61.考え方の違い
「そうか、この剣を持っているとすごい力が出せると?」
「はっ、間違いございません陛下。俺がこの目でハッキリと確認しました」
あの後、鉱山の奥の行き止まりまで追い詰めた連中を全員倒したルギーレとルディアは、一緒に討伐任務を果たしたルザロが率いる騎士団員達と一緒に、帝都ミクトランザにあるフールベリア城までやってきた。
そこの謁見の間までやってきて、この国の皇帝であるセヴィストと対面することとなった。
(これ、かなりデジャヴだぜ……)
(デジャヴって展開ね、これ)
言葉には出さないものの、二人は全く同じことを考えていた。
エスヴェテレス帝国での展開を思い出して、これから一体どうなるのだろうかと考えていた二人だったが、それよりも驚きの展開が二人を待っていた。
「あの廃鉱山の壁を一撃で砕くことができるだけの、恐ろしい魔力が秘められている剣みたいだが……俺はこの剣にそっくりな剣の話を聞いたことがある」
「……まさか、あの剣ですか?」
「あの剣ですね?」
「そうだ。お前たちはすでに見当がついているようだな、ルザロにカルソン」
ルザロとそれからもう一人、黒を基調としたコートを着込んで紫色の髪の毛を伸ばし、その髪の毛で片目を隠している宰相のカルソンが察したらしい。
その二人の反応を見て、カルソンと同じく片目を隠した皇帝のセヴィストが立ち上がり、玉座から立ち上がってルギーレとルディアの目の前までやってきた。
「これはもしかすると、伝説の冒険家ルヴィバーが使ったといわれているレイグラードって聖剣じゃないのか?」
「……!」
思わず目を見開いてしまったルギーレのリアクションで、セヴィストは全てを察してその金髪を揺らす。
だが、その後の一言でルギーレは拍子抜けしてしまった。
「……はは、まさかな。そんな聖剣がこの今の時代にあるわけがないか」
「え?」
「だって、それは遠い昔の遺物だろう? おそらくこれは精巧なレプリカの類か、よく似た別物だろうって俺は思っているんだ」
「あ、あの……どうしてそう思われるんですか?」
まさかこのままレイグラードをファルス帝国に奪われてしまうのかと思っていたルギーレは、あっさりとそれを返してくれたセヴィストに思わずそう質問していた。
その答えは、玉座に戻ったセヴィストからこう語られる。
「数百年前からレイグラードは行方知れずのままだからだ。それに我がファルス帝国は武人国家だから、もしそんなものがあったとしても興味を持たないんだよな」
「え……?」
「戦術というものはどんどん変わるものだ。俺だってレイグラードの話は聞いたことがあるし、どんな活躍をしたのかも歴史書から知っている。だが、戦争というものは一人で戦うものじゃない。個人の小競り合いじゃなくて、集団戦では一人に頼るなんて愚の骨頂だからな」
レイグラードと、その使い手であるルヴィバーに頼りっぱなしだった昔の時代とはもう違う。
ファルス帝国軍では個人の実力を高めることももちろん大切なのだが、それよりも集団戦の大切さや戦術面で有利に進めるにはどうすればよいかということを考えるのを一番の目的としている。
奇襲作戦、撤退のスピード、そして一斉攻撃と個人で戦うよりも集団で叩き潰すのがいいと考えているのだ。
「だからレイグラードがもしこの世にあったとしても、我がファルス帝国の団結力と集団戦法にはかなわないと自負している」
「へ、へぇ~、そうなんですか……」
エスヴェテレス帝国は小国だからか、このレイグラードの力を欲しがっていた。
しかしファルス帝国ではそんなものに頼らなくても大丈夫らしいので、ルギーレはそのまま苦笑いを浮かべることしかできなかった。
今回の廃鉱山での討伐任務ではタイミングが悪くて敵の方が数が多い状況であったが、レイグラードを使って奇襲作戦をかけることに成功したルギーレからするといまいち納得できない話ではあった。
(集団がもしバラバラになっちまったらどうするのかしら、この人たち……)
そういう場合もきちんとバックアップなり次の一手なりを考えているのだろう……とは思っているものの、他人事でありながら心配になってしまうルディア。
そんなやり取りがなされている謁見の間へ、新たな来訪者が現れた。
「陛下、そろそろ例の件につきましてこちらで予定があったかと思われますが……」
「ん、ああそうだったな。それじゃお前たちはもう帰っていいぜ」
謁見の間にやってきた、緑色の髪の毛で弓使いの騎士団員がセヴィストにそう言い、ルギーレとルディアはこれにてフールベリア城を後にするはずだった。
事情聴取で一部怪しまれたものの、ルディアの正体もルギーレがエスヴェテレス帝国からやってきたことも、彼が勇者パーティーを追放されたことも知られていなかったのは救いだった。
(俺、パーティーにいたころにこの皇帝に顔を合わせていたはずなんだけど……その他のメンバーってことで忘れられてたのかな?)
だったら少しショックだぜ……と思ってしまうルギーレだったが、そのショックの原因となった一行が次の瞬間に彼の目の前に現れた。




