げた。


 部屋に入る結城さんに付き添うように、チリチリと首元で鈴を鳴らすのは、美しい毛並みを持った白猫だ。


 成長して俺の記憶の中の猫より大きくなっているが、紛うことなく去年動物病院に連れて行って警察に届けた白猫である。


「お待たせしました。飲み物と……あと、この子がその猫です」


 結城さんが俺達の前にある小さな丸テーブルに飲み物を置いてくれたので、短くお礼を言う。


 しかし、やはり今は猫が気になってしまう。部屋の入り口辺りで立ち止まっており、こちらをジッと見詰めていた。


「あれ? 警戒してるのかなぁ~?」


「んまぁ、見知らぬ顔が二つもあるんだからしょうがないだろ」


 首を傾げる碧に、俺は肩を竦める。そして、置かれた飲み物に手を伸ばそうとしたとき――――


 なぁ~。


 小さく鳴いた猫がテコテコとこちらに歩いてくる。そして、座る俺の膝元まで来ると、何度か鼻をひくひくさせてから、サッと飛び乗ってきた。


「お? もしかしてお前覚えてるのか?」


 果たして俺の言葉が通じているのかはわからないが、猫がなぁと返す。


 そんな様子を見て、隣から碧が手を伸ばしてきた。


「あ~、ユウばっかりズルい~! ボクも触りたい!」


「ほれ」


 俺が少し碧の方に身体を傾けると、猫が碧を見た。そして、碧から伸ばされてくる手をジッと見詰め……ふいっ、と顔を背けられて再び俺の膝へと戻って丸まった。


「残念だったな」


「んにゃぁ~!!」


 隣で騒ぐ大きい猫は放っておいて、俺は結城さんに尋ねた。


「それで、コイツの名前は?」


「えっと、おこめです」


「「……おこめ?」」


 俺だけでなく、碧までも首を傾げた。すると、結城さんがちょっぴり恥ずかしそうに頬を掻きながら説明してくれた。


「毛が真っ白なのと、引き取ったときはまだ小さかったので、何だか米粒みたいだな~と思って、おこめに……」


 それを聞いた俺と碧が顔を見合わせて、ぷっ、と吹き出すまでにそう時間は掛からなかった――――

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