87.それぞれの理由
「ああ……そうなんだよ。俺はほら、勇者パーティーのお荷物みてえな扱いだったからさ。どこへ行っても勇者様、勇者様ってもてはやされるのはマリユスとかベティーナとかばっかりだったぜ」
ポジティブな思考を持つルギーレでも、その時を思い出すとやはり疎外感と悔しさがあふれてしまう。
自分だって勇者パーティーの一員だったんだ。
「あいつらばっかりもてはやされてたんで、俺は結構ねたんでたんだと思うけど……でも今の俺は関係ないからな。それはともかくとして、あいつらは性格はよくないけどSランクとかAランクにいるだけの実力はあったし、やっぱ注目の的だったんだよ」
「それで覚えられていなかったってーのか?」
「ええ。まあ村人たちとか町の住人の中には俺に声をかけてくれる人もいたんですけどね。でも勇者パーティーの名前が上がるにつれて話題になるのはやっぱり俺以外の連中でしたよ」
そのルギーレの話に共感を覚えたのはシャラードだった。
「ああ……俺もわかるぜその気持ち」
「シャラードさんも?」
「そうそう。俺たち警備隊と騎士団って、実は内部で反発しあってる連中が多いんだよ」
シャラードが語った内容によると、ファルス帝国騎士団と帝国警備隊の間でもいがみ合いやしがらみがあるらしい。
基本的に騎士団の方が立場が上であり、それなりの地位がある者だったり、家柄が良かったりすると入団試験で有利にされる暗黙のルールがあるのだ。
ただしルギーレとルディアが最初にファルス帝国で出会ったルザロは例外中の例外で、彼は落盤事故で家族を失い、そこから両翼騎士団の団長まで上り詰めた努力家である。
それ以外の平民の団員でシャラードが知っているのは、よほど才能に秀でている者か貴族にコネがある者かぐらいだと話してくれた。
「俺たち警備隊は体力があって仕事を続けられるんだったら全然誰でも入ってくれってスタンスだからよ。でも、騎士団の活躍の方が国民に知れ渡る機会が多いからよぉ、警備隊ってあんまり目立たねえんだ」
しかし、警備隊は平民や貧民に寄り添う立場なのでそちらからの支持が厚く、警備隊なしでは騎士団も活躍できないといわれている。
騎士団は自分たちが手柄を独り占めしたいと思う連中が多く、そこがいがみ合いの原因になっていると内部事情を話してくれた。
「だから俺もルギーレの気持ちがわかるんだ。でもさぁ、俺が気になってんのはそこじゃねえんだよ」
「え?」
「お前が伝説の聖剣の使い手だとか、剣術を特訓して強くなるってのはまぁこれからのお前次第ってこった。俺より若いんだからまだまだ伸びしろもあるんじゃねえのか。あとは個人のセンスの問題もあんだろ。俺が聞きたいのは……何でお前は傭兵になろうと思ったのかってことだよ?」
「……ん?」
「だから、お前が傭兵を自分の仕事として選んでいる理由だよ。何かしらの理由があって選んだんじゃねえのか?」
「いや、別に……」
前にもどこかで同じようなことを話した気がするので、ルギーレは簡潔に、自分が傭兵を選んだのはそれしかできないと考えていたからだったと話した。
「そうなのか。でもまぁ、そのパーティーとは何の関係もねえんだから今は自分の生きる道を探してる途中みたいだな。でも……なんだって勇者パーティーはファルスから脱走したんだ?」
「そうですよねぇ、それが不思議ですよねぇ。私はルギーレが前に、なんかあの勇者たちが変な事を考えているときがあったって聞いたことがあったような……?」
ねぇ? とルディアはルギーレに対して話を振る。
そして振られたルギーレもそのことを思い出したらしい。
「ああ、あいつらは認められたいって願望が徐々に強くなっていってたな」
「強くなって……いってた?」
「そうなんだよ。勇者様って呼ばれることで舞い上がってたんじゃねえのかな。実際に俺に対しての当たりも酷くなっていってたし」
ルギーレの回想によれば、世界各国を回ってちやほやされるにつれてパーティーメンバーが少しずつ天狗になっていったらしい。
そしてお荷物状態のルギーレが少しでも自分たちに意見をすれば、怒鳴ったり時には暴力を振るわれたり無視されたりした。
「そうだったの……でもさぁ、あの黒ずくめの集団と一緒に逃げたってことは繋がりがあるってことでしょ? 手を組んだってことは、もしかして勇者たちって世界征服を企んでいるあの連中の考えに同意したんじゃないかしら?」
「さあなあ、俺は人の心が読めるわけじゃねえからそこまではわかんねえよ。ただ、ファルスの中で聞いた投獄されたって話は最初信じられなかったぜ」
自分に対する扱いは酷くても、外面は良かったので勇者パーティーは犯罪には一切手を染めていなかった。
だから最初に投獄されたのも、一緒に過ごしていたルギーレからすれば嘘だと思っていた。
しかし、黒ずくめの集団が帝都を襲撃したと知ったときに狙うのは例の宝玉と、それからセヴィストの命と……あとルギーレの頭で考えつくのは勇者パーティーたちを仲間に引き入れることだったのだ。
その話を聞いていたルディアが、ここで自分の予想を述べ始めた。




