68.決死のジャンプ!!
(あれだっ!!)
ルギーレはこの町の中で一番高い建物に目を向け、そこに向かって走り出した。
時間の区切りを告げるために鳴らす鐘がある、鐘塔を見つけたのだ。
「あっ、おい……どこに行くんだ!?」
「あいつを倒します!!」
「ま、待ってくれ……くっ!!」
鐘塔を目指して、魔物を相手に奮戦しているラシェンとカノレルの静止も聞かずにルギーレは路地裏を駆け回り、とにかくあいつを倒すことだけを頭に置いていた。
(どこの誰だか知らねえが、何の罪もない人たちを傷つけるなんて俺は絶対に許せねぇ!!)
魔物たちはまだ町のあちらこちらにいるらしく、時々立ちふさがる魔物たちをレイグラードで倒しながら進み、ようやくその鐘塔の出入り口にたどり着いた。
「どきやがれぇ!!」
出入り口のドアを一刀両断し、鐘のある最上部まで一気に駆けあがろうとするルギーレだが、あの空飛ぶ馬に乗っている金髪の弓使いも彼を追いかけてきていた。
窓の外からその馬に乗ってうまく並走したまま、階段を一心不乱に駆け上がるルギーレを狙って矢を放ってきたのだ。
「うおあっ!?」
窓の外から撃ち込まれた矢に驚いたルギーレはバランスを崩し、足を滑らせて危うく階段から落ちそうになりながらも、必死に正方形状の螺旋階段を上り切った。
さすがにここまで全力疾走をすると、レイグラードの加護があったとしても息切れが激しいので、鐘のある場所に出る前に一旦止まって息を整える。
パーティーにいた頃もそれなりに鍛錬はしていたものの、これは戦いだけじゃなくて体力もレベルアップさせないといけないかな……とルギーレは決意しつつ、整った息を確認して最上階のドアを開ける。
そこは大きな金色の鐘が鎮座している狭い空間であり、この町の光景を眼下に見下ろすことができる絶景のポイントだった。
しかし、この状況ではお世辞にも絶景とは言えない光景があちこちに広がっている。
黒い煙、炎、それから空を飛ぶ魔物たちが至る所に見えるだけでなく、人々の悲鳴や怒号も聞こえてきている。
そして、その元凶となったのかもしれない空飛ぶ馬と黒ずくめの弓使いがルギーレを追いかけて鐘のそばにたどり着いた。
「二度も同じ手は食うかよっ!!」
狭いだけあってお得意の突進攻撃は使えず、弓を使ってルギーレを狙い撃ちすることしかできないらしい。
だが、ルギーレもそんな遠距離攻撃しかできない相手にどう反撃するかを考えていた。
(どうにかしてあそこに攻撃を当てられれば……!!)
先ほどの中央広場での突進の時にも思ったが、遠距離攻撃の方法を持たない以上は向こうから近づいてくるのを待つしかない。
もしくは魔術か何かを使うしかないのだが、そんな攻撃をどうやって?
飛んでくる矢をよけながら必死に考えた結果、その矢の動きを見て彼は思いついた。
(リスキーだが、これしかねえかもな!!)
ルギーレは意を決し、今度は鐘塔の屋根の部分によじ登る。
これで空飛ぶ馬が彼に向かって再び突進できるようになったのだが、それはルギーレにとっても大きなチャンスだったのだ。
再び彼に向かって矢を放った騎手は、続けざまに馬を加速させて突進攻撃を仕掛ける。
矢をギリギリで回避してバランスを崩したものの、ルギーレはそのチャンスを待っていた。
「……ふんっ!!」
「っ!?」
加速してきたその馬の目前でルギーレは体勢を立て直し、屋根によじ登る前に魔力を送り込んでいたレイグラードに手の力を込めつつ、馬に向かってジャンプしながら振り上げる。
一直線に突っ込んできた馬はスピードを殺せずにルギーレに突っ込む形になってしまい、レイグラードによる攻撃を避けることも不可能な状況で、両者の姿が交差した。
その瞬間、空をつんざくような大爆発が起こった。
「……うお……っ!?」
「あ、あれはルギーレ……!?」
魔物たちや黒ずくめの人間たちと戦っていたラシェンとカノレルを始め、敵も味方もその轟音が聞こえてきた方向に一斉に目を向けて動きを止める。
しかし、金属加工されている魔物たちは別の意味で動きを止めてしまった。
ルギーレと空飛ぶ馬が大爆発を起こしたその瞬間、まるで突然死をするかのようにピタッと動きを止めて地面に崩れ落ちたのだ。
空を飛んでいた他の魔物たちも同様であり、空中で動きを止めて地面に向かって次々と落下していく。
残った黒ずくめの人間たちは、自分たちのリーダーがやられたのを見るや一目散に逃げ去って行ってしまった。
それと同時にハッとするラシェンとカノレルの二人。
「……ルーザス団長、ルギーレは!?」
「あっ、そうか!! 急ぐぞ!!」
先ほどの爆発を引き起こしたのがルギーレだったとしたら、彼の安否がいまだに不明である。
二人は部下たちに後始末を任せて鐘塔に向かったのだが、そこで遭遇したのは鐘塔の出入り口から意気揚々といった雰囲気で出てくるルギーレの姿だった。
「よっしゃ、あいつは倒しましたよ!!」
「ルギーレ、無事だったか!!」
「ええ。でもまだあいつが乗っていた空飛ぶ馬の残骸が向こうに落ちたままなんです」
「わかった、それじゃ確認しに行くぞ!」
この瞬間、この町での異形の魔物たちとの戦いは終わりを告げたのだが、まだ戦いそのものは終わっていなかった。




