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第10話 嫉妬心の予兆①

《氷室碧 視点》


 まったく……本当にユウってば馬鹿だよね。


 漫画本から少し視線を左に向ければ、ベッドを背もたれ代わりにしてラノベを読んでいるユウの後ろ姿が見える。


 ピョンと跳ねている髪の毛があって妙に可愛い。


 ってか、何が『別に付き合うとかなかったぞ?』だよ。もったいないことしちゃってさぁ。折角可愛い彼女が出来るチャンスだったのに、ホント、なんだかなぁ~だよ。


 どうせボクのことが好きだからとかっていう理由なんだろうけど……ボクに毎日告白し続けてもう六年じゃないか。


 何でわからないかなぁ……どれだけボクを追い掛けても、ボクが振り向くことはないってことを。


 高校二年生になった今でも恋愛感情がよくわからないボクに、恋愛なんかできっこないのにさ。


 でもまぁ……そっか、付き合わないんだ。ふぅ~ん。


 ということは、これまで通りユウはボクと一緒にいてくれるってことだよね。


 良かった……ってあれ? 何でボク、ちょっと安心してるんだろう……?


 このあとボクは、不思議な安心感を胸に抱きながら、しばらくこうしてユウと一緒に時間を過ごした――――



◇◆◇



《宮前優斗 視点》


 後日、登校するなり智輝と香歩が詰め寄ってきた。


「おい優斗。貴様付き合うのか?」


「は? 急にどうしたんだよ智輝」


 席に荷物を置いた途端、何の前触れもなくそんな話題を振られても困る。しかし、そんな智輝の言葉足らずな部分を補足するように、香歩が言った。


「昨日の放課後に呼び出されたんでしょ~? 告白されたんだよねぇ~?」


「あぁ、その話か。ってか、何で二人がそのこと知ってるんだよ」


「昨日帰るときに下駄箱で碧ちゃんが『ユウに彼女が出来るかも』ってね? それも今にも泣きそうな顔で~」


「ちょ、ちょっと香歩ちゃん! ボク別に泣きそうな顔なんてしてなかったと思うけど!?」


 碧が聞き捨てならないと香歩に顔を向けて頬を膨らませるが、香歩は相変わらずぽわぽわとした雰囲気のまま首を傾げた。


「えぇ~、なってたよ~? ね、智輝~?」


「ああ。まるでこの世の終わりを見たかのような表情だった」


「な、何でボクがそんな顔しなくっちゃなんないのさ~! 第一、ボクはユウに彼女が出来ることに賛成なんだけどっ!?」


 はぁ、とため息を吐いた碧が椅子を引いて自分の席に腰を下ろした。そして、呆れたような表情を作ってから智輝と香歩に言う。


「それに聞いてよ二人とも~。実はユウに告白した子ってボクの知り合いなんだけど、すっごく可愛い子なの! それなのにユウったら振っちゃったんだよ!?」


「いや、振ったというか……」


「告白を受けなかったってことは振ったってことだよ! も~、本当に馬鹿なんだからぁ。こんな機会もう二度とないかもしれないのにぃ……」


 だから、俺はお前が好きなんだって……と、俺が心の中に止めておいた呟きを香歩が代わりに言ってくれた。


「でもそれは、宮前君が碧ちゃんのこと好きだからでしょ~?」


「それはボクだってわかってるけど、だからこそもったいないんだよ。ボクは恋愛感情とかよくわかんないし、いくらユウが告白してきても振り向かない――ううん、振り向けない。だからさ――」


 後ろの席に座る俺の方に碧が振り返る。


「ユウも、そろそろボクのことは諦めて、他の女の子とのことを考えた方が良いよ?」


「そ、それは……」


 碧の言っていることは正しい、のだろう。


 今は俺のことを好きと言ってくれる女の子が――結城さんがいる。碧を好きな気持ちに終止符を打って、結城さんと向き合うべきなのかもしれない、な…………



◇◆◇



 放課後――――


 いつも通り俺と碧は一緒に教室を出て下駄箱までやって来た。そして、靴を履き替えて外に出ると、


「――あっ、先輩!」


「ん?」


 鈴を転がしたような声がした方を向くと、下駄箱から外に出たところで結城さんが立っていた。そして、こちらに駆け寄ってきたかと思えば、小首を傾げて可愛らしく微笑む。


「待っていました、先輩」

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