93.弱点
「は……」
考えるより先に、シャラードの身体が動いた。
回り込んだ自分の肉体をコントロールして向きを変え、全力で前に向かって飛んで地面を転がり、受け身をとる。
瞬間、後ろからまるで雷でも直撃したかのような轟音が響き渡った。
「しゃ、シャラードさん!!」
「大丈夫だ、生きてるぞ!」
ギリギリで直撃は免れたシャラードだったが、砲撃の衝撃波でまたもや吹っ飛ばされる。
しかし今度はその吹っ飛んだ先に干し草の束が積み重ねられており、それがクッションとなって衝撃を和らげてくれた。
「つぅ……いててて!! よくもやりやがったなあのやろぉ!!」
冷や汗と同時に怒りも湧き上がってくる。
しかし当の農機具を操っている男は吹っ飛ばされた彼よりも、すでにターゲットをルギーレとルディアに変更していた。
それを見たシャラードは急いで加勢に向かおうとしたものの、自分の手の中にあったはずの槍が無くなっていることに気が付いた。
(お……落とした!?)
まずい、武器が無くなってしまったら自分はあの化け物に立ち向かえないではないか。
つい今しがた吹っ飛ばされた時に落としたのだろうと大急ぎで周囲を探し始めるシャラードだが、その一方でルギーレとルディアも大変困っていた。
「ダメ、魔術もあんまり効果がないわ!!」
「くそ、こうなりゃあのエクスプロージョンを繰り出してみるっきゃねえな!!」
以前、必殺技として繰り出したあれを今度は農機具に使ってみれば勝てるかもしれない。
ルギーレは農機具から距離を取りつつあの砲撃に注意して、自分の魔力をレイグラードに注入していく。
その傍らではルディアが魔術で農機具を攻撃しているものの、魔術防壁が張られているわけでもないのに妙に防御力が高いボディに違和感を覚えている。
(やっぱり特殊な材質で作られているんじゃないかしら? いや、きっとそうに違いないわ!)
誰があんなものを作ったのか?
自分たちに倒されてうめいているあの連中はアウトローな人物みたいだが、特別な技術を持っているとは思えなかった。
だとしたら、農機具を操縦しているあの男を倒せばその提供者もわかるかもしれないと考えるルディアだが、まずは倒さなければ話が進まない。
(ボディがダメなら車輪を狙えば何とかなるかしら?)
そう……何も無理に砲台を壊さなくても、乗っている人間を倒せなくても、要は動けなくしてしまえばいいのだ。
ルディアがそのことに気が付いて、エネルギーボールを車輪に向かって撃ち出す……が、その車輪はなんとエネルギーボールをガィンと甲高い音とともに弾いてしまったのだ。
(うそっ、こちもダメなの!? じゃあ弱点なんかないじゃない!?)
これではあの農機具は無敵じゃないか。
いったいどこを攻撃すればあれを倒せるのか? やっぱり人間そのものを倒してしまうしかないのだろうか?
彼女がそう考えていた矢先、ルギーレがレイグラードに魔力を込め終わって動き出した。
「調子に乗んじゃねえぞこの野郎……これでもくらえ、エクスプロージョン!!」
身体能力向上もあって素早く農機具の後ろに回り込んだルギーレは、農機具に向かってレイグラードを全力で振り下ろした……が。
「がぁっ!?」
「っ!?」
突然どこからか飛んできた矢が、彼の脇腹に突き刺さった。
その矢が飛んできた方向を見ると、先ほど倒した連中の一人が何とか弓を構えて狙撃に成功していたのだ。
なんという偶然。なんという奇跡。そしてなんという不運。
ルギーレはエクスプロージョンを繰り出す寸前で空中から落とされてしまい、その目前では方向転換した農機具の大きなボディが迫っていた。
それを見たルディアは魔術を繰り出して弓使いを素早く倒した一方で、ルギーレがあるものを発見した。
「く……そおおおおおおおおおっ!!」
それは、先ほど吹っ飛ばされたシャラードが手放してしまった槍。
それを拾ったルギーレは素早く立ち上がり、再び魔力によるビームを放とうとしている砲口に向けて突っ込んだ。
入れられるだけその槍を穴に突っ込んで、砲身を蹴って離れる。
その直後にまたビーム砲が発射された……のだが、ルギーレに向かって飛んでいくことはなかった。
なぜならその砲口を塞いだ槍によって行き場を失ったエネルギービームが逆流する結果になってしまい、砲台を自らのエネルギーの暴発によって轟音とともに破壊してしまったのだった。
「うわああっ!?」
乗っていた農機具が爆発したショックで、操縦していた男も吹っ飛ばされて二人の目の前に落ちてきた。
槍こそ失ったものの、結果的に無事だったシャラードもルギーレとルディアに合流してこの戦いは幕を閉じたのだが、まだやらなければならないことが山ほどあったのだ。
「おいっ、てめぇらは何でこんなものを持ってんだ!? こんなやべえ農機具なんか見たことねえぞ!! どこで手に入れた!? 何が目的だ!? てめぇらはここで何をしていたっ!?」
男の胸倉を掴んでガクガクと揺さぶるルギーレだが、その時ルディアが新たなる来訪者の気配を察知した。




