63.役割分担
思わぬヒントをこんなところでもらえるなんて思ってもみなかったが、戦力を二分しなければならなくなったらしい。
一時的にルギーレとルディアは別行動を取らなければならなくなったが、これもまたその宝玉を手に入れるのに必要となるので仕方がない話だった。
「俺は東の方に向かうから、ルディアは西に向かってくれ」
「わかったわ」
ファルス帝国から東に向かうと、ルディアの身が危険に晒されてしまう可能性があるヴィーンラディ王国がある。
なので少しでもそのリスクを減らすべく、ルギーレが東に向かえば良いだろうとなった。
移動手段はそれぞれの方角に向かう列車となるのだが、ルディアにはきちんと付き添いでティハーンがついてくれるし、ルギーレにも右翼騎士団の副騎士団長がついてくれる。
その彼はバトルアックス使いだった。
「君が話に聞いていた傭兵のルギーレだね。俺は右翼騎士団の副騎士団長を務めているカノレル・エードレイってんだ。よろしく頼むよ」
「ああ、どうも」
水色の髪の毛を無造作にしたヘアスタイルで登場したのは、快活そうなまだ若い青年の騎士団員だった。
最初に出会ったルザロはどこか人を寄せ付けなさそうな雰囲気だったし、ティハーンと呼ばれていた左翼騎士団副団長は堅物な印象を受けたものだが、この男なら腹を割って話すこともできるかもしれないとルギーレは読んでいた。
事前に約束通り、黒ずくめの連中の手がかりを追い始めるとエスヴェテレス帝国に連絡を入れておいた二人は駅で別れて移動を始めたのだが、ティハーンと二人でいるよりかはマシだと思ってしまった。
そして、最初に話を振ってきたのもこのカノレルである。
「いやしかし、まさかあの勇者パーティーにいた人だとは思いもしなかったよ」
「ちょっとあまりその内容には触れてほしくないんですけど……」
「あーごめんごめん。じゃあ話を変えようか。今から俺たちが向かう所は、君ともう一人の人がファラウス団長と一緒に孤児院襲撃の連中を倒した鉱山から近い所なんだ」
「そうなんですか?」
「ああ。俺やルーザス団長が国の右側の管轄をしているんだけど、最近はアーエリヴァ方面から不法入国者が国境を越えてやってくるもんで警備を強化しているのさ」
「そういやー、この国の騎士団は全部で四つあって、それぞれ管轄が違うって聞きましたね」
ルギーレは勇者パーティーにいたとき、それからルザロに帝都まで連れてこられた時に聞いたことがある。
ティハーンが副騎士団長として所属している、国土の左側を護っている左翼騎士団。それから右側を護るカノレル所属の右翼騎士団。
そしてルザロ率いる両翼騎士団が護るのが帝都ミクトランザとフールベリア城であり、その下に帝国警備隊という下部組織が存在している。
警備隊はそれぞれの騎士団のサポートをする役割をしているものの、基本的には騎士団で対応するだけの必要がない事件や案件に関しては警備隊で済んでしまうらしい。
「そうそう。それで最近アーエリヴァの方の監視を強めていたんだけど、最近は妙に不法入国者が多くなりすぎていてさ、これはおかしいぞってことで色々調べたんだ。そうしたらそのうちの一人からとんでもない話が聞けたよ」
「どんな?」
「そいつらは家がなかったり世捨て人みたいな連中ばかりで、正体がよくわからない連中から金を積まれて雇われたんだって。それで話をもっと聞いたら、単純にファルス帝国に入ってくれるだけでいいからって言われただけなんだってさ」
「不思議ですね、それ……あ!?」
一体誰が何の目的で?
そう考えると、ルギーレはどこかピンとくるものがあった。
「も、もしかしてその金を渡して人を集めた連中って……」
「まだ確信はできないんだけど、恐らく今の君が思っていることと俺の考えていることは同じだろうね。その連中に金を渡してわざとこっちの騎士団たちに捕まえさせる。すると国境付近の警備がその連中の対処で甘くなる。その間にその黒ずくめの連中が入国したんじゃないかって考えてるんだ」
「つまりそいつらは囮で、警備の穴を作るために捨て駒として送り込まれたってことか……」
騎士団や警備隊が見張っているとはいえ、その数には限度がある。
しかも国境には、そうした不法入国者や空からやってくる魔物がうかつに入れないように魔術防壁も張っているはずなのに、それを一時的に無効化できる液体を所持していた者もいたのだという。
「その液体を魔術防壁につければ、つけた部分だけ防壁が無効化されることが分かった。でもそんな液体を個人レベルで開発できるとは到底思えないから、背後にはその黒ずくめの集団がいるんじゃないかって話をルーザス団長としていたんだよ」
「うーむ、そりゃあ確かに背後関係を洗うとものすごいホコリが出てきそうですね」
オーソドックスな囮作戦と、トリッキーな薬をうまく使って計画を進めたらしいというのは分かったのだが、ルディアが向かった国の左側ではまた別の作戦で入国を許してしまっていたそうだ。




