89.今までの流れ(その1)
しかし、その推測の答えは遠く離れた場所で当の本人たちが話していた。
「ちっ、しくったな……」
「だけどあいつらを仲間に引き入れることには成功したぜ。おっさんのおかげでな」
「それもそうか」
ファルスの各地を襲い、ワイバーンで逃亡した黒ずくめの連中を率いているウィタカーは部下の槍使いとともに、うまくファルスを脱出して遠くまで逃げおおせていた。
そして自分たちの新たな仲間として、勇者と呼ばれているマリユスが率いているパーティーを一緒に連れてくることにも成功した。
そのマリユスが、メンバーの女たちと一緒に出された食事にかぶりつきながら質問する。
「おいあんた、俺たちをここまで連れてきてくれたのはいいけど……あの話は本当なんだろうな?」
「ああ、本当だとも」
テーブルの上に並べられた食事を腹の中に収めつつ、いぶかしげにそう尋ねるマリユスにウィタカーは迷いなくうなずく。
彼らをここまで連れてきたのは、きちんとした理由があってのことだった。
そう、彼らの中に潜む心の闇を巧みに利用したのだ。
「最初あなたからいろいろと話を聞かされた時には信じられなかったけどね。よかったら、もう一度順を追って説明してくれないかしら?」
「ああ、いいぜ。食事が終わったらじっくり話してやるよ」
茶髪の中年男は、自分たちにこの勇者パーティーの連中がついてくれれば百人力だと思っている。
たとえ相手があの伝説のレイグラードを持っている男だとしても、これだけの大人数を有しているのだから負けるはずがない。
そう考えるウィタカーに、このパーティーメンバーを脱出させて仲間に加えた槍使いのあの男が声をかけてきた。
「おい、ウィタカー。死神から連絡が入ってるぜ」
「え? なんかあったのか?」
「とりあえず工場から持ち出したサンプルを預かってるけど、どうすりゃいいんだって」
「あー、そうだな……それじゃサンプルになりそうなやつらを拉致って実験に使ってくれって言っておけ。観察した時のレポート提出は忘れないようにって付け加えてな」
「へーい」
槍使いの男に指示を出したウィタカーは、自分も勇者たちとガツガツと食事を満喫する。
そして片付けを済ませて、ここまで連れてきた目的を説明したり今までの経緯を振り返り始めた。
「さってと、それじゃ俺たちの説明から始めようか。まずは俺がこのバーサークグラップルのリーダー、ウィタカーだ。そしてさっきの紫の髪してる槍持ってんのがサブリーダーのジレディルだ。まー、仲良くしてやってくれ」
で……とウィタカーは手元に取り出したマリユスたちの資料を見ながら一人ずつ確認をしていく。
「えっと、まず黒ずくめの格好をしているお前が勇者のマリユス・ストローブで、緑の鎧着た金髪の女がベティーナ・マクファーデン。そっちの短い金髪のレイピア使いの女がベルタ・ミニャンブレス、シルバーの鎧を着てる緑髪の女がリュド・ゲニアトゥリン、最後にもう一人の緑髪の女がライラ・ベイロンで合ってるか?」
「ええ、間違いないわ」
本人確認も終了し、ウィタカーは本題に入る。
「ならいい。じゃあ俺たちの目的を話そう。俺たちはとある人物から依頼を受けて、レイグラードって呼ばれている聖剣を手に入れることと、それに付随する宝を求めている」
「あれぇ~? 誰かから頼まれてるのぉ~?」
「それは誰ですか?」
ライラとベルタが早速疑問を持つが、ウィタカーはその二人を手で制した。
「悪いが、それはまだ答えられない。お前たちが俺たちの目的を達成できるだけの力があると証明できたら改めて話してやる」
「あ、そう……」
「それで話の続きだが、お前たちには俺たちのメンバーとなって動いてもらう。それもこれも全てはあの聖剣を手に入れるためだからな」
「そうですね。最初はそんな話は信じられませんでしたが、事実だとわかってからはあなたたちに協力する気持ちが徐々に芽生えてきました」
リュドが淡々とした口調でそう言えば、ウィタカーはその時のことを思い出して苦笑いをする。
「そうだったな。それで工場で小競り合いを起こしたが、最終的には俺たちの仲間になってくれてうれしいぜ。歓迎する」
最初こそ、ファルスの依頼で動いていた勇者パーティーは例の薬を開発している工場を壊滅しに東へ西へと移動していた。
その情報を手に入れた町の一つで出会ったのがウィタカーであり、勇者パーティーに「あの聖剣を手に入れた奴がいる。お前たちがよく知っている落ちこぼれの奴だ」と話した。
その話を聞いてすぐにルギーレだとピンときたパーティーメンバーだったが、まさかあのルギーレが聖剣を手に入れるわけがないと鼻で笑って信じなかった。
その後、あの工場を壊滅しに向かって騎士団に捕まってしまった勇者パーティーだったが、実はその冤罪もこのバーサークグラップルが仕組んだことだったのだ。




