590.現れたあの人間
そのころ、何とか自爆装置を解除することに成功したアサドールたちは、魔力砲の起動をするべくああだこうだと試している最中だった。
それは良かったのだが、なにぶん長い間ここで封印されていた魔力砲だったために、起動の仕方などは色々と準備が必要になってくる。
『おいセバクター、二階の機材室からこの部品の替えを取ってきてくれ』
「わかった」
劣化した部品も取り替えなければいけないことが判明し、いろいろと準備をしなければならないとなればそれこそもっと人手が欲しいところである。
だがあいにく、地下にいるメンバー全員がこの地下を走り回っている状況なのでそんな贅沢も言っていられない。
(えーっと……この部品は……こっちか)
機材室から指示された多数の部品を集めて、また地下まで運ばなければならないセバクター。
だがその時、不意に自分の背後に人の気配を感じたのと、人影が自分の背中から覆い被さって視界が暗めになったので、何事かと違和感を覚えて振り向く。
(……ん?)
その振り返ったセバクターの目に飛び込んできたのは、明らかに殺意を剥き出しにしてロングソードを振りかぶる何者かの姿だった。
それでも普段から冷静沈着なセバクターは、異世界の騎士団員の名に恥じないとっさの判断で素早く地面に身を転がしてロングソードの突き攻撃を回避した。
(な……っ!?)
この地下の敵は一掃したはずだったのだが、どこかにまだ敵が隠れていたのだろうか。
もしくは異世界へ繋がる空間の裂け目とやらを通って、新しい獣人たちがやってきたのだろうか?
立ち上がりつつ素早くロングソードを構えて頭の中でそう考えるセバクターだったが、目の前に対峙したその奇襲相手の姿を見て絶句してしまう。
「………おい、どういうつもりだ?」
「……」
目の前にいるその人物に話しかけても全く反応してくれないどころか、素早くロングソードを構えて追撃に移ってくる。
その攻撃を自分もロングソードを使って上手く弾き、防御して反撃するセバクターだが、相手の凶刃はすぐに追ってくるので一瞬たりとも気が抜けない状況が続く。
そして何より、その相手の正体がまさかの人物だったことによって反撃に徹しきれずどうしても攻めあぐねるセバクター。
(何なんだ、一体何だというのだ!?)
その相手に対して疑問と驚きと戸惑いの感情が混じっており、それが気の迷いとなってロングソードの軌道にブレが生じる。
相手は騎士団員ではないにしても、今まで自分たちと一緒に戦ってきた中で確かに成長していたし、何よりも持っている武器が武器なだけに非常に危険な相手なのは間違いない。
そして今まで一緒に戦ってきた相手に刃を向けるのは気が引けるものの、相手は素早い攻撃でセバクターを圧倒しにかかる。
「……」
「くっ、ううっ!?」
相手はセバクターのロングソードの軌道をキチンと読んでいるらしく、的確にその隙をついて反撃に転じる。
しかもその狙いを定める場所はセバクターの目や喉といった急所ばかりなので、セバクターを殺すことに対して一切の迷いがないようである。
しかもその相手の強さとは別に、セバクターにとってこの機材室は不利な条件をさらに増やす場所だった。
「……!!」
「……」
「ぐほっ!?」
いろいろな部品が所狭しと山積みになっているこの場所では、セバクターの振るうロングソードよりも相手の振るうロングソードの方が取り回しが利く。
ロングソードを突き出してなるべく相手を近寄らせないように対抗していたセバクターだったが、そのロングソードが相手に弾かれた結果、積み上げられていた部品の山に突き刺さってしまう。
そこを相手は見逃さず、セバクターの腹に強烈な前蹴りをお見舞いした。
セバクターはその衝撃で後ろに吹っ飛ばされ、後ろに置いてあった細かい部品がたくさん詰め込まれている箱がいくつも積み上げられている山に背中から当たってしまった。
箱の山がそれで安定を失って崩れ、バラバラと彼の上に降り注いでいく。
「ぐう……っ!!」
何とか生き埋め状態になる前に脱出したセバクターだったが、目の前に現れるのはその相手の無慈悲さを表しているかのような全身真っ黒の鎧。
この鎧を着こんでいる相手の手には、淡い光を放つ伝説のロングソードが握られている。
その相手を見上げて、答えが返ってこないかもしれないと思いながらもセバクターは今の自分の気持ちをぶつけてみた。
「なぜだ……なぜこんなことをするんだ、ルギーレ!?」




