06 ご馳走
えーと、腰、やっちゃいまして。
カミスさんから聞いてたんだけどな、
腰だけはくれぐれも要注意って。
やはり僕の付与では治療出来ず。
ふたりで慎重に検討を重ねた結果、僕が行動可能になるまでこの場所で野営継続することに。
いえ、決して、腰をやっちゃった原因をみんなに話したくなかったとか、そういうことでは無く。
あくまで、養生のため、大事をとって、ですから。
「みんなには、どうにか納得してもらえたぞ」
お手数をおかけします。
「サイリ殿が一日も早く良くなるよう、しっかとお世話させてもらおう」
しっかとご迷惑をおかけします。
「安心して全てを任せてほしい」
痛み入ります。
というわけで、出張サプライズ引きこもり生活、スタート、です。
……
イリーシャさんは、世話焼きお姉さん属性の方を遺憾無く発揮して、甲斐甲斐しくお世話してくれております。
でも、あーん、は、やめてくださいね。
この辺りにいるのは小動物くらいで、厄介な魔物はいません。
以前は、中型の魔物なんかが普通にいたそうですが、
今では、例のアレ以外には魔物はいないそうです。
これだけ人を避けているのだから、無理に近寄らなければ会うことも無いだろうし。
やっぱり人里への実害無し、だよね。
本当に討伐の必要、あるのかな。
「飲料水は充分間に合っているが、生活用水の水樽がそろそろ空になりそうなので、川で汲んでくる」
「大人しくしているように」
どうせやんちゃすることも出来ませんし、いつも通り引きこもってますよ。
「では、行ってくる」
お気をつけて。
……
付与を満足に使えない僕なんて、イチゴの無いイチゴショートケーキ。
その心は、ただの甘ちゃん。
えーと、大喜利出来る余裕はあるんだなと思われるかもしれませんが、
なんと言いますか、身体に余裕が無い時こそ心に余裕を。
まあ、寝返りくらいはなんとか出来るようになりましたが、
激しい運動はご遠慮くださいっていう状態ですかね。
日中の日差しは強いけど、入り口を開けっぱなしにすればテントの中でもそれなりに快適です。
たまに小鳥が飛んでるのが見えるくらいで、それ以外に動くモノの気配は無し。
うん、パンくずとか撒けば、小鳥が寄ってくるかも。
せっかくだからチャレンジしてみますか。
ぱらぱらぱらり
ほら、すぐに小鳥が集まり出しましたよ。
一生懸命ついばむ姿が可愛らしいですね。
おっと、ケンカはいけませんよ。
こっちの世界は小鳥までヒャッハー成分多めなんですかね。
イリーシャさんは、こっちの世界の人としては、かなり良識派です。
騎士道精神由来の暴走はするけど、性癖、じゃない、感情丸出しな大暴れはしません。
でも、この光景を見たら、美味そうだ、くらいは言うかも。
さすがに小鳥の丸焼きを頭からバリバリは勘弁ですよぅ。
まあ、基本的には弱肉強食ですからね、こっちの世界。
人間だって、ちょっと大きめな魔物が相手だと、頭からバリバリされちゃいます。
あんな感じのおっきなケモノとか。
……えーと、失礼、
ケモノじゃなくて魔物ですね。
黒くて、デカくて、めっちゃ強そうな……
……
パンくずの匂いを慎重に嗅いでいた黒くてデカいのと、目が合っちゃいました。
訴えるような瞳。
きれいなオッドアイですね。
なんだかルシェリさんを思い出しちゃいます。
たぶん召喚者のツボのひとつですよね、オッドアイ。
もちろん、僕も大好物ですよ。
って、いつの間にやらこんなに近くに。
よだれ、結構すごいですけど、臭くはありません。
キレイ好きなんでしょうか。
さすがに歯みがきはして無いでしょうけど。
おっと、よだれってことはお腹がお空きでいらっしゃる、と。
僕は、ほら、見ての通り美味しそうじゃ無いし。
食べ応え無いですよ、全体的にまんべんなく。
まあ、ホネをカジカジするのが大好きだったら、まっしぐら物件でしょうね、僕。
あー、どうしよう。
『収納』からなんか出すまで、我慢してくれるかな。
がぶり
……生肉でも大丈夫ですか。
美味しそうに食べてますね。
かなりお行儀が良いのですけど、あなた本当に野生ですか。
って言うか本当に魔物ですか。
えーと、『収納』から追加の魔物肉を出して、と。
はい、おかわり。
せっかくですので、お皿にお水も。
この辺の川で汲んだ水じゃなくて、我が家自慢の魔導浄水器で製水した美味しいお水ですよ。
はい、召し上がれ。




