77.あれって結局誰だったんだ?
「逃げられただと……? なんということだ、それでは結局犯人は野放しのままか!?」
「しかも勇者パーティーも一緒に逃げていったとの話ですから、これはやはりあの黒ずくめの集団と勇者たちがつながっていたということでしょう」
セヴィストとカルソンが、報告にやってきたルザロやミアフィンたちに対して苦虫を噛み潰したような表情を作った。
今までずっと世界最強と自負していたはずの帝国が、こうもあっさりと攻め込まれてしまうなんて。
なぜこうなったのかは明白ではあるものの、これからその後始末に追われるだけでなく犯人たちを追いかけなければならなくなった。
そして当然ではあるが、勇者パーティーを逃がしてしまったルディアにもその話が振られ始める。
「ルディア、一つ聞きたいのだが」
「は、はい」
「お前はあのワイバーンに乗っていたと言っていた男たちが、魔術を弾き返されたと言っていたが、そんな魔術に心当たりはあるか?」
「いえ……あんな魔術は初めて見ました」
ミアフィンもテトティスも一緒にいて驚きを隠せなかったのが、まさかの魔術を無効化されてしまう光景だった。
恐らく魔術防壁の亜種だろうと推測はできるものの、決定的に違うのは敵が武器を振るうことによって魔術が消されてしまったことだった。
もし魔術防壁を使っていたのであれば、それこそ魔術が壁に当たったような動きをしてから徐々に消えていくはずである。
しかしあの時の槍使いの動きは一瞬で魔術を、それも複数同時に放ったものをいっぺんに消し去ってしまったのだ。
「そうか……でも、その槍使いは誰だったんだ?」
「報告によりますと、フードを被って黒いコートを着込んでいたというので誰かまではわかりません。黒ずくめの集団の一人だというのは濃厚でしょう。それに、もう一匹のワイバーンに乗っていた茶髪の男はルディアさんが以前目撃したことがあるとおっしゃっています」
「本当か、ルディア?」
「はい、エスヴェテレス帝国で見たことがあります」
その男……ウィタカーに出会った経緯を簡潔に話し、更に彼らが世界征服を企んでいるとの発言も聞いたと報告する。
当初はバカにしていたが、相手には相当な戦力があるのではないか? と思い始めていることも添えて。
「確かにそうかもしれないな。しかし、こうなってしまった以上もうあいつらを放っておくわけにはいかない。ルディアはその茶髪の男の顔を知っているのだし、その男を追いかけてもらいたい」
ただし、今の状況では騎士団や警備隊の人間たちは一緒に行けないのだという。
エスヴェテレス帝国の状況と同じく、帝都ミクトランザを始め東と西の町それぞれが襲われて多数の建物が崩壊したり、住民たちに被害が出てしまっているのでそちらの復興をしなければならないからだ。
それを聞いた時、ルディアはものすごいデジャヴを感じていた。
(まさか、あの連中は各国をこうして襲撃していくつもりなのかしら?)
その繰り返しとなるのであれば、あの黒ずくめの連中の行動パターンが大体読めてくる。
しかし、勇者パーティーが今回あの連中のほうについてしまったとなるとまた違う行動をするかもしれない。
一体この先どうなってしまうのか? それを考えるのもそうなのだが、まだ帝都に着かないルギーレの心配もある。
そして極めつけは最初にセヴィストが言っていた、遺跡から見つかったお宝があの黒ずくめの集団の手に渡ってしまったことだった。
「それからルザロ、あの宝も結局盗まれてしまったらしいな?」
「も……申し訳ございません。俺の力不足でした!」
「いや、油断して避難していた俺も悪い。その宝を奪ったのはフードを被った槍使いの人間だとも聞いている。恐らく魔術を弾いて逃亡したその男と同一人物だろう。連中の目的はそれと勇者パーティーの奪還だったのかもしれないな」
ルディアにはそれも頼まなければならなくなってしまった。
ルザロがルディアの援護をしている間に、どこからか侵入した黒ずくめの槍使いの手によってあっさりと奪われてしまったらしい。
その宝は厳重に魔術のプロテクトをかけた上で、皇帝しか知らない隠し部屋の中に置いていたはずなのに、気が付いた時にはその宝がある部屋が壊されて盗み出されてしまっていたのだ。
そしてそれに気が付いた両翼騎士団の団員たちを殺して、そのまま逃げて行ったのだと一部始終を見ていた別の騎士団員たちから報告を受けていた。
(ああ……何でこんなにトラブルに巻き込まれるのかしら?)
ひとまずルディアは、ルギーレがここに着くまで城の中で待たせてもらうことにしたのだが、そこに思わぬ来訪者が現れた。




