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58.思わぬ先客

 そんなことが起こっているとは知る由もないその二人は、帝都ミクトランザを出てそのまま東へ向かって歩き、目的地である鉱山跡へとたどり着いた。

 帝都からの乗り合い馬車でおよそ二時間かけてここまで来たので、乗り込む前に身体を休めつつ、鉱山跡がどんなものかを少し外から眺めてみる。


「かなりでけぇな、ここ」

「そうね。馬車の御者に聞いたら落盤事故がかなり大きかったっていうし、その後にすぐ閉鎖されたみたいだけど、それさえ起きなかったらまだまだ現役だったんでしょうね」


 石で造られている鉱山の設備はそのまま残されているものの、所々に草が生い茂っており自然に帰ろうとしている状態だ。

 だが、その周辺にはたまにやってくる人間たちによって供えられている花の数々がある。

 これも馬車の御者から聞いた話なのだが、やはり落盤事故で亡くなった人間たちの遺族が供養のために、帝都を始め様々な町や村からやってきてこうして供え物をしていくのだという。

 ただし、食べ物や飲み物を置いていくのは魔物たちが食い荒らす危険性があるので禁止となっているらしい。


「それを考えると、こういう場所にまさか人間たちが住み着いているなんて思いやしねえだろうなあ」

「そうよねえ。死者の心を踏みにじるような連中がここに出入りしているってなると、その手掛かりがどこかにあるんじゃないかしら?」

「そうだな。足跡とかあるかもしれねえから探してみようぜ」


 戦術に関しては涙が出るほどにお粗末ではあるものの、パーティーメンバーの下働きで事前準備を怠らない性格のルギーレのその一言で、連中が周囲の様子からどこを出入り口にしているのかを確認する運びとなった。

 曲線を描いて山を取り囲む形で作られているこの施設は、必然的に曲がりながら歩くことになるので山に沿って進む二人。

 ……なのだが、この二人よりも先にここに来ていた人間が一人いたのだ。


「……おい、誰かいるぞ?」

「あら本当ね。誰かしら?」


 そそくさと、その人物から見えない位置に隠れる二人。

 今の二人がいる場所からは斜め後ろの姿しか見えないが、剣帯で腰の片側に下げている二振りのロングソードと、妙に軽装なその出で立ちを見る限りでは冒険者なのか近所の人間なのかという予想しかできない。

 しかし、ルディアはその人間をどこかで見たことがあるような気がしていた。


「あの人……昔どこかで見たような記憶があるんだけど……」

「そうなのか?」

「人違いかもしれないんだけどね。でも、なんかどこかで見たような見てないような……」


 ルディアが首を傾げる一方で、その人物は片手に持っている花束をそっと鉱山に向かって供える。

 どうやらここの落盤事故で亡くなってしまった遺族のうちの一人らしいが、彼の邪魔をして確認作業を続けるわけにもいかないので、今はこの場所から離れて後でもう一度確認しようとルディアに耳打ちするルギーレ。

 彼女もまたそれに同意し、そっと踵を返してこの場を離れようとしたその時だった。


「……さて、帰る前にそこの陰に隠れている二人、さっさと出てこい」

「っ!?」

「え、気づかれてたのかよ……!?」


 いきなり声が聞こえてきたその方向に目を向けると、そこには油断なくロングソードの柄に手を添えながら近づいてくるその男の姿があった。

 黒い髪の毛を少し伸ばしている、ルギーレやルディアよりも年上でおよそ三十歳前後であろうと思われる顔立ちと雰囲気。

 だが、その雰囲気の中には恐ろしいほどの圧力と鋭い眼光があった。

 まるで空中から地上の獲物を狙う鷹のように感じられるその視線は、まっすぐに二人のいる方向を捉えている。

 いったい彼が何者なのかすらわからない状況ではあるが、気づかれているなら仕方がないとばかりに二人はその男の前に出た。

 だが、その瞬間その男が一瞬たじろいだのがわかった。


「……貴様ら、何者だ?」

「え、えっと俺たちはギルドからの依頼を受けてこの鉱山跡にいるタチの悪い連中を倒しに来たんですけど……あの、あなたは?」

「冒険者か。まずはそちらから名前を名乗れ。俺はそれから身分を明かす」


 冷たい雰囲気のする口調で問いかけるその男に、もっと詳しく自己紹介をする二人。


「俺はルギーレ。最近Cランクに上がったばかりの冒険者です」

「私も冒険者です。名前はルディアです」

「ルギーレとルディアか。俺はファルス帝国両翼騎士団団長のルザロだ」

「り、両翼騎士団……!?」


 それはルギーレもルディアも聞いたことがあった。

 両翼騎士団といえば、ファルス帝国騎士団でも選ばれた一握りの団員たちによって構成されているエリート中のエリートだったからだ。

 そしてまさか、そのトップに位置している団長が目の前にいるなんて。

 ルギーレもルディアも驚きを隠せないのだが、それ以上に驚きを隠せないのはルザロの方だった。


「ああ、そうだ。それよりも気になるんだが……ルギーレといったな。お前が腰につけているその赤い柄の剣から感じる恐ろしい魔力について教えてもらおうか?」

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