59.両翼騎士団団長ルザロ
ルザロの要求に、ルギーレは思わず自分の腰のレイグラードの柄を握った。
そして少し後ずさりながら嫌そうに答える。
「何で見せなきゃいけないんですか?」
「その剣から発せられている魔力が恐ろしく強いものだとわかるからだ。魔術があまり使えない俺ですらもわかるぐらいの強い気配を感じる。そんなものをどうして冒険者のお前が持っているのか非常に興味があるからだ」
嫌だというのであれば、奪い取ってでも見せてもらうぞと言いながらじりじりと近づいてくるルザロ。
しかし、ルギーレも今はエスヴェテレス帝国の一員であるがゆえに簡単に見せるわけにはいかない。
(くそっ……まさかこんな場所でこんなに身分の高い人に会っちまうなんて、なんてついてねえんだよ俺は!)
「見せないというのであれば、今言った通り力ずくででも奪い取らせてもらうが」
「いや、あのですねその……ちょっといろいろこちらにも事情がありましてですね」
「事情だと?」
「ええ、ですから今すぐにってわけにはいかないんですよ。ちゃんと手順を踏んでからじゃないと……はは……」
だが、両翼騎士団の団長はそれを許してはくれないようだ。
「だったらすぐに見せてくれればいい。そうやって事情だの手順だのと訳の分からないことを言っているから俺だってますます怪しむんだぞ」
「その気持ちはわかりますけども……」
「ちょっと待ってくださいルザロさん、私たちは別に見せたくはないって言っているわけじゃありません」
そこで二人の間に割って入ったのがルディアだった。
彼女はルギーレの前に立ちはだかりつつ、ルザロに対してこう言い始めた。
「だったらその目で、この剣がどんなものかを確かめてみるのはいかがですか?」
「確かめるだと?」
「はい。私たちがここに来たのは、さっきも言いました通りこの鉱山跡の中をねぐらにしていると情報を手に入れた、タチの悪い連中を壊滅させるために来たんです。そうなれば嫌でもこの剣を抜いて戦わなくてはいけなくなるでしょう」
ならばここでああだこうだと言い合うよりも、実際にこの剣を使ってルギーレがどう戦うのかを見てもらった方が納得するだろうし、魔力が強い理由に説得力も生まれるはずだと言うルディア。
それを聞き、ルザロはふむと考えこんでからいぶかしげな顔をする。
「……ん? ちょっと待て。この鉱山跡にそんな連中が出入りしているなんて俺は聞いたことがないがな」
「私たちもついさっき、旅人からその話を聞いたばかりなんです。その旅人はそのままどこかに行ってしまったんで名前も素性も何もかもわからないんですけど、とりあえずここに来たんですよ」
何でかはわからないが、あの医者の情報はこのルザロを始めとする部外者にはなるべく言わない方がいい気がする。
そう思ったルディアはとっさにそうごまかしたものの、ルザロの目つきが急に鋭くなった。
「そんな馬鹿な。この場所にはたまに騎士団でも見回りをさせているが、そんな不埒な輩が出入りしているなんて聞いたことがなかったがな?」
「だから言ってるじゃないですか、私たちもその旅人から聞いた話でしかありませんって。もしいなかったら私たちはさっさとここから引き上げます」
「ちょ、おいおいおい!?」
だからさっさと中に行きましょう、とルギーレの腕を引っ張ってルディアは出入り口を探し始める。
その後ろから渋々といった様子でルザロがついてくるが、レイグラードによって強化されたルギーレの聴力がある音を捉えることに成功した。
「……あ、ちょっとストップ!」
「え?」
「この壁の向こうから話し声みたいなのが聞こえるんだよ」
そう言いながらそばの石造りの壁に耳を当て、向こう側の様子を探り始めるルギーレ。
その様子を見ているルザロは腕を組みながら首をかしげる。
「俺にはさっぱり何も聞こえんがな」
「いいえ、俺にはわかります。この壁の向こう側に誰かがいるんです。それも一人二人じゃなくてかなりの大人数がね」
あの医者が言っていた通り、タチの悪いその連中は全部で三十人ほどらしいのだが、そいつらをいっぺんに相手にするなら奇襲作戦をかけて一気につぶしてしまうのがいいかもしれない。
見た感じ出入口はなさそうだし、中からその連中が出てくるまで待っていたら日が暮れてしまうかもしれないので、いろいろと用意周到に準備をするルギーレらしくない行動に出る。
「よし、この壁を今からぶち壊すぞ」
「えっ?」
「うおらあああああああああっ!!」
レイグラードを腰の鞘から引き抜いたルギーレは雄たけびを上げ、紫のオーラを身にまといながら壁に向かってその刃を振り下ろす。
その威力は予想以上であり、ギィン!! とはじける音がしたかと思った次の瞬間には、ガラガラと音を立てて壁がスッパリと切断されて崩れ落ちていった。
そしてその厚い壁の向こう側には、ルギーレが言った通り何人もの男女たちが派手に酒盛りや賭け事に興じている光景があった。




