92.想定外の相手
そのおよそ二十人は数では勝っていたものの、ヴィーンラディの魔術師として達人の域に入っているルディア、ファルス帝国の将軍であるシャラード、そしてレイグラードを振るうルギーレの敵ではなかった。
その名前の通り手も足も出ずに敗北してしまった謎の一味だが、どうしてこんなに怯えていたのだろうか?
それを解決するヒントはどこにあるのだろうか?
「おいっ、お前らはここで何をしてたんだ!? なぜ俺たちに襲い掛かってきやがった!?」
「う……ぐぐ……納屋の中を見てみれば分かるぜ……くそっ!!」
シャラードに胸倉を掴まれた男が、力なく納屋の方を指差す。
その男を乱暴に突き飛ばし、彼はズンズンと槍を片手に納屋に近づいていく。
一体あの中に何があるのだろうかと考える三人だが、その時ルディアが男の表情の変化に気が付いた。彼は口元に薄ら笑いを浮かべている。
それを見た時、ほぼ反射的にルディアはシャラードに向かって叫んでいた。
「シャラードさん、行っちゃダメッ!!」
「え……?」
「何だって……うおおっ!?」
横でいきなり叫んだ彼女にびっくりするルギーレはまだ離れていたから良かったが、その叫び声に反応したシャラードは逃げるのが間に合わなかった。
納屋の大きな両開きの扉を派手にぶち破って登場してきたのは、今までに見たことがない金属製の乗り物だったからだ。
いや、三人とも似たようなものは見たことがあるが「それ」とは微妙に形が異なることに気が付いた。
それにシャラードは体当たりされて吹っ飛ばされてしまい、ゴロゴロと地面を転がってうめき声をあげる。
「ぐぐ……うぐっ……」
「しゃ、シャラードさん!! しっかりしてください!!」
「ルギーレ、来るわよ!!」
シャラードを治癒魔術で治療しながらルギーレに警告を飛ばすルディア。
三人の目の前に現れたのは、畑や田んぼを耕す金属製の大きな乗り物には間違いないのだが、その上部に砲台のようなものがついている。
そして前部には農作物を刈り取るための回転するこれまた金属製の刃がついており、これに巻き込まれでもしたら一瞬で生肉のミンチにされてしまうことは明白だった。
シャラードはそれに巻き込まれなかっただけでも幸運といえよう。
「くっそ、あんなの反則だぜ!!」
ルギーレはその乗り物めがけて突進しつつ、レイグラードを叩きつける。
幸いにも大きなボディが災いして小回りは利きにくいみたいなので、当てること自体は対して苦労しなかったのだが、ここからルギーレの想定外が始まった。
なんと、レイグラードを叩きつけてもその乗り物のボディは全くの無傷だったのだ。
「……なっ!?」
「おらあ!!」
「ぐふっ!!」
こうなったら操縦している男を倒して動きを止めてしまえばいいと考えたルギーレだったが、農作業に必要なクワを突き出して彼を寄せ付けない。
そして彼が倒れこんだ所に迫る刃。
それを見たルギーレは素早く立ち上がってダッシュで距離を取り、再び農機具に向かっていく。
「くそったれ、あんなのどうやりゃいいんだよ!?」
魔力のエンジンを動力源とするので、簡単には壊れないように金属でボディが作られている。
そしてその動力で車輪を回して移動するのだが、距離を取ったら取ったで次の攻撃が襲い掛かる。
シュウウ……と取り付けられている砲台の穴に魔力のエネルギーが集まり、そこからなんと光のビームがルギーレに向かって発射されたのだ!
「うっお!?」
「くっ!!」
それを見たシャラードとルディアも思わず腕で顔を覆うほどに、強力な刺激の光を発するビームが地面に叩きつけられる。
その攻撃によって、地面が大きくえぐられて焦げ付きプスプスと煙が上がった。
刃だけではなくあのビームに当たっても命はないだろうと認識した二人と、何とかそのビームを回避してレイグラードを構えなおすルギーレ。
(くっそ、ファルスで鉱山の石の壁を粉砕したんだからあれだって魔力を込めりゃ叩き切れるはずなんだが、何の素材でできてんだよあれはよぉ!?)
まさかこんな場所であんなに厄介な兵器の相手をしなければならないなんて。
ルギーレは思わず舌打ちするが、だからと言って農機具とそれを操る男は待ってくれない。
魔術で回復したシャラードと治療したルディアもルギーレのそばにやってきて、三人であの農機具を迎え撃つ。
「真っ向勝負したら無理だぜ。こうなったら人数差であれをぶっ壊すっきゃねえな」
「でも……どうやってやるの?」
「よし、それじゃ俺があいつを引き付けるからその間に回り込んであの男をぶちのめせ!!」
こうなったらなりふり構っていられない。
そう考えたシャラードが農機具に向かっていくが、再び砲台にエネルギーが集まる。
「俺にそんな手が通用するかよ!」
そう叫びながら農機具の側面へと回り込んだシャラードだったが、次の瞬間その砲台がグルリと突然回転して彼に照準を合わせた。




