6.その頃の勇者パーティー
ルギーレがのんびりとした旅立ちを決意したその頃、勇者マリユスが率いる勇者パーティーは次の任務へと出発していた。
「さて、今日はこのあたりに出るっていう大型魔獣の討伐だ。気を引き締めていこう。ベティーナ、情報収集は終わっているのか?」
「ええ、それはもちろんよ」
基本的に勇者パーティーではあの落ちこぼれで役立たずな奴が情報収集をしていたのだが、そいつがいようがいまいが自分たちの勝利に変わりはない。
自分たちは選ばれた人間なのだから。
そう考えているマリユスの横で、ベティーナが討伐目標と場所を発表する。
「今回の目標はロックスパイダーの巣の壊滅。親玉がいるはずだけど、それ以外のも手ごわいだろうから役割分担でサクサク進めるわよ」
「しかもこの時期は繁殖期らしいから、向こうも気が立ってるだろうしな。凶暴なクモの大群に追われないように」
そしてパーティー最年少の二刀流使いライラからは、事前に帝都で入手しておいた人数分の地図が手渡される。
「帝都の人たちからの情報収集は済んでいるわよ~。簡単なつくりのダンジョンだけど、気は抜けないわね~」
このように、事前の情報収集を欠かさないのも任務達成には不可欠なのだ。
そんなことを話していた矢先、メンバーの中でもっとも口数が少ないリュドがルギーレのことを思い出した。
「そういえば、あの追放した男が今までこうやって情報収集や役割分担をしていたわね」
「え~? どうしたのよリュド。まさかあの男のことが恋しくなっちゃったの~?」
間延びした口調が特徴的なライラがそう聞いてみるが、リュドは首を横に振る。
「そうじゃないわ。ただ、あの男ならもっと細かくやってたなって思いだしただけよ」
「ああ、それはそうね~。でも大丈夫よ。今度の任務はBランク用だから私たちにとっては何の問題もないわ~」
「だといいけど……」
なんとなく、リュドがこの任務に不安を覚えているらしい。
そんな彼女を見て、金髪ショートカットのレイピア使いベルタがまだルギーレがパーティーにいた時のことを思い出していた。
(あの男は確か、こうやって地図を配ったりするまでの情報収集だけじゃなくて……その任務先に向かうのに必要な情報をかなり集めていたわね)
任務先の地理、敵がいるならその情報、それに対抗できるだけの武器や防具のメンテナンスに薬草や魔力の回復薬などの準備など、勇者パーティーの中で自分の立ち位置を自覚していたのだろう。
それなりの働きをしていたルギーレだが、やはり実力不足ということではこのパーティーのメンバーとしてはふさわしくない。
「ふん、あんな足を引っ張るだけの雑用係しかできない男なんて追放されて当然なのよ。そうでしょ? マリユス」
「お前の言う通りだ、ベティーナ。だって俺にはもう、こうやって信頼できるメンバーがいるんだからな!」
「うれしいわ、マリユス!」
心から嬉しそうにマリユスに抱き着くベティーナを見て、ベルタ以外の他のメンバーが焼きもちを焼いていた。
「ちょっとお、マリユスはみんなのものなの!」
「そうよ~、抜け駆けはだめよベティーナ~」
「ほら、離れて」
(このパーティーで本当に大丈夫なのかしら……?)
もしかすると、リュドの心配が自分にも移ってしまったかもしれない。
ベルタもこの後の任務にはちょっとずつ不安を覚えていた。
そうして目的地である、帝都から列車に乗って二駅の場所にある洞窟へとたどり着いた勇者たちだったが、そこでルギーレを追放したことを盛大に後悔する事態に陥ってしまう。
「うわあああああっ!!」
「ちょ、ちょっとこんなの聞いてないわよ!?」
「くそっ、ここはいったん退却だ!」
こうして、なすすべなく逃げ帰ることになってしまったパーティー。
その理由は簡単で、予想をはるかに上回る敵がこのダンジョンの中にいたからだ。
「くそっ、確かに繁殖期だとは聞いていたがこんなにクモの数が多いなんて聞いてないぞ!?」
「私だってそうよ! でも、こうなったらいったん引き返して体勢を立て直すしかないわね!」
原因は情報収集不足と、油断と慢心だった。
リュドやベルタが思い出していた通り、ルギーレがいたころはもっと詳しく細かく任務についての情報を仕入れていたのである。
それが今回はそのルギーレがいなかったため、自分たちの予想をはるかに超えた魔物の大群に襲われてしまったのだ。
「ああ~、まさかここまで苦戦するダンジョンだとはね~」
「ちきしょう、こんなんじゃ俺たちなんて言われるかわからないぞ!?」
「大丈夫よ。誰にだって失敗はあるわよ。だからまずは落ち着いて……ね?」
ベルタになだめられ、マリユスは深呼吸して落ち着きを取り戻す。
「……ああ、そうだな。じゃあいったん駅がある町に戻って、そこから情報収集をしよう。そして再度このダンジョンに挑戦だ」
だが、その駅にはルギーレもいたのである。