69.集団戦の崩壊
東の町での戦いは終わったが、ルディアとティハーンが向かった西の町ではまだ戦いが続いている。
そして、ルディアは一人の男に守られながら戦いを続けていた。
「ルディアさん、あまり前に出すぎないように!」
「すみませんリアンさん!」
彼女がリアンと呼んだ茶髪の騎士団員は、ティハーンの上司であり左翼騎士団団長のリアン・カナリスだった。
彼は優男のような風貌ではあるものの、その体格に似つかわしくないバスタードソードを駆使して敵をなぎ倒しているのだ。
かといって性格まで豪快ではなくむしろ冷静であり、的確に状況判断をして自分の部下たちと一緒に敵をなぎ倒しているので、武器と性格と体格がアンバランスだなあとルディアは失礼ながら思ってしまった。
ちなみに、弓を使えるティハーンはほかの騎士団員たちを率いて魔物たちをせん滅しに行っている。
あの後、結局倉庫に乗り込んできた複数の魔物を何とか倒したルディアは「ここも危険だ」と判断して、倉庫の外に出て別の隠れ場所を探していた。
するとちょうど、リアンに出会って事情を説明して彼に守ってもらいながら一緒に戦っていたのである。
しかし彼女もまた、この戦いになかなか終わりが見えないことに焦りを感じ始めていた。
(くっ……たまに休まないと魔力が回復しないわ。それにしてもこの魔物の多さは異常よ!)
それに先ほどからちらほらと見かける黒ずくめの武装集団からして、やはりこの戦いは黒ずくめのあの男たちが裏で糸を引いているのだろうと確信した。
リアンからもらった魔力の回復薬を飲み、身体を休めつつ治癒魔術で回復しながら戦っていたその時、突然突っ込んできた大型の魔物の存在があった。
「きゃああっ!?」
「うわ!?」
その突っ込んできた魔物も、ルディアが最初にあの倉庫の中で出会った犬もどきと同じく金属加工されている。
そしてかなり異様な改造を施されている生物だというのが一目でわかった。
(あれは……触手?)
見た目としては海の上を泳いでいる海竜なのだが、その身体の両脇から固そうな金属製の触手が伸びている。
しかも陸上をスーッと滑るように移動できるということも相まって、スピードにも優れているらしい。
加えてその加工されている金属部分は特殊な素材でできているらしく、騎士団員たちの斧やロングソードなどの攻撃は一切通用しないうえに、矢で射抜こうとしても弾き返されてしまうだけだった。
極めつけは、突進攻撃や触手を振り回すよりもさらに厄介な攻撃手段を持っていることだ。
「……ん!?」
「あ、危ないっ!!」
ルディアの叫び声で間一髪回避できたのは、海竜もどきの口から吹き出された灼熱の炎だった。
それを見て、リアンが苦々しい表情を浮かべた。
「くっ、何なんですかあの魔物は!? 私たちでもあんなものは見たことがありません!!」
「そのバスタードソードの攻撃は効きそうですか!?」
「私のこれでも無理でしょう。かなり厄介ですが、何とかして私たちが束になって立ち向かわなければ!!」
だが、リアンのその言葉通りにはいきそうにない。
なぜなら集団戦を得意としているはずの帝国騎士団員たちが果敢に向かって行っても、その海竜もどきはビクともしない。
ならば魔術で……と思っても、その金属製の身体は魔術そのものをはじき返してしまうようで、もはやなすすべがない状態であった。
「くっ……全員いったん退却!! 住民たちが残っていればその住民を避難させることを優先させるんだ!!」
避難完了の報告をまだ受けていない以上、町の住民もどこかに残っているかもしれないので、リアンはあの魔物を倒すことをいったん諦めて作戦を練り直すことにした。
今まで自分たちが最高で最強だと信じて疑っていなかった、自慢の集団戦法が初めて通用しない相手に出くわしたのだから内心の焦りは半端なものではない。
だが一方のルディアは、その海竜もどきの弱点を必死に探していた。
(さっきから火を噴いてくるってことは、どこかにそうやって火を起こせる設備が組み込まれているってことになるわよね?)
それに金属でできている身体ということは、全体的に見て水属性の魔術には弱そうだと判断するルディア。
ただし、魔術は弾き返されてしまうので狙うのであれば口の中しかなさそうだ。
(こういう時は他の人にも手伝ってもらって、一気に決めるしかなさそうね!)
自分も魔術を極めている者の一人として、ここでむざむざやられるわけにはいかないし、攻撃魔術があるならこういう時にこそ最大限に使うべきだ。
そう考えたルディアは、自分の作戦をリアンとティハーンに説明してさっそく実行に移し始めた。




