88.やり取りの推測
一度ネルディアに戻り、そのまま西へと進路変更することに決めた三人は歩きながら話を続ける。
「これはあくまでも私の予想でしかないんだけど、勇者たちには何かしらの心境の変化があったんじゃないかしら?」
「マリユスたちに?」
もちろん本当のところはわからないが、厄介者を追い出してせいせいした自分たちが、エスヴェテレスで依頼の達成ができなかったことからすべてが始まった。
そしてそのあとに逃げるようにファルスにやってきたものの、今度は勇者として脚光を浴びていたはずの自分たちがまさかの冤罪で捕まってしまう。
「そしてその冤罪をかぶせた側の黒ずくめの集団に何かを言われた……って言いてえのか?」
「ええ……いや、本当のところはわからないですよ。私も予知夢は見られるけど超能力者じゃないので。シャラードさんは何かないですか? その黒ずくめの集団と一度会ってるんでしょ?」
「確かに会ってたけど、俺もそん時はそいつらがそんな奴らだなんて知らなかったんだよ。あ、でも……その時に一度だけ、金髪の弓使いが魔晶石で誰かと連絡を取ってたのは見たことある」
「連絡? 誰と?」
「いや、相手はわからねえんだけど……なんだか切羽詰まったようなやり取りしてたぜ。声も小さくて聞き取れなかったし、聞き取ろうとしたら別の魔物に襲われてそんな暇なかったしさ」
結局のところ、その通信の中で何があったのかをうかがい知ることはできないままだった。
しかし、勇者パーティーの中に広がっていた「もっと認められたい」という願望や今まで数々の依頼を成功させてきた自分たちの失敗などが積み重なった結果、何かがあのパーティーの中で変化したことは間違いないだろう。
そしてシャラードは、ここで勇者パーティーに関するもう一つのことを思い出した。
「ああそうそう、その勇者パーティーの連中が牢屋にいる時にぼやいてたのを見張り番の騎士団の奴が聞いていたらしいぞ。何であんな奴に聖剣が渡ったんだ……って」
「え?」
「それのことだよな? お前の持ってるレイグラードとかっての。確かルヴィバーってのが使ってたやつだろ?」
「え、ええ……そうなんですけど、俺もルディアもあいつらにこれがレイグラードってのは言ってない気がします」
「そう……よね。うん、そうだわ。そう考えるとあの連中がルギーレがレイグラードを持っていることを知っているのは不自然ね」
他の誰かから教えられたとしか考えられない。
そしてレイグラードを持っていると知っているのはエスヴェテレス帝国の人間たち、ファルス帝国の人間たちの他に……あのウィタカーがリーダーの黒ずくめの集団しか心当たりがない。
もしかすると、黒ずくめの集団からそそのかされたのではないかとルディアは考える。
「黒ずくめの連中はあなたがレイグラードを持っていたら都合が悪い。でもレイグラードはかなり強大な力を持っているから、今の自分たちでは勝ち目がない。そこに勇者たちが自分たちの工場を潰しにやってきた……」
ひょんなことから聖剣を手に入れてしまったルギーレに、勇者パーティーのメンバーが嫉妬する。その勇者パーティーをいったん退けた黒ずくめの連中が、その嫉妬心を利用してやろうと何らかのコンタクトを取って仲間に引き入れた……。
こう考えるとつじつまがだんだん合ってくるのだが、じゃあその聖剣の話を勇者パーティーに流したのは誰だという話になる。
「もしかして、ファルス帝国の人たちが勇者パーティーに聖剣のことを言ったりしました?」
「いや、それはねえな。セヴィスト陛下とかカルソン様とかは言ってないって言ってたし、三つの騎士団の団長と副騎士団長も言ってねえって言ってたし、テトティスも話してねえって」
「うーん、だとすると思いつくのは……わっかんねえな。ルディアはわかるか?」
「ううん、わからない。あと私が思いつくとしたら勇者パーティーとコンタクトがあった黒ずくめの連中ぐらいだけど、だって黒ずくめの連中と勇者パーティーは最初敵対してたわけだし、そんな相手から話があるとは思えないもん」
結局、勇者パーティーがどこから聖剣の情報を手に入れたかはわからないが、時間としては自分たちがエスヴェテレスで別れてからあの脱走をするまでの間なのはわかった。
「確か勇者パーティーは、ファルスで奴らの工場を潰すためにいろいろと聞き込みをしてたんですよね?」
「ああ、俺はそう聞いてるぜ」
「でしたらその時でしょうかね。聖剣がルギーレの手に渡ったのを知った時って」
「でも大っぴらに言ったりなんかしてねえぞ、俺」
「私もそれはわかるけど、レイグラードの伝説はあまりにも大きすぎるわ。だからルギーレの活躍を聞いた誰かがレイグラードの再来だと思って噂を流したのかもしれないわ」
「え~? そんな推測だけで広がるもんかなぁ?」
「人の噂って怖いのよ。変な尾ひれとかついて回ったりして、気が付いたら根も葉もないことを言われたりしてね。今のこのやりとりだって似たようなものだし」
そう言うルディアの表情には、どこか影があるように見えた。




