08 道中
街道を、ふたりと一頭で、のんびりと
我が家への道中は、すれ違う旅人たちの畏怖と好奇の目線にさらされながらも、それなりに平穏。
途中の村の仮設ギルドで、従魔登録も完了。
ナルンも、嫌がらずに従魔タグを身に付けてくれております。
実は『システマ』で一気に帰ろうとしたのですが、ナルンが警戒しちゃいまして。
せっかく来てもらったのに、ごめんね、ミスキさんたち。
結局、徒歩にてエルサニア大森林の我が家を目指しているのです。
時々フイっと居なくなるナルンは、自分が食べたい獲物を咥えて戻ってきます。
で、イリーシャさんの前に獲物を置いて、上目遣いでおねだり。
どうやら生肉よりもイリーシャさんに調理してもらった方が美味、と学習しちゃった模様。
うん、きっとグルメさんなのですよ。
このパーティーのヒエラルキー的にイリーシャさんをボスと認めたからでは無い、はず……
まあ、ナルンのお食事問題の方はなんとかなりそうです。
みんなには、すでに連絡済みです。
ゆっくり戻って来れば良いので、トラブルだけは避けるように、とのお達し。
実はとっくに腰は治ってるので、ナルンに乗って全力で走ってもらえば馬車よりもはるかに早く移動出来るのですが、イリーシャさんからふたり乗りを拒否されまして。
タンデムライド、ちょっと憧れていたのですが。
ほら、しがみついてもしがみつかれても、密着感を味わえるそうですし……
「時々、アラン殿と同じ表情をするようになったな、サイリ殿……」
褒め言葉と受け取っておきましょう。
見習うべき諸先輩に恵まれていることが、僕の異世界生活のなによりの財産なのです。
……
繰り返しますが、道中、とても平穏であります。
相変わらず固有スキル関係が不安定ですので、僕が戦力にならないのが不安といえば不安ですが、
なにせ威圧感バツグンなお供との旅ですので、安全なことこの上無し。
まあ、希少なナイトウルフ変異種を狙う輩が襲ってくる可能性も無きにしもあらずですが、
ナイトウルフ変異種の討伐例がとっても少ないのは、高い隠密性以上にその半端ナイ強さのため。
どうやらナルンは、ライクァさんたちが出会ったのとは別個体のようですが、
クリスさん、ライクァさんとも仲良しさんしてくれますように……
それにしても、生息地であれだけ人目を避けていたナルンが、今は日中堂々と、いやむしろ呑気に振る舞っている理由は、分かりません。
イリーシャさんは、例の癒し成分"サイリウム"のおかげだろうと言っておりますが、
それだけでは説明がつかないことがもうひとつ。
黒猫ベルちゃんをなでなでした時に発生した、僕のアレな状態異常が、
ナルンをモフっても発生しないのです。
そりゃあもう、今までの鬱憤を晴らすかのごとく、全身全霊チカラの限りモフりまくってるのですが、
意識混濁も理性喪失も本能暴走も、一切無し。
あるのは、極上の撫で心地による多幸感のみ、と言う、まさにヘブン状態。
いや、イリーシャさん、そんなドン引きしなくても……
えーと、つまりは、呑気この上無い幸せ珍道中なのです。