09 緊急案件
先に用事を済ませるために、エルサニア王都の冒険者ギルドへ寄り道。
『ナイトウルフ変異種討伐』
討伐依頼としては失敗扱いですが、高位の魔物の脅威を取り除いたことは高く評価されました。
つまり、チームサイリとしての大手柄がまたひとつ。
"若仙人"個人としての評判うんぬんよりも、チームとして我が家の面々を評価してもらえることが、なによりうれしいのです。
もちろん、僕がやらかすとチームの評判にも影響しちゃうわけですから、
"キレ仙人"は極力NG、ですよ。
"絶対"では無く、"極力"ってところが、重要なポイント。
……
さて、ギルドでの用事も済ませましたし、後は急いで我が家に向かいましょうか。
ギルドの玄関脇でおとなしくしていたとはいえ、ナルン、目立っちゃってますから。
早く帰って、うちのお庭にナルンハウス作らないとね。
いつもだったら、この手の工作関係はアリシエラさんにお任せなのですが、
ナルンのおうちは、家族みんなでワイワイしながら作ってみたいのです。
きっと、小屋なんて呼べないくらいにスゴいモノが建っちゃうと思いますよ。
ああ見えて、みんな結構凝り性なのです。
「サイリ殿、少しよろしいか」
おや、お久しぶりです、ベルネシアさん。
『七人の戦乙女』筆頭にして近衛騎士団長のベルネシアさんが自らお越しということは、ツァイシャ女王様からの火急のご用件。
そしてこのタイミングは、明らかにナルン絡みの緊急案件。
「その妙に鋭すぎる洞察力は、ギルドでの監査仕事以外にも活かすべきだと思うのだが、どう思う、イリーシャ殿」
「サイリ殿は、自身が望まぬ方向へはテコでも動かぬ、呑気をこじらせた頑固者」
「今日のツァイシャ様のご用件次第では、ベルネシア殿がこれから泣くことになりますよ」
なんだか好き放題言われてますけど。
凛々しさ満点な乙女騎士のお手本ことベルネシアさんがさめざめと泣いているお姿も、機会がございましたらぜひ拝見させていただきたいのですが、
まあ今はご用件をうかがうのが先、と。
……
『黒くて大きなナイトウルフ変異種を心ゆくまで撫でたい(至急)』
女王様らしい、可愛らしくも強引なわがままですね。
えーと、どうしようかな、これ。
一見、要求自体は、無茶ってわけでは無いのです。
ナルンを女王様の元へ連れて行ったら、後はお任せですし。
むしろ、あの"女王の鑑"みたいなツァイシャ女王様が、ナルンをモフりまくってヘブンしちゃってるところ、ぜひ見てみたいでしょ。
問題は、その状況を作り出すための手段はこっちに丸投げってこと。
いかにテイム済みとはいえ、このクラスの魔物を王城に入れるには、審査やら許可やらの厳格な事前準備と大勢のお偉いさんの承認が必須。
つまり今回は、入城・謁見・交流のための通常手続きを全無視して、
絶対に誰にもバレない手段を構築・実現した上で、
女王様に好きなだけモフらせろ、と。
えーと、なにか仰りたいことはございますか、ベルネシア近衛騎士団長さま。
「すまん、サイリ殿」
「最近のタリシュネイア王国やキルヴァニア王国の件で憔悴なさっている女王様からの是非にとのお願い事」
「どうしても断ることが出来ず……」
……おっと。
どうやら僕のせいですよ、女王様ご心痛の原因の全てが。
なんだか断れない方向へ誘導、いや、確信犯……
ってか、こいつは断れませんぜ、"若仙人"の威信にかけて。
とは言うものの、どうしよ。
いつもみたいに固有スキルでゴリ押し出来る状態じゃ無し、
いかに隠密達者なナイトウルフ変異種と言えど、一国の王城の警備網を総スルー出来ちゃうはずも無し。
本当どうしよう、ナルン。
って、ナルン、どこ行った?
「サイリ殿、足元を……」
なんですか、イリーシャさん。
それどころじゃ無い……
えーと、僕の足元の影から首だけ出して得意げなナルンが……
「流石はナイトウルフ変異種、隠密活動はお手のもの」
……本当うれしそうですね、ベルネシアさん。




