595.上でも偽者
地下でそんな動きが起こっているころ、上に向かっている「本物の」ルギーレが率いている部隊は九十階台に突入していた。
だが、やはりニルスやディルクが全くの策もなしに通してくれるとは思っていなかった通りで、こちらにも大量の偽者が出現していた……。
そしてその偽者たちを生み出した男は、もうすぐで魔力の充填が完了すると内心でほくそ笑みながら最上階でその光景を水晶で見ていた。
(地下のルギーレの偽者集団、そしてこちらの偽者集団もよくやってくれています。やはり色々と記録を取っておいて正解でしたね)
ニルスが心の中でそう思っている通り、やっと九十階台まで到達したルギーレたちは後残り十階分であると、少しは心に余裕が生まれた。
だがその心のゆとりを一気に打ち砕かれてしまうほどの衝撃的な光景が、九十五階にある夜空を楽しめるダンスホールで待っていた。
「うっわあああああっ!!」
『落ち着け!! 落ち着いて相手すれば我らにとってはどうってことはない!!』
『んなこと言ったってよぉ!!』
今のルギーレたちの前に立ちはだかるのは、淡い金髪に脚まで隠れるほどの長いローブを着込み、空中から強力な魔術を使って攻撃してくる大勢の女……そう、ルディアの偽者集団だった。
ルギーレの相棒的存在である彼女と自分の部下たちが接触する機会が何度もあったため、ニルスは彼女の体型や使える魔術など様々な記録を取って、ルギーレの偽者を創る過程で一緒に創っていたのだ。
そしてそれをこのダンスホールで一気にルギーレたちに襲撃させ、一気に叩き潰す作戦である。
長方形の横に長い、やや煤けている赤い絨毯や黄色く変色している白い壁が特徴的なこの場所では、散開して戦うのは問題なかった。
だがドラゴンたちが元の姿に戻るだけの天井の高さはない上に、ここで全員がドラゴンになれたとしても今度は床が崩落してしまう可能性がある。
もっと言ってしまえばドラゴンたちが元の姿に戻ることによって、ルディアの偽者たちの大きな的になってしまう可能性があるので、ここは戻らずに戦うのが正解だった。
【しかし、俺様たちが本来の姿に戻れないっていっても、こいつらは浮かんでっから全然攻撃が届きゃしねえ!!】
そう、戻れないということはそれだけ高さが足りないのだ。
天井の高さが本当に微妙なものなので、ドラゴンには戻れずかといって武器も手を伸ばしても届きそうで届かない、イライラする距離なのだから。
その距離感をルディアの偽者たちはわかっているらしく、ルギーレたちの攻撃範囲に入らないようにしながら空中から魔術と、本来彼女が使うはずのない弓矢で攻撃をしてくる。
(最初に見た時は驚いたが、こんなに大量にルディアと瓜二つの存在がいるはずがない!!)
だから偽者だとすぐに見破ったルギーレたちだが、このダンスホールを制圧しなければ上に進めない。
今までの獣人たちの集団やその下で出会った番人なども手強かったが、さすがにルディアをこうして多数相手に戦ったことなんて初めてだ。
他のメンバーたちは、空中に武器が届きにくいタリヴァルやシュヴィリスは魔術を中心に戦っている。
そしてエルヴェダーの槍のように何とか武器が届く者は、少しでも魔術の攻撃から逃れるべく対処していた。
ルギーレはエターナルソードの威力を頼りにして、偽ルディアたちを次々と倒していた。
しかし……。
「どうなっているんだ? 全然数が減らないぞ!?」
『うーん、これはどうやらどこかから無限に生み出されているとかじゃないの?』
「ええっ、それではキリがないでしょう!!」
偽ルディアたちが地面に近づいてきた時にレイグラードとエターナルソードを使って上手く倒していたルギーレが、自分の感じた疑問に答えてくれるシュヴィリス。
そしてその答えに、魔術を最大限に駆使しながら近くで戦っていた「本物の」ルディアとともに愕然とした表情になる。
これはどうやら、その発生源を止めなければ戦いは終わらないようだ。
「おい誰か、このルディアたちが出てきているような場所を探ってくれないか!?」
「それなら私にお任せください」
魔術の専門家であるルディアが、偽ルディアたちの攻撃の隙を見計らって探査魔術を発動させる。
そして得られた結果は、意外とこの近くにその発生源があるというものだった。
「……九十階に戻りましょう。どうやらそこにこの偽者の私たちが生み出される原因となっているものがあるようです!!」




