611.地上の惨状、地上に参上
無事にセルフォンを助け出すことに成功したルギーレだったが、戦いはまだ終わっていない。
ドラゴンといえどさすがに地上の様子をこの目で見られはしないので、ルギーレはアサドールとセルフォンを引き連れて全速力で地上へと向かっていく。
「無事でいてくれるといいが……」
『いてくれなければ困る。そのために吾輩たちがお主に新たな力を与えたのだからな』
『そうだな。某たちのリーダーでもあるイークヴェスも一緒にいるんだから、それだけでも負ける要素が見当たらない』
そうはいっても、それはこの世界の中だけでの話。
自分たちとはまた違う世界からやってきているあのディルクに対しては、ドラゴンたちでも手がつけられないほどの戦闘力を持っていてもおかしくはないかもしれない。
それでも自分たちの力を信じて戦い、最終的にはディルクが持っているレイグラードを破壊することが目的である。
その目的を達成するべく、時々現れる敵を倒しながら進んでいたルギーレたちはようやく地上へと戻ってきたのだが、そこには衝撃の光景が広がっていた。
『うっ……!?』
『くそっ、遅かったか!!』
目の前に広がるは、すでに満身創痍を通り越して極限状態に陥っているメンバーたちの姿だった。
ドラゴンたちは全員が元の姿へと戻っているが苦戦しており、人間たちはディルクに対して近づくことすらもできない様子になっている。
そしてその全員を相手にしているディルクはといえば、まるで何事もなかったかのように傷一つ、汚れ一ヶ所もついていない状態で相変わらずレイグラードを振り回して戦っていたのだ。
異世界の人間が異世界の武器を振り回すと、この世界を看視している存在が全て集まったとしてもどうすることもできないらしい。
それほどまでに力の差が歴然の状況を目の当たりにしたルギーレたちは、まずは一刻も早くディルクを倒すしかないと判断。
だが、すでにドラゴンたちが束になっても敵わないのを見せつけられてしまっているがゆえに、ルギーレたちは立ち向かうのを無意識のうちにためらってしまう。
「嘘だろ……あんなにあいつ強いのかよ!?」
『くっこれでは吾輩たちでも手がつけられないぞ!!』
『絶望だな……』
地下で獣人たちを一掃して、エターナルソードの威力の手応えを感じた時の勢いもすでに吹っ飛んでしまったルギーレたちだったが、そんな彼らの目の前で突如大爆発が起こった。
「うわっ!?」
『うっ、魔力を溜めて爆発させたのか!!』
こんな状況でも、学者であるがゆえに分析は怠らないアサドール。
空気中の一箇所に魔力を貯めて、そこに別の魔力を送り込んで爆発させることによって大きなダメージを与えることができるその攻撃により、ルギーレたちの目の前に一人の人間が吹っ飛んできた。
それは……。
「う……うっ……」
「る、ルディア!!」
爆発によって吹き飛ばされたルディアは、魔術防壁を展開していたはずなのにまるでそれを無効化でもされてしまったかのような衝撃を受けて、ここまで吹っ飛ばされてきたのである。
目の前に横たわる彼女に駆け寄るルギーレたち。そして近づいてくる足音に気がついたルディアだが、声を出すのもやっとという状態だった。
「う……る、ルギーレ?」
「酷いケガだ。喋るなよ!!」
『今、某が回復魔術をかけるぞ!!』
セルフォン、そしてアサドールもそこに加わって回復魔術をかけてやるが、かなり傷が深いので予断を許さない状況になっている。
だがそんな状況においても、彼女はルギーレに何とか伝えたいことがあった。
「る、るぎーれ……」
「だから喋るなって!!」
「う、ううん……あの、男は……危険だから!! でもきっと、あなたなら勝てると思う……」
それが私の予知だから。
そう言い残し、ルディアは目を閉じたまま動かなくなってしまった。
「あ……ああ……!?」
『まずいっ!! おいアサドール、とにかく彼女をここから離して手当てだ!!』
『わかった!!』
意識を失ってしまったルディアを連れて、セルフォンはこの場から離れていく。
そしてアサドールもそれに続こうとしたのだが、その前にルギーレに一言だけ告げる。
『ルギーレ!!』
「な、何だよ?」
『あの男は異世界人で、異世界で創られた武器を持っている。だからそこにはこちらの世界で生まれ育ったお主と、この世界で創られた武器をぶつけるんだ!!』
そうすれば彼女の言う通りお主が勝てるかもしれないからな、と言い残し、ルディアの治療を行なうべくアサドールもセルフォンの後を追いかけていった。
残されたルギーレは、まだ先ほどの薬の効果が残っていることを体で実感しながら、ゆっくりとエターナルソードを構えて歩き出した。
……全てに決着をつけるために。




