72.一難去ってまた一難
「カナリス団長、大変です!」
「どうしました?」
「帝都が何者かによって襲撃を受けているそうです! 至急、左翼も右翼も集合するようにと!」
「何ですって……!?」
今しがた強大な敵を倒したばかりだというのに、また帝国内が襲撃されている。
しかもそれは、自分たち騎士団が本拠地としている帝都ミクトランザだという。
「敵の数や正体は?」
「それが全貌を把握しきれていないらしくて、対応するのに精一杯だそうです。と、とにかく急ぎましょう!!」
「わかりました!!」
「あ、あのー……私も一緒に行った方が良いのでしょうか?」
おずおずとルディアが手を挙げるが、リアンもティハーンもその申し出を断った。
「いえ、ルディアさんはこの町で待機していてください。ちょうど敵を倒したばかりですし、負傷している人たちもたくさんいらっしゃいますので、こちらで治療や復興作業の手伝いをお願いします」
「わかりました……」
「今回も君を巻き込むわけにはいかないから、あとは私とカナリス団長に任せておけ」
最低限の人員だけを残して、リアンとティハーンは大急ぎでミクトランザへと向かっていく。
確かに一般人である自分をこれ以上戦いに巻き込むわけにはいかないのだろうが、依頼を達成したら例の遺跡から発掘されたというお宝について話を聞かせてくれると皇帝のセヴィストや宰相のカルソンが言っていたため、本音を言えば自分もミクトランザに戻りたかった。
(それに、まだルギーレとの連絡も中途半端な状態で終わったままだし……予知夢のこともあるし、灰色のドラゴンのこともなんだか引っかかるわ)
次々にいろいろな出来事、それから考えなければならないことがやってきているルディアの頭はパニック障害である。
ルギーレに連絡を入れてみようかと考えてはみるものの、まだ戦いが終わっていなかったらいけないのでそれもはばかられる状態だった。
ひとまずはリアンとティハーンに言われた通り、この町での復興作業と治療に当たるべく動き出したルディアだったが、彼女のもとに一人の男が現れたのはその時だった。
「あれ、そなたは帝都に向かわなかったのか?」
「えっ?」
どこかで聞き覚えのある声がしたと思い、その声のする方向に目を向けたルディアは、驚きの人物が目の前にいることに気が付いた。
「あ……あなたは!?」
「ちょうどこの町に用事があって来てみたら、まさかこんな大事に遭遇するとはね」
「お医者さん……ですよね?」
「ああ。ちなみにそなたがあの海竜と戦っているのも見させてもらったぞ」
ミクトランザの中で診療所を開いており、国でさえも知らないことをいろいろと知っているあの医者がなぜかこの町にやってきていたのだ。
事情を聴くと、彼はこの町の近くで採れる貴重な薬草を求めてここまでやってきたらしいのだが、運悪くあの海竜もどきの襲撃に巻き込まれてしまったらしい。
「私もあの騎士団の人と一緒に行こうと思ったんですけど、一般人をこれ以上巻き込むわけにはいかないと断られまして」
「まあ確かにそれはそうなるだろうな。でも、それだけが原因ではないと思う」
「え?」
医者はルディアとともに今回の襲撃事件の被害者たちの治療場所に向かいながら、別の視点で物事を考えてみる。
「プライドがあるんだろう、この帝国には」
「プライド……」
「そう、プライドだ。このファルス帝国は世界でも最強と名高い騎士団を擁していることで有名だろう。しかし、その騎士団が無残にやられただけでなく部外者であるそなたに助けられたとあってはメンツも何もかもズタズタだろうな」
世界最強と自負している騎士団の人間たちが、わけのわからない連中にやられて、そして部外者に手助けをしてもらったのは感謝よりも屈辱の方が大きい、と医者は言う。
ルディアはそんなことは微塵も思っていなかったのだが、結局騎士団のことは騎士団にしかわからない。
なんにせよ今の自分が気になるのは帝都のこととルギーレのことだとルディアが言えば、医者はすべてお見通しだといわんばかりの口調でこんなことを言ったのだ。
「あの黄色いコートの男なら問題ない。今も生きている」
「えっ、どうしてわかるんですか?」
「前にも言っただろう、某は何でも知っている男だと。この世界のことならすぐに情報が入ってくるからな」
「……なんか怖いですね。それじゃあの、私が見かけた灰色のドラゴンのこともわかりますか?」
この男は何をどこまで知っているのだろうか?
一体この男は何なのだろうかとかなりの恐怖心を抱くルディアが意を決してそう聞いてみると、それについてはこんな答えが返ってきた。
「そのドラゴンだったら気ままに時々このファルス帝国内を飛んでいるのを見かけるぞ」
「そうなんですか?」
「ああ。そなたの相棒は東の町に向かったみたいだが、そちらの方でも先ほどこの上を飛んでいたのと同じ灰色のドラゴンが目撃されたことがわかった。あのドラゴンは人間には干渉しないみたいだ」
「何でですか?」
「さあな。興味がないのか、もしくは人間という生き物を面白がって見ているだけなのか……某にも生き物の心の中までは読めないからな」




