60.論より証拠
「な、何だお前ら!?」
「てめぇらか……孤児院を襲ったってやつらは」
轟音とともにいきなり壁を破壊して、その壁の向こうから現れた謎の男。その後ろにはこれまた別の男女が二人。
酒を身体の中に入れていた連中は一気に酔いが醒めて、臨戦態勢をとった。
「知ってんだぞ、てめぇらが帝都で孤児院を襲ったってのはさ。それからその理由が逆恨みだったってこともよ!」
「……どこで誰から聞いた?」
「そんなのは誰でもいいだろ。それよりもお前ら、逆恨みで孤児院を襲うなんざクズのやることだからな。今日はその礼に来たってわけだよ」
そう言いながらレイグラードを構えるルギーレだが、相手は数の有利を自覚しているらしく一斉に同じく武器を構えた。
「ははは、おい聞いたかよ!! こいつらたった三人で乗り込んできたみたいだぜ!?」
「そうよねえ、こうなったら返り討ちにしてくれるまでよ!」
「……ん?」
しかし、タチの悪い連中のうちの一人がルギーレたちの陣営にいる一人の正体に気が付いた。
「お、おいまずいぞ。これは逃げた方がいい!!」
「は? 何でよ? 私たちが全員でかかればこんな三人……」
「ダメだ! 一人は……あの黒髪の男は両翼騎士団長のルザロだ!!」
貴族風の身なりをした男がルザロの正体を全員に伝えるが、数の有利によってアドレナリンが出てしまった他のメンバーはもう止められなかった。
「だったらその騎士団長ごとやってしまええええええっ!!」
連中のうちの一人が発したセリフをきっかけに、一斉に武器を手にして襲い掛かってくる。
もちろんルギーレたち三人も対抗するのだが、最初に動いたのはルザロだった。
「孤児院を襲った件についてもそうだが、どうしてここをねぐらにしているのか……城でたっぷりと話を聞かせてもらうぞっ!!」
襲いかかってきたうちの一人をあっけなく斬り捨て、騎士団長としての実力をいかんなく発揮する。
流れるようにスムーズなその動きから、なるべく囲まれないように自分の立ち位置を見極めつつ次々と敵を倒していく。
その一方で、ルギーレも自分に向かってくる敵をレイグラードの一振りで生み出した衝撃波で吹き飛ばした。
ドオンという衝撃と音が鉱山内部の岩に反響して音を立て、それによって一瞬動きを止めてしまった連中たちを、続けざまのルギーレの刃が襲う。
「ぐあっ!!」
「ぎゃあああっ!!」
更にはルディアも、遠くからその二人に狙いを定めている弓使いや魔術師を遠距離攻撃用の魔術で仕留める。
最初は圧倒的な戦力差があったはずなのに、気が付けば一人、また一人と減っていく自分たちの仲間を見て、残った連中は腰が引け始めていた。
「な、何なんだよこいつら……何なんだよぉ!?」
「こ、こうなったら逃げるぞ!!」
足止めをほかの仲間たちに任せる形で、残った数人の連中が逃げ出していく。
しかし先ほど開けられた壁の大穴と、もともとの出入り口として使われていた扉の方向ははルギーレたちに行く手を阻まれている構図なので、鉱山の中へと逃げるしかなかった。
「あっ、あいつらが逃げるわよ!!」
「逃がすかよっ!!」
残りの連中を倒したルギーレとルディアがその逃げて行った七人を追いかけようとしたが、ルザロから待ったがかかった。
「慌てるな!」
「え?」
「この先はどうせ行き止まりだ。出入口は向こう側とその……先ほどお前が開けたそこしかないからな。だから袋のネズミも同然だ」
なのでゆっくりと追い詰めればそれでいい、というルザロ。
なぜ彼はこんなに落ち着いているのだろうか? そもそもなぜ、両翼騎士団長である彼が花を供えていたのか?
その理由を説明してほしい、とルギーレとルディアは頼んでみる。
「それはまあ……構わないが、お前たちは先ほど逃げて行った連中を全員倒して捕まえたら、俺と一緒に城まで来てもらうぞ」
「その前にギルドにだけ報告させてもらえないですか? さっき言った通り一応これ、俺とルディアが請け負ったギルドからの依頼なんですよ」
「それだったら騎士団を通じてギルドに連絡をさせてもらおう。……ああ、心配するな。何も騎士団が手柄を横取りしようとかではないからな」
そういうとルザロは魔術通信用の魔晶石を懐から取り出し、騎士団に応援を要請しつつ歩き始めた。
同時に、ルギーレはギルドではなくまずはディレーディたちに今までのことを報告しなければならなくなった。
「……はい、そういうわけでして……ええ、終わったら帝都のフールベリア城に向かいます」
『だんだんややこしくなり始めたな。陛下には私から報告しておくが、くれぐれも問題を起こすなよ。その剣についてもファルス帝国の手に渡らないように動け』
「わかりました。それじゃあとはよろしくお願いします、サイヴェル団長」
連絡が終わり、残りの連中を倒しに向かう三人。
しかしこの時、ルギーレとルディアはここまでの一連の流れのインパクトがいろいろと強すぎてあることをすっかり忘れていたのだった。




