75.早くね?
「え? もう城に着いた? やけに着くのが早くねえか?」
ルザロの元に窓ガラスをぶち破って飛び込んできたルディアから、ルギーレに通信が入った。
なんと、彼女は先にミクトランザに向かったはずの左翼騎士団よりもずっと早く、フールベリア城にたどり着いたのだという。
しかもその移動手段というのが、灰色のドラゴンに乗せてきてもらったらしい。
そのやり取りを横で聞いていたラシェンとカノレルは、戦いを終えたばかりの東の町で見かけた灰色のドラゴンのことを思い出していた。
「まさか、あのドラゴンが……?」
「いや、灰色のドラゴンだったらどこにでもいるでしょう。それよりも話の続きを聞きましょう」
「そうだな」
推測だったらルギーレとルディアの通話が終わってからいくらでもできるので、二人の右翼騎士団員はその会話に耳を傾け続ける。
「うん……ああ、わかった。それなら後はそっちに任せる」
しかし、ルギーレの通信はそのあとすぐに終わってしまった。
更にルギーレがホーッと息を吐いて安堵の表情を浮かべたことから、今までの緊張感を微塵も感じさせない雰囲気を出している。
「なあルギーレ、いったい何があったんだ?」
「ああ、もうあとはこっちで黒ずくめの連中を追い払えそうだって話だったんで、ゆっくり来てくれって言ってましたよ」
「え……?」
ルディアと灰色のドラゴンがたどり着いたので、もう助けはいらないのだという。
ルギーレもそれだけ言われて「でも今はちょっと忙しいから」と通信を切られてしまったので、何がどうなっているのかの現状を掴めないままだった。
一つだけわかったのは、左翼騎士団が担当していた西の町での襲撃がすでに終わっていることだった。
とにかくミクトランザに着かなければ状況がわからないので、とにかく無事でいてくれと三人は願いながら列車に揺られ続けた。
◇
「うわあああっ!!」
「ぜ、全員逃げろおおおお!!」
一人の少女が、その身に灰色のオーラを纏いながら歩いてくる。
しかもその右手は炎によって燃え盛っていながら、全く熱さを感じていないらしい。
あの女は魔術師だ。そう考えながら迎え撃とうとする黒ずくめの集団たちは、女が投げつけてくるファイヤーボールになすすべもなく焼かれていく。
コントロールが恐ろしく正確であるうえに、魔力切れを感じさせないぐらいに大きな物を撃ってくるため、接近戦に持ち込めないのだ。そもそもこの城の中で弓や魔術を連発すれば、仲間に当たってしまう可能性が高い。
対するあの女はそのコントロールに絶対の自信を持っているのだろうか、何の迷いもなく次々にファイヤーボールを撃ち出してきているのだった。
ならばと弓使いや同じ魔術師が対抗しようとするが、それはルザロを始めとする帝国騎士団員たちや警備隊の隊員たちによって次々に倒されてしまう。
しかし、順調に進んできていたと思われたその矢先、彼女のサポートをしていたルザロにまたもや通信が入った。
『ファラウス団長、大変ですっ!!』
「どうした、ミアフィン?」
『地下に投獄していたはずの勇者パーティーの一団が、逃げ出しましたっ!!』
「何だと!?」
『現在は城の敷地内から抜け出そうと、警備隊や騎士団をせん滅しつつ進んでいます! 至急、増援を!!』
「え……?」
ただ事ではないルザロの声に、思わず彼の方を振り向いたルディアはその事実を伝えられて愕然とした。
「え……勇者パーティーってやっぱり黒ずくめの集団とつながっていたの?」
「どうもそうらしい。君の相棒はパーティーメンバーがそんなことをするはずがないと言っていたし、現にパーティーがここに連れてこられた時には無実を主張していたからな」
なのにどうして、勇者パーティーがそんな凶行に出たのか?
それは彼らに聞いてみなければわからないので、ルザロはルディアに援護に行くように指示を出す。
まだこちらにも黒ずくめの集団や魔物たちがかなり残っているので、ルザロたちはそのせん滅を最優先に戦うらしい。
「ここはあとは俺たちだけでなんとかなる。その角を曲がった先にある赤い扉から地下に向かえば、騎士団員の格好をしてピンク色の髪を持っている小柄なミアフィンという女と、金に限りなく近い茶髪で少し背が高めで、警備隊員の格好をしているテトティスという名前の女がいるはずだ。彼女らと合流して脱出を阻止するんだ!」
「わ、わかりました!」
部外者のみではあるが、現時点で頼めるのは君しかいないとルザロに言われてルディアは地下の階段に向かって走っていった。
(薄暗いわね……しかも見張りが惨殺されてる)
その先に何がいるのかもわからないまま階段を下りていくと、まず見張りの死体を発見した。
そしてパーティーが入れられていたと思わしき牢屋の前には、ルザロからの情報通りの容姿をしている二人の女の姿があった。
「あっ、もしかしてルディアさん?」
「あなたたちがミアフィンさんとテトティスさんですか?」
「ああ、そうだ。勇者パーティーはこの先に逃げたと聞いたから、私たちについてきてちょうだい!」




