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7.生い立ち

「よーし、列車代使ってもまだこの町でメシが食えるだけの金があるぜっ!!」

「それはいいんだけど、もっと仕事を請け負ってこなしていかなきゃ。旅するんだったらまだまだやることはたくさんあるんだから」

「そーだな。だからこの町で降りてこれから洞窟に向かうんだろ?」


 旅に出ると決めても、先立つものが無ければ話は進まない。

 だからジゾの町で依頼の達成報告を済ませたルギーレは、次の依頼を受けてこの町までやってきたのだった。


「さってと、この駅で降りてここから先はずっと歩きだな。でもまずは情報収集しなきゃな」

「そうね。それと食料も買い込んでいかなきゃ。薬と魔力の補給用ドリンクも必要だし、やらなきゃいけないことは沢山だわ」


 この町に来るまでの間、ルギーレとルディアはお互いのことを話せる範囲で話し合っていた。

 もちろん、ルギーレは自分が勇者パーティーを追放されてしまったことも含めてである。


「それで行くところが無くなっちまって、のんびりこうして旅をしてみようって思ったわけだ」

「でもそのパーティーはひどいわね。だって今までずっと……ええと五年間だっけ? それだけの間パーティーメンバーとして過ごしてきたのに、突然追放って……」


 だが、ルディアは次の瞬間ルギーレの口から驚くべき一言を聞くことになる。


「しょうがねえよ。だって俺、捨て子なんだからさ」

「え?」


 もしかすると親がいないままで育ってきたのか?

 そう考えるルディアに対して、ルギーレは自分の生い立ちを語り始めた。


「俺さあ、どこで生まれたのかもさっぱりわからねえんだわ。物心ついた時にはすでに、マリユスの親が経営している孤児院に引き取られていたんだよ」

「えっ、あの勇者の親って孤児院の経営してるの?」

「そうだよ。でもそのマリユスと……もう一人の幼なじみのベティーナは孤児じゃねえ。マリユスとベティーナがそもそもの幼なじみで、そこに俺が加わって三人で一緒に遊ぶことが多かったって感じだな」


 でも、とルギーレは遠い目をする。


「俺が十七のとき……勇者パーティーとして旅に出たときから少しずつマリユスとベティーナの様子がおかしくなっていった。正確に言えば周りからちやほやされて調子に乗っていったって感じかな」

「あー、なるほどね」

「で、任務をいろいろと達成していくうちに俺は実力と才能がないことがわかって、あの二人ばっかりギルドランクが上がる。それもあってさらに傲慢な態度になっていった感じだよなあ」


 マリユスとベティーナとは違って捨て子の上に、役立たずで「お情けで同行させてやっている」扱いとあって勇者パーティーではかなり雑な扱いを受けていたルギーレ。

 それを持ち前のあっけらかんとした性格で、今まで気にしないように生きてきていた。

 だがさすがに、その唯一の心のよりどころでもあった勇者パーティーから追放されてしまったのには精神的に大きなショックであった。


「あの二人は決して口ばっかりのやつじゃねえからよ。俺と違って武術の腕は立つし、魔術だってすげえでっけえの使えるし、魔物の知識だって豊富だよ」

「でも、ここであなたがそうやって卑屈になってしまったらますますその連中の思うつぼじゃない。あなたはあなたの道を行けばいいのよ。これからのんびりと、この剣の伝説を確かめに行くことにしたんでしょ?」


 だったらのんびりと、第二の人生でスローライフを楽しめばいいじゃない。

 そう訴えかけてくるルディアに、ルギーレはニイッと笑みを浮かべた。


「そうだよな。やっぱそうだよな。いやー、そう言ってもらえて助かるぜ」


 そうと決まったら、これから先のことを考えないといけないよなぁとルギーレは依頼のことも含めてルディアと話を進めることにした。

 そこでルディアは、ルギーレに対してこんな提案をしてみる。


「ねえ、せっかくだったらその剣の伝説を探るのと一緒に、あなたの生い立ちについても探ってみるのはどうかしら?」

「え、俺の?」

「そうよ。その伝説の剣をいきなり使いこなすことができるなんて、適応能力が高いだけのただの人間じゃないと思うのよ」


 もしかしたら、ルギーレにはきっと何か重大な過去があるはず。

 これは女のカンでしかなかったが、少なくともルディアにはそう思えて仕方がなかったのだ。


「拾われた場所のことは、その孤児院の人からは聞いてないの?」

「それは聞いてるぜ。確かこのエスヴェテレスの東の隣国アーエリヴァの、西の方にある森の中で拾ったってことだったらしいけど」

「孤児院そのものはこのエスヴェテレスにあるの?」

「いや……それがさー、ファルス帝国なんだよ」

「えっ、かなり離れた場所にあるのね?」

「ああ。そのときの孤児院のメンバー全員で旅行に来ていたときに拾ったらしくてさ。なんでアーエリヴァに預けなかったのかって聞いたら、アーエリヴァでは受け入れ先が見つからなかったのと、最初に拾った人間に責任があるってことで、俺はそのままファルス帝国で育ったんだよ」

「そうだったのね。じゃあ……まずはあなたが拾われたっていうそのアーエリヴァに向かいましょう。何かがつかめるかもしれないわ」

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