71.しがらみ
「うわっ!!」
「やった……んですか?」
「どうやらそうみたいですね、ルディアさん」
予想以上の爆発だったために三人を始めとするファルス帝国の面々は急いでその場を離れ、燃え盛って崩れ落ちていく海竜もどきを眺めていた。
外からの攻撃はいくらでも防げるだけの防御力を持っていても、その「中」からの攻撃には脆かった。
ルディアはそのことに気が付いたのだ。
「人間でも鍛えられる部分と鍛えられない部分があります。筋肉を増やして身体を大きくできても、内臓の病気になる可能性もあるということです」
「まさか、それをヒントにこの作戦を思いついたのですか?」
「ええ、まあ……炎の話をリアンさんにしていただいたのもそうなんですけど、前にこの国に来たときにちょっと身体を壊しまして、お医者さんに診ていただいたことがあったんですよ」
それもヒントになったので、人生は何が役に立つのかわからないものだとルディアは実感していた。
そして問題は海竜を操っていたであろう人物を特定することであったが、その海竜そのものが炎に包まれている状況ではなかなか近づけないのでルディアが水属性の魔術で消火に当たって近づけるようにした。
しかし……。
「中には誰もいませんね……」
「え、本当ですか!?」
「はい。ご覧の通り、誰かが乗っていたと思わしき形跡はあるのですが今は空です」
海竜もどきの首が根元からポッキリと折れ、操縦席を調べられるようになったのだがそこには誰もいなかった。
つまり、爆発する瞬間に逃げたということになるのだろう。
リアンとティハーンは急いで町を封鎖し、その操縦していた人間を出さないように部下に指示を出した。
その一方で、ルディアは空に一つの影を見ていた。
「……あら? あれは……ドラゴン?」
「え?」
「本当だ、しかも大きいぞ!?」
指示を出したばかりの騎士団員二人も、ルディアが見上げて指を差す方向を見てその正体を知る。
灰色のドラゴンが町に近づいてきている。
それもティハーンが言った通り、普通のドラゴンよりも一回りほど大きいので騎士団員たちは思わず身構える。
まさか黒ずくめの集団が操っているのか? と警戒するのはこの時点では当然だったのだが、その後のドラゴンの行動は謎だった。
グルリと町の上を旋回して、地上に降りるような素振りは一切見せずにそのまま踵を返して飛んで行ってしまったのである。
「……何も起こりませんでしたね?」
「そうですね。ですがアヴィバール副長、向こうの方はミクトランザ方面ではありませんか?」
そのリアンの質問で何をするべきかを素早く察知したティハーンは、懐から魔晶石を取り出した。
「はい、ファラウス団長に伝えておきます」
「よろしくお願いします。それからクノファン総隊長がいらっしゃらないので、リースレア副総隊長にも連絡を入れておいてください」
「かしこまりました」
「クノファン総隊長……? リースレア副総隊長?」
聞き慣れない名前と役職の人間に首を傾げたルディアに、リアンから説明が入る。
「この二名ですが、先に名前が出たのがファルス帝国警備隊のシャラード・クノファン総警備隊長です。騎士団の下に位置している帝国警備隊のすべてを取り仕切っている方でして、ファラウス団長と並ぶもう一人の将軍でもあります」
「ああ……そういえばこの国には警備隊もあるって前に説明を受けましたね。そのトップの方は今は帝都にいらっしゃらないんですか?」
リアンは首を縦に振った。
「はい、現在は休暇を取って他国へ旅行に出かけられてます」
「旅行?」
「はい。長いこと休みを取っていなかったから、纏まった休みを取って国外旅行に出かけられているんです。ですから連絡は自分の副官であるリースレア副長にお願いするといわれていましてね」
「え、でも……こんな状況の中だったら旅行を切り上げて戻ってこないとまずいんじゃないですか?」
ルディアのいうことはもっともなのだが、そこには組織ならではのしがらみやルールがいろいろとあるらしい。
「確かにそれはおっしゃる通りなのですが、私たち騎士団と警備隊では立場が違うので迂闊に口を出せないのですよ。例えば帝都が襲撃されるようなことがあれば一斉に連絡を取るようにセヴィスト陛下から指示が下ったり、陛下と同じぐらいの権限を持っているファラウス総団長から連絡がいくのですが、私たち左翼騎士団や右翼騎士団はそこまでの権限がないんですよ」
「なんか……いろいろとややこしいんですね」
正確に言うとかなり面倒臭そうなのだが、それはファルス帝国騎士団の問題であって自分たちの問題ではない。
しかし、左翼騎士団と右翼騎士団では守るべき場所が違うだけで立場は一緒らしいので、先ほどのルギーレの方が落ち着いたのかをリアンに確認してもらうことにした。
だが、それよりも先にティハーンからの驚くべき報告が入るのが先だった。




