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81.新天地はどこ?

『あの薬は某が人間の姿になるために必要なものだ。昔から服用している。元のドラゴンの姿に戻るなら最初に見せた通り指を弾くんだ』

(人間になる時の手間の方が大きそうだな)


 先ほどの薬の説明をする医者の横で、ルギーレはそんなことを考えていた。

 そしてルディアと医者が合体したのについても、気に入った人間を体内に取り入れることができる能力らしいのだ。

 しかし、今この場にいる全員が考えなければならないのはそんなことではなかった。


『それでだな、今回の件でそなたたちが戦っているころに某が様子を見に行ったことがあっただろう』

「ああ、東と西のそれぞれの町でですね?」

『そうだ。某は人間の世界を監視する役目をもってはいるが、人間たちのいざこざには表立って入ってはいけない。これは歴史書にも書かれているだろう』

「ええ、そうですね」


 だから西と東の町でただ上空を飛んでいた謎のドラゴンとして目撃されたのも、様子を伺うだけだったのだ。

 ルディアに今回協力したのも、そこまでしか協力できなかった。人間の歴史に世界の守護竜が「大きく」介入すると、それだけで世界のバランスが崩れてしまう可能性があるからだ。


『だから某としても限定的なバックアップしかできない。基本的に人間たちの問題は人間たちで解決してもらわねばならん。今回の件もそうだ』

「じゃあ、あなたは全貌を把握してるってことっすか?」


 ルギーレがそう問えば、医者は曖昧に頷いた。


『いや……某も全部はわからん。ただ一つ言えるのは、そなたたちがこれから追いかけるべきあの勇者パーティーと黒ずくめの集団がバーレンへと向かったことだ』

「バーレンへ?」

『そうだ。しかしまだあの連中が何をするのかはわからん。何かしでかす前に追いかけて止めるべきだ』


 医者がそう言うと、ルギーレたちから少し遅れて戻ってきていた左翼騎士団の二人がその話に同意する。

「あ……私、バーレンへ飛んでいく二匹のワイバーンの姿を見ました!」

「私もアヴィバール副長と一緒に見ました。黒いワイバーンが二匹、猛スピードで西の方へ向かって飛んでいきました」

「それは本当か。そうなると俺たちもバーレンに向かって兵を出そう」


 セヴィストがそう言うが、カルソンがそれに対して待ったをかけた。


「お待ちください陛下。国内の復興に人員を割かなければなりません」

「む……それもそうか」


 そういえばそれもそうだったかと考え直すセヴィストの目の前で、医者はルギーレとルディアに目を向けた。


『それにまだ、そなたたち二人はしっかりと確認しておかなければならないだろう』

「確認……?」

『ああ。そなたの予知夢で見たかもしれないと言っていた、そこの青髪の鎧姿の人間についてだ』

「お……俺ぇ!?」


 いきなり話の当事者になったシャラードが、本気で驚いた表情で声を上げる。

 その話を振られたルディアは、一気に神妙な顔つきになって申し訳なさそうに声をかけた。


「はい……あの、もう直接聞きますけど……クノファン総隊長はあの……黒ずくめの集団と何か関係を持っていましたか?」

「お、俺が!? いや、あの……それっぽい奴らに会ったことはあったけど……」

「えっ、本当ですか!?」

「それはどこでですか!?」


 シャラードのそのセリフに、副官コンビであるテトティスとミアフィンが驚きの口調で詰め寄った。

 カルソンもセヴィストも、それからルザロも同じく驚きの表情で彼を見つめるが、シャラードにもきちんとした言い分があった。


「俺がヴィルトディンの方に旅行に行ってた時だったんだけど、そこで黒ずくめの傭兵集団に会ったんだよ。で、そいつらが困ってたからちょっと魔物退治に協力しただけだったんだ。向こうは俺のことを知らないみたいだったし、魔物もでっけえのから小さいのまでいて苦しそうだったから」

「その時って何か指示を出したりしてました? それから金髪の弓使いの人がいませんでした?」

「ああ、指示は出したし弓使いのそんな奴もいたよ。もしかして、その黒ずくめの連中ってのが今回このファルス帝国を襲撃したって奴らなのか!?」

「ああ……そうだろうなぁ」


 ルギーレもルディアも頭を抱えてしまった。

 その連中の正体を知らなかったのはまだわかるとしても、まさかその黒ずくめの連中とコンタクトがあっただけでなく、魔物退治の指示まで出していたとは。

 そしてそれが、まさかの予知夢の内容だったとは。

 ということは、例の勇者パーティーを脱走させたのはシャラードではないのが判明したのだが、黒ずくめの連中と面識がある以上シャラードにもやらなければならないことが増えてしまった。



 ◇



『……それで、二人はシャラード警備隊長と一緒にバーレンへ向かうと?』

「そうなんです。それでヴィルトディンにもいかなければならなくなりました」

『困ったな……しかし、エスヴェテレスから派遣されていることがわかったらどちらにも悪い印象を持たれてしまうし……こうなったら、絶対にバレないようにしろよ』

「はい、もちろんですディレーディ陛下」


 エスヴェテレスに連絡を入れて、その黒ずくめの連中を追いかけてバーレンへ向かうことになったルギーレとルディア。

 しかも金髪の弓使いの顔を確認するために、復興活動に参加する予定だったシャラードが一緒に行くことになった。

 その代わり、あのドラゴンになれる医者が怪我人の治療などに駆り出されることになったのだ。


(これからどうなるんだろうな……)


 レイグラードの柄にあるくぼみにはめ込むことができる、と言われているあの宝玉も持っていかれてしまった以上、まだまだ長くて過酷な旅になりそうだとルギーレはベッドの中で思いながら眠りについていった。


 第二部 完

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