589.侵入者対策
ドラゴンたちの言っていた通り、ルギーレたちの行く手を多数の侵入者対策の罠が待ち受けていた。
まずは正規の手順を踏んでから進まなければ、いきなり地面が動き出すのにはメンバー全員が驚きを隠せなかった。
「こいつらが先に動かしてたのかよ!?」
『どうもそうらしいぜ。俺様たちが来ることを下の奴らから報告されたみたいだな。じゃなきゃこうして床が動いてねえだろーよ』
床が左右に不規則に動いているため、思うように攻撃が当たらない。
それはルギーレたちだけではなく敵たちもそうなのだが、そうなると思わぬところで攻撃を喰らいそうになったり、逆に敵の攻撃が当たると思っても動く床によって武器の軌道がズラされたりと良い面も悪い面もある。
もちろん、床が動いてないのが一番であることに変わりはないのだが。
「はぁ、ようやく抜けましたね……」
『だけど次も危ない箇所が続く。油断するなよ』
動く床地帯を抜けて一息つくルディアだったが、その横からタリヴァルの声がかかる。
そんな彼の目の前には、手すりも何もない両側が奈落に向かって真っ逆さまに落ちる構造になっている一本橋の通路があった。
最初と最後の方こそ大人数で広がって待機できる場所になっているにしろ、反対側の島までたどり着くためには人が一人しか通れないような幅しかないその通路を渡らなければならない構造だった。
そんな通路の状態を見て、ルディアが思わず本音を漏らした。
「普通に通路を造れば良いと思うのですが、これもここの住民独自の侵入者対策なのでしょうか?」
『ああ。しかし、元々はもちろんこういう場所ではない。侵入者対策の罠が作動していなければ普通に奈落に落ちるような構造にはなっていないからな』
普通に造られているはずの通路が、こうして奈落の底に通じる危険な場所に変貌しているのは、やはりニルスやディルクが関係しているとしか思えない。
そんなやり取りをしている間にも、向こうの島になっている次の階層への階段の上からは、次々に獣人たちが降りてきているのが見える。
そしてこの通路では、一本橋状態になっていることによってどうしても敵との戦闘が避けられない状態になってしまうのがきついところだ。
『オラオラオラアッ、死にたくなかったらどきやがれえっ!!』
「なるほどな……」
こういった狭い場所で敵と対峙することになれば、より攻撃できる距離の長いエルヴェダーの槍がその威力を存分に発揮してくれる。
さらにいえば、その槍に魔術で生み出した炎を纏わせているだけあって敵がエルヴェダーに迂闊に近寄ることができなくなってしまっている。
だが、敵も人間とはまた違う獣人という存在ばかりなので、こうした足場のない場所では翼を持っている鳥人たちが次々に空中から襲いかかってきているのだ。
『くっ!!』
『我らの出番だな』
通路の高さと幅を考えると、ドラゴンたちは元の姿に戻ることは無理な話なのだが、だからといってエルヴェダーにばかり任せてもいられない。
一本橋の上でエルヴェダーの後ろからどんどん詰めていく戦い方などはできないので、そこは自分たちの方に向かってくる鳥人たちを次々に叩き落として奈落の底へと放り込んでいく。
ドラゴンたちだけではなく、ルディアの魔術も大活躍するのはある意味当然といえば当然なのだが、エルヴェダーがジリジリと交代しているのがエルガーには見えた。
「まずい、エルヴェダーが押されている」
『……わかった。それなら我に交代だ!!』
このままでは誰かが向こう側に渡らなければ、いつまで経っても一本橋の上での攻防が続き、しまいには数の差で押し切られてしまってもおかしくはないだろう。
それを考えると、自分が一気にここで押し切ってしまうのが得策だと考えたタリヴァルがエルヴェダーと交代し、自慢の二本のレイピアで一気に進み始める。
『メテオ・レイ!!』
魔術によって空中から光の弾を地上に降り注がせる全体攻撃で、向こう岸にいる敵たちも倒しつつ一気に押し切っていく。
その気になればドラゴンの腕力で押し切ることも可能だったのだが、自分まで一緒に落ちてしまっては元も子もないので、ここは素直に押し切っていくことで何とか一本橋地帯を抜けたのであった。
『ふー、やっぱりタリヴァルはすごいねえ』
『当然だ。だがまだ最上階までは二十階弱もあるのだから、侵入者対策の罠を突破しつつ進むぞ』
しかし、この時の一行は地下で起こっている異常事態について知る由もなかったのである。




